往時宇宙飛翔物体 システム機械設計屋の彼是

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人工衛星の設計・製造・管理をしていた宇宙のシステム・機械設計者が人工衛星の機械システムや宇宙ブログ的なこと、そして、横道に反れたことを覚え書き程度に残していく設計技術者や管理者、営業向けブログ

宇宙通信で量子通信と量子暗号化技術がつぶやかれ始めた理由

宇宙通信では暗号化技術が必要である

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人工衛星による通信に限らずスマホの電波の送信の際に、暗号化を行っています。

 

暗号化を行わなければ、第三者に電波を拾われ、盗聴されてしまいます。

 

人工衛星の場合は、波長帯によっても異なりますが、地上において広い地域で電波を取得することが可能です。

 

もちろん、ある程度の周波数帯が分かっていれば、という前提が付きます。

 

地球を周回する人工衛星の電波は、中心周波数が一番電波が強いのですが、中心周波数から少しずれた範囲でも、受信することができます。

 

人工衛星の設計によりますが、人工衛星の電波は受信する地上局のアンテナの受信範囲より手前から、早めに電波を送信しています。

 

大気の状況や障害物により、電波が回折したり回り込むことで受信できる可能性があるからです。

 

地球を周回する人工衛星と通信できる時間は、軌道にもよるのですが1回で数分~30分未満です。しかも、1日に1~5回程度で、2.5時間にも満たないのです。

その中で多くの通信をしなければならないため、機会を無駄にしない様に早めに電波を送信しています。

 

早めに出しているということは、電波を傍受されてしまう可能性も高くなります。

 

そこで暗号化技術を用いて、電波を受け取られたとしても、読み取れない様にしているのです。

 

しかし、現在使用されている暗号化技術は、時間をかければ復号(暗号を解くこと)ができるのです。

時間をかければというのは、CPUの処理能力により、ある種、簡単に復号出来てしまうのです。

 

そのため、宇宙通信において、量子通信や量子暗号技術が言われるようになった理由の一つです。

 

もちろん、他の記事で書いたように大容量のデータを送付するのに量子通信の方が大容量のデータを伝送できるというのもあります。

 

暗号化技術の概念を簡単に

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まずは、量子通信とは、光の波長域で行っていた光通信の先、光を細かくした最小単位である光子に情報を載せて通信する技術と記事で紹介しました。

mechanical-systems-sharing-ph.hatenablog.com

 

量子暗号化技術は、光子の物理現象を利用した暗号化技術です。

 

改めてになりますが、暗号化技術とは、元の情報に変化を加えて(暗号化)、別の情報に変換する技術です。

元の情報に戻すことは復号化と言われます。

 

どのレベルまで含まれるか微妙ですが個人情報であったり、知られると企業や組織、国家が崩壊を招くような情報、企業であればライバル企業に出し抜かれてしまうような情報が、敵対する対象に取られたときに、解読できない様にする処理です。

 

推理小説に出てくる暗号文のデジタル情報版と考えると分かりやすいかもしれません。

 

先の述べたように、現在使用されている暗号化技術は、復号に時間が掛かるだけで復号可能な技術方式なのです。

 

現在、実証中の量子暗号化技術は、時間を掛けても解くことができない暗号化技術のことを指しています。

 

量子通信で使用されるのは、光の波長であり、光の最小単位は光子と呼ばれています。

物質の最小単位を量子と呼ぶことからこの通信や暗号化技術を量子通信、量子暗号化技術と呼ばれています。

 

量子暗号化技術は、光子の特性を利用することになります。

 

その特性は、偏光です。

 

 

量子暗号化技術の仕組み

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量子である光子は、偏光を行うことにより単なる点ではなく、向きを持った状態を作ることができます。

 

そして、偏光した光子に情報を載せて、伝送させます。

光子に情報を載せる技術だけでも大変そうですね。

 

しかも光子は、一度観測すると偏光状態が変わる特性があるため、情報を盗み取られた場合は、すぐに確認することができます。

 

すなわち、最初に盗聴者がいないか感知する情報を流し、情報が盗み取られた形式がない事を確認してから、本当に必要なデータを送信するという仕組みで送信すればよいことになります。

 

ただ、光子を偏光させて送信する技術、サイズも電力も通信機も人工衛星としてのバランスを取るのは難しそうですよね。

 

 

 

あえて宇宙通信で量子暗号化技術が叫ばれるのはなぜでしょう。

普通に地上でも同様の通信をすれば安全ではないかとも考えてしまいます。

 

ただ、現在は独自の有線回線、イントラネットVPN接続(同じか笑)などのネットワークがあります。

 

各中継器の地点で、盗聴者の有無を監視しているため、高いコストを支払ってまで量子暗号化技術を取り入れる必要はないということでしょうか。

 

宇宙エレベーターが実現できていない現状として、人工衛星と有線で接続することは実現困難な状況があります。

 

無線でしかできない人工衛星だからこそ、高い暗号化技術となる量子暗号化技術が注目されているのかもしれません。

 

 

参考資料

暗号化とは?使われている方式・種類・メリットなど徹底解説

https://cybersecurity-jp.com/security-measures/29197

 

秘話 - Wikipedia

 

量子情報技術と光ファイバによる光通信

http://www.lab.kochi-tech.ac.jp/quantum/files/kita16jan.pdf

第71回 秘密の鍵は光に乗せて −量子暗号の仕組み−

https://www.jp.tdk.com/tech-mag/knowledge/071

量子暗号通信の仕組みと開発動向

https://www.imes.boj.or.jp/research/papers/japanese/kk28-3-5.pdf

量子暗号を用いた秘匿通信

http://www.kendenkyo.or.jp/pdf/technology/178_basic.pdf