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人工衛星の設計・製造・管理をしていた宇宙のシステム・機械設計者が人工衛星の機械システムや宇宙ブログ的なこと、そして、横道に反れたことを覚え書き程度に残していく設計技術者や管理者、営業向けブログ

人工衛星と地上局との機能配分と総合システムの役割

人工衛星と地上局の機能配分の一例を考えてみる

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人工衛星を制御するのに、必要なものがいくつかありますが、アンテナのある地上局が必須となるでしょう。

 

データを受信するだけであれば、地上局の必要はないのですが、人工衛星を制御するために電波を送信するには必要になります。

 

そんな地上局ですが、人工衛星の地上局には、人工衛星の制御をするだけではなく、人工衛星から送られてくるデータを補完する機能を持っている場合があります。

 

今回は、人工衛星と地上局の機能分配についてまとめていきます。

 

前提として高頻度観測について考えてみる

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光学観測衛星の高頻度の観測といわれると、どの程度の回数を想像されるでしょうか?

 

観測衛星でいうと、静止軌道上にある2015年に打上げられた気象観測衛星のひまわり8号は最大2.5分に1回のペースで撮影しています。

 

 

観測頻度の制限として、次のようなものがあります。

  • 観測機器が発熱することで画質感度が落ちる熱的制約
  • 観測機器を動作電力不足による電力制約
  • 観測機器の指向性が撮影地点に向けることが間に合わない指向性の制約
  • 取得した撮影データを人工衛星内部に保存しておく記録媒体の容量の制約
  • 人工衛星の状態を確認するためのデータを地上局に送信する運用計画上の制約
  • 人工衛星の運用計画を人工衛星に送り、指示するため運用制約
  • 運用に使用する地上局の配置数により変動する人工衛星との交信タイミングの制約

などがあります。

 

このような様々な制約の中で、静止軌道の場合、いくつかの制限が緩和されますが、ひまわりのような大型衛星は2.5分に1回のハイペースの観測頻度になっています。

 

もちろん、最初からこのようなハイペースの観測頻度ではありませんでした。

 

1978年に運用を開始したひまわり(初号機)及び1981年に運用を開始したひまわり2号は、3時間ごとにフルディスク観測を1日に8回、風計算のためのフルディスク観測を6回行い、1日で合計14回の観測を行っていました。

フルディスク観測:衛星から見える地球全体の観測

風計算のためのフルディスク観測:雲の動きを捉え上空の風を算出するための観測

 

2005年に運用を開始したひまわり6号では、一時間ごとのフルディスク観測に加え、1日32回のハーフディスク観測を開始し、日本周辺を含む北半球では30分に1回の観測が得られるようになりました。

北半球ハーフディスク観測:フルディスクの北側半分の観測

 

一方で、静止軌道よりも地球に近い低軌道では、1台の人工衛星でそこまで高頻度の観測をすることはできません。

 

低軌道では太陽同期準回帰軌道と呼ばれる1日に地球を10数回北極近傍と南極近傍を通ります。

 

地上局の配置場所や回帰日数にもよるのですが、日本の場合ですと1日でだいたい2回以上、日本の同じ地上局と交信することができます。

 

近年盛り上がっている小型の光学観測衛星は、いくつかの制約の中で、1日に1回以上の画像データの取得ができるようになってきました。

 

もちろん、制約があるため地球に向けた姿勢をあまり変えずに行う運用であったり、電力制約により実は1日充電しなければいけなかったりという制限が隠されているのかもしれません。

 

さらにいうと、1回の観測では1枚の画像を取得するのではなく、連続で撮影したり、パノラマ写真のように一度に長い画像を取得する場合があるため、1回の観測はかなりのデータ量を蓄積させたり、電力を使用したりすることになります。

 

人工衛星と地上局の機能配分

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Credits: NASA

https://images.nasa.gov/details-MSFC-1601978

 

さて、撮影頻度について書いているうちに横道にずれてしまいましたが、改めて人工衛星と地上局の機能配分を実施していきましょう。

 

①-1『観測できること』

①-2-1『観測位置を認識できること』

①-2-2『人工衛星の軌道上位置を認識できること』

①-2-3『観測姿勢への移行及び元の姿勢に移行できること』

 

人工衛星が指定した特定の位置を観測する場合に必要な機能であるため、すべて人工衛星側に機能配分されます。

 

②-1『観測によって取得した観測データを人工衛星内で一時記録できること』

②-2『一次記録された観測データを地上に向けて伝送※できること』

②-3『地上に伝送された観測データを地上設備で記録できること』

②-4『地上設備に記録した観測データをユーザーに配布できること』

※伝送は通信に近い言葉で、衛星通信だとミッションデータ(画像データ)に限らずデータを送受信する場合に使用され、データ伝送と称することが多いです。英語では、transmitと称されます。一方で、交信であったり通信、ビーコンはcommunicationとされることが多いです。個人的には使い易い方を使えばという感じだが組織によって違うと思われます。

 

観測データは人工衛星で取得し、リアルタイムでの伝送とするか人工衛星の中に記録することになります。観測データはミッションデータやプロダクトとも呼ばれることがあります。

データを取得した後に人工衛星のアンテナによって地上に向けて伝送していきます。

ここまでが人工衛星の機能です。

 

電波を受信し、伝送された観測データを地上設備で記録します。地上設備に記録した観測データをユーザーに配布します。

ユーザーといっても、観測データの生データでは読み取れないため、情報を画像の加工を行うユーザーであったり、受信した地上設備での画像を加工したりと、数段階画像処理を行うなど、ユーザーの種類によって変わります。

ここからが地上設備での機能です。

 

③-1『あらかじめ定められたユーザから観測要求を取得できること』

③-2『観測要求に基き、パス制約を加味して、観測運用計画を立案できること。

③-3『観測運用計画に基づいた観測運用を実施できること』

③-4『観測運用計画に基づき、観測データをユーザーに配布できること』

 

時系列的には、先の①②より先に実行しそうな機能です。

人工衛星は受動的には動かないため、ユーザーから観測要求を取得し、いつ頃に実行できるか、現在の運用計画との優先順位の検討、指向制御の挙動の情報などのパス制約を加味して計画を立てます。

先に述べているパス制約というのが観測頻度の制限に当たります。地上局側からでは、1つの観測タイミングを1パスと呼ぶため、パス制約と呼んでいます。

また、ここでの観測運用計画は、データを取得することに限らず、データの画像処理を行い、ユーザーに配布するまでも計画抱けることになります。広義的な観測運用計画となります。

この観測運用計画が、どこの範囲を指しているのか、定義し、提示しておかないと、多くの勘違いを生むため注意が必要になります。

 

個々での機能は、③-3と③-4は人工衛星側と地上局側の両方で持つための機能になります。

 

④-1『人工衛星の軌道上位置を認識できること』

④-2『人工衛星の軌道上位置に基き衛星軌道を認識できること』

④-3『現在の衛星軌道に基づき、保持すべき衛星軌道に応じた軌道変更計画を実施できること』

④-4『軌道変更計画に基づき軌道変更できること』

④-5『軌道変更実施後の評価ができ、必要に応じて修正のための軌道変更を実施できること』

 

ここでは運用時のミッションのためだけではなく、待機状態にある人工衛星に必要な機能を示しています。

④-2~④-5は人工衛星と地上局の両方に機能として持つことが多いです。ただし、④-3~④-5は人工衛星に軌道制御の機能が搭載されている場合に限ります。人工衛星には、姿勢制御機能を持つ衛星は大半を占めますが、軌道制御機能まで持つ特に小型衛星、超小型衛星の場合は、数が減ります。ロケット打上げ時の軌道を維持し、地球の重力や大気により落下していきます。

小型衛星や超小型衛星は、大きさに制限があるためいわゆる推進系と言われる軌道制御機能を持つことが難しくなります。中には、人工衛星の向きを変更する能動的な姿勢制御を行わず、強磁石などにより受動的な姿勢制御を行い、姿勢制御機器を搭載しないこともあります。

 

⑤-1『観測衛星としての機能を満足させるべき機器を搭載できること』

⑤-2『搭載される全ての機器の振動環境を保持できること』

⑤-3-1『搭載機器の熱環境を維持できる姿勢を保持できること』

⑤-3-2『搭載機器の発熱及び外部からの熱入力と、人工衛星からの放熱バランスを保持できること』

⑤-4-1『搭載機器に必要な電力を供給できること』

⑤-4-2『搭載機器に必要な電力を供給するために衛星姿勢を維持できること』

⑤-5-1『衛星搭載機器と地上設備間で通信できること』

 

ここでは観測データを取得するというミッションから離れてしまいますが、人工衛星の運用を考えた時には必須な項目があげられています。

⑤-5-1は、人工衛星と地上局の両方の機能になりますが、それ以外は人工衛星の機能になります。

人工衛星として軌道上で動くための機能が明示されています。

 

人工衛星と地上局の機能配分にみる総合システム

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Credits: NASA

https://images.nasa.gov/details-20040421_exp9_04

 

だいたいの人工衛星と地上局の持つ機能を知ることができたのではないでしょうか。

 

この二つのシステムのうちに、いくつかの人工衛星側と地上局側両方持つ機能があります。

 

お互いの情報をインターフェースを介してやり取りするだけではなく、お互いに補完していることが見て取れます。

 

これらを衛星の統合システムあるいは衛星の総合システムと呼ぶことが多いようです。

 

大型衛星や商用衛星にはよくあるのですが、人工衛星開発側と地上局開発側では開発体制が違うことが多いのです。

 

お互いに同じ機能を持ち、実は無駄であったり、人工衛星と地上局のソフトウェアの相性が悪いこともあります。

 

人工衛星と地上局は単なるインターフェース担当を立てて進めていくことが多かったのですが、より効率的で、目的に合った、コストダウンを目標として、初期運用時の不具合を減らすなどなどを理由として人工衛星と地上局をそれぞれサブシステムとして管理する総合システムという開発方法もあります。

 

現在のように、小型衛星や超小型衛星を始め、民間業者管理の人工衛星が増える前は、人工衛星と地上局をそれぞれ別々の業者によって開発されたシステムを組み合わせたシステムの方が多かったようです。もちろん調整のためのカスタマイズは必ず行っていたようですが。

 

日本の大学で打上げている人工衛星は、人工衛星システム開発と地上局システム開発を同時に実施していることが多いです。

両方のシステムを開発していれば、お互いにかぶる機能を搭載する必要が無かったり、ソフトウェアの軽量化が可能になります。

利点もありますが、開発側と運用側の両方を担う必要があります。

 

一方で、スカパーJSAT人工衛星の開発能力のない国では地上局設備を整備して人工衛星の運用に徹しているところもあります。

 

ただ、スカパーJSATのよう衛星運用のみ、地上局特化の企業は日本のスタートアップではなかなか現れていません。

 

人工衛星と地上設備を両方開発している企業や画像データを使用した企業などが多いです。

 

おそらく理由の一つとして、電波の使用権が関わっているのでしょうが、今回は長くなったのでここまでにします。

 

参考資料

 システム技術開発調査研究19-R-3 高度なマヌーバビリティを有する地球観測監視衛星の具体化に関する調査研究報告書 2008年

https://ssl.jspacesystems.or.jp/library/archives/usef/gijyustu/pdf/19-R-3.pdf
PRAREシステムのパフォーマンス

https://earth.esa.int/workshops/ers97/papers/bedrich/

地上サービスの購入と地上システムの構築に関する考慮事項

https://www.nasa.gov/smallsat-institute/sst-soa-2020/ground-data-systems-and-mission-operations

リモート・センシングに適した人工衛星の軌道

https://www.jstage.jst.go.jp/article/jjsass1969/24/264/24_264_10/_pdf

日本の静止気象衛星のあゆみ

https://www.data.jma.go.jp/sat_info/himawari/enkaku.html#himawari-9