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人工衛星の設計・製造・管理をしていた宇宙のシステム・機械設計者が人工衛星の機械システムや宇宙ブログ的なこと、そして、横道に反れたことを覚え書き程度に残していく設計技術者や管理者、営業向けブログ

システム設計の5つの考え方をまとめました【宇宙機とシステムエンジニアリング】

システム設計とは

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Credits: NASA

https://images.nasa.gov/details-S68-34582

 

システム設計の役割は大きく2つあります。 

 

  • (実物の)試行錯誤を極力減らし、合理的に論理的にまとめ上げていくこと
  • 目的に対して最適なものにすること 

 

ということで、システム設計第2弾です。

mechanical-systems-sharing-ph.hatenablog.com

  

本記事は下記資料をメインに取りまとめています。

機械設計工学〈2〉システムと設計

機械設計工学〈2〉システムと設計

  • 発売日: 2006/05/01
  • メディア: 単行本
 

 

 

 

そもそもシステム(system)とはなんでしょうか。

日本工業規格 JIS Z 8121によると 「システムとは、多数の構成要素が有機的な秩序を保ち、同一目的に向かって行動するもの」と定義づけられています。

 

この定義からシステムと呼ばれるものの特徴を示している項目を挙げていきますと、次の項目に集約されます。

 

  • 固有の使用目的をもちます
  • 複数の構成要素からなります
  • 構成要素同士が有機的に結合されています
  • 外部からの制御が可能であります

 

これらの項目あるいは近い表現をした項目は、システム工学の考え方として最初に定義されています。

 

おそらくどの書籍においても、定義されているだけで一体全体どういうものなのか具体化されていないでしょう。

具体化されていないのには理由があります。

 

それはシステム設計は手法であり、受け手である人たちが各自工夫して取り込む(取り組む)べき対象なのです。

 

そもそもシステム設計はどのように進めていく手法なのでしょうか。

 

システム設計は、システムを定義する4項目を気にしながら進めていくのです。

そして、その4項目すべてを満足しつつ、既に存在する製品(既製品)を越えた性能あるいは高付価値がある製品を開発するのは、現在のある程度技術が成熟した現代において難しい領域になっています。

 

そこでシステム設計と称する手法を用いて、定義された4項目を分析・攻略して、新しく開発する製品(品質)を最適化していくことで、より高い性能であったり価値のあるものを作り上げていくいう考え方が広まているようです。

 

この「最適化」とは、システム工学において「シミュレーション」、「評価」と合わせて3つの具体的な手法と言われています。

 

5つの実作業と設計における矛盾点の炙り出し 

最適化:検討、設計、構想において常に2つ以上の案を考え、最適なものを選択していく行為。

シミュレーション:モデルによる検討手法で、力学及び材料力学的計算や有限要素法による解析作業。

評価:全体及び各部の機能を明確にし、機能を中心にして、矛盾が発生した場合に成立する解を、部品に執着するのではなく機能を満足するように考え方をとらえて解決する作業。

 

これら3つの手法を実施していくには、当初の目的からブレないために、次のことを意識しながら実行していくことになります。

 

  1. システムの定義である4項目を念頭に置くこと
  2. 目的を明確にし、目標値を持つこと
  3. 各要素および全体との関連を把握し、矛盾を明確にすること
  4. 設計進行過程における各項目ごとに代替案を持ち、評価選定すること
  5. 解析、計算を行い、数値による判断を行うこと

 

システム設計と称していますが、別段特異なことや新規な考え方はなく、無意識に実行していたことを指しているのです。

頭の中での情報の整理を行い、系統立てて分析した結果、抜けなく成立させるために、このような手法に落ち着く、それがシステム設計なのです。

 

 

機械系でいうと例えば、初めに全体の構成図なり構想図というポンチ絵を描くことが多いかと思います。

ポンチ絵の作成を最初に実施するのは、設計に矛盾がないか確認します。必要な機能を満足していくと、途中で機能が満足できないという場合が出てきます。

ポンチ絵をつくり、作り上げていくと、矛盾が生じていきます。その矛盾を調整しながら組み上げていきます。組み上げた最終的な結果として、図面を完成させていくこと、それが目的となります。

 

ポンチ絵を作成する目的として、顧客や上司に対する説明としてビジュアルの分かりやすさのために作成するときもありますが、この場合でのポンチ絵は設計するためのポンチ絵です。

単にポンチ絵を作成するのではなく、大切なことは目的をはっきりさせることにあります。このポンチ絵により、各設計の矛盾を炙り出し、調整し、検討していくことを目的とするのです。このようにポンチ絵を作成する上でも何を明確にするのかを意識することが大切です。

 

矛盾を見つけていくには、全体の構成要素を分解していくことも一つの手です。

 

分解した要素をブロック図(構成要素系統図、システム系統図)としてまとめていきます。各要素を分解するだけではなく、ブロック図により相互関係を明確し、矛盾点を明らかにしながら、各要素の決定していきます。

 

ブロック図というと、完成した状態でなければ作成できないと思われるかもしれませんが、設計していく中で各要素を決定していくプロセスの上で構築するというのも設計の一つの手段なのです。

最終的にブロック図が完成した時に、抜けがないか、必要な機能が果たされているのか、俯瞰して考えることもできます。

 

ポンチ絵やブロック図により関係事項を拾い出して、各事項において影響し合う問題点を明らかにして、解決策を考え、最適なものを選定していくのがシステム設計の方法なのです。

関係事項の洗い出しには、不具合の原因追及に使用されることが多いFMEAやFTAも有用です。

 

さて次は、解決策を考え、最適なものを選定していくプロセスの一例を紹介します。

 

最適化とシミュレーションにおける仮定の検討

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各要素を設計する上で、常にというと言葉強めな気もするが、あえて常に、危険側の値、安全側の値、その中間である安全の限界値を求めておくことが大切です。

 

運用を考慮すると、通常使用する値もあります。

ただし、この値が導き出される頃は、矛盾点を解決し、システムとして成立しうる最適解を求める中盤から終盤に当たります。

各機能を意識しつつ、運用できる最適値を求める段階になっている必要があります。もちろん、従来設計からの想定値を仮においている場合も、設計段階では発生します。

 

注意が必要なのは、危険側の値と上限下限の中間が運用で使用するべき値とは限らないということです。安全側の範囲には入りますが、安全の限界値でもなければ、運用で使用する値ではないということです。

中間値を狙うことが安全のようにも思えますが、すべての要素が比例関数的に増加、削減するわけではなく、指数関数的に増大、減少することもありえるのです。

 

もちろん、中間値(2点間の平均値)を求めることが悪い訳ではありません。

設計に必要な値という観点では薄れてしまいますが、全体を把握したり、各要素の傾向や感覚をつかむ、物事を単純化し、分かりやすくするための指標として中間値を算出しておくことは、とても便利なのです。ただ重ね重ねな表現になりますが、便利ではある一方で、意味なく平均値を設計値とすることは、設計として無意味であるということは覚えておいてください。

 

平均値は置いておいて、3つの値(危険側の値、安全側の値、安全の限界値)を求めておくこと(抑えておくこと)は大切です。設計が進んだ時に、3つの値がどのように変化するのかも把握していく必要があります。この3つの値に注目しておくことは、システム設計の手法である代替案、評価選定、最適化を進めていく上で、最終的な判断をする上での考慮事項となっていきます。

 

というのも設計の計算では、不確定要素が多く、しばしば仮定をおくために、1種類の案だけで進めていくと、やり直しが発生した時がとても大変なのです。

3つの値は、システムとして成立させるための解の判断基準として、システムの設計の落としどころとして、必要になっていきます。

 

システム設計の基本を抑える

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システム設計では、製品全体を俯瞰してみることで、全体を構成している各構成要素の関係性、構成要素同士をつないだ時に見えてくる矛盾を明確にしていきます。明らかにすることで、各要素はそれぞれの役割を持っており、各々の特性が他に影響を与え、全体を構成していることが見えてきます。

 

また、全体を見直すことをしていかないと、仮定としていたことが、何の理由もなく、決定となってしまったり、1つの構成部分を集中して考えていたり、大きな矛盾が顕在化した(不具合が発生した)ことで不具合のみの対応をしていると、他の要素との関連性を見失ったり忘れたりしてしまいます。

 

人工衛星に限らず機械の高度化、複雑化によって発生してくる問題点とは、もともと内在していた矛盾が顕在化してくること、参考文献では”矛盾の激化”と称した事象が発生していきます。システムとして考えていくことは、各要素がお互いに影響し合っているというシステムの原則から、何がどう影響しているかを常に把握し、管理し、対処していく必要があります。

 

 

矛盾が発生しない様に調整しつつ、設計者は誰しも、気持ちの上では最適なものを設計しようと考えるのではないでしょうか。しかし、設計した結果は常に最良のものが出来上がるとは限らないのです。

 

それは、設計の過程におけるプロセスに問題があるのであって、設計の各段階において設計上の問題点を明らかにしないままに先に進むために往々にして発生してしまいます。

 

設計上の問題点とは、矛盾のことになります。矛盾とはAを満足させようと思うとBがうまくゆかない、Bを満足させようとするとAが具合が悪いといったことであり、ここで設計者は試行錯誤することになります。

 

システム設計では、このような試行錯誤をできるだけ少なくしようということが前提にあります。矛盾を明確にすること、そして、数値をもとにして判断することで、論理だった設計を進め、出戻りを減らしていくのです。

 

繰り返しになりますが、ポンチ絵や機能系統図というブロック図を作成し、機能を決定する主要な項目と機械構造部分との関係づけについて説明してきました。これは問題になる各要素同士の関係性をはっきりさせることが目的でした。

各要素の関係性、インタフェースを明確に、詳細に決めていくことで、矛盾の激化により問題が顕在化してくる事項も、合わせて炙り出されていきます。

 

各要素の関係性が明確になったことで、一部が変化した際に、何が影響し、何が影響しないのか、おのずと分析できる状況に進めることができます。各要素の変化とその影響を抑えておくことは、矛盾が発生した時や設計値を決定する上でも重要な判断要素になります。

 

経験ある設計者の場合、これらの検討の大部分は、従来行われてきたものと大差ないと思われます。

それらを整理し、常に全体と部分、部分と部分の関係とその影響、およびその変化の状況を数値的に明らかにしていくことが、機械のシステム設計の基本になります

 

評価基準を設定する

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評価基準というとどこから手を出せばよいか困るという人もいるでしょう。

ただ、設計を進める際に無意識のうちに比較を行っていることに気づけば、それの行為そのものが評価基準に成り得るのです。

 

明文化する一例として、思いつくまま2案あるいは3案の比較項目を書き出し、一覧表に整理してみます。

書き出した項目が、評価項目になるわけですが、各項がみな同等に必要な項目であれば、〇や×をつけて〇の多い方を選べばよいだけです。いわゆるトレードオフと呼ばれる手法です。

ただし通常は、設計段階の設計目的によって各項目の重要度は異なるのです。その場合には、重要度に応じたウェイトを付けていきます。これもトレードオフと呼ばれますが、マトリクス法とも呼ばれることがあります。

 

手法の名前よりも重要なことは、設計の各段階において必ず2つ以上の案をもって、その都度簡単な評定選定を行いながら設計を進めてゆくことです。2つ以上あることで矛盾が発生した時の取りうる手札の幅が広がります。

また、ウェイトを設定している場合は、見返した時、見直す必要があるときも考慮して、ウェイトの理由も残しておいた方が良いです。 

 

結びに

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最近は、機械や各種機構を何とかシステムと呼ぶことが多くなりました。

 

それは単に呼び名を流行に従っているわけではなく、機械をシステムとしてみた場合に、システム志向、システムアプローチによって問題を解決している(していく)設計にという意味が含まれている可能性があるのです。

 

 

今回は一般的なシステム設計について述べましたが、人工衛星をはじめとしたロケットなどの航空宇宙に関係する対象は、複雑なシステムと、各種のコンポーネントの進捗や性能により、微細な調整を余儀なくされています。

 

従来と同じ設計であったとしても、使用する部品が廃盤になり購入できないために代替品を使用するということはよく発生しています。

 

人工衛星の部品は、出荷台数が低くピンポイントな性能を求めています。部品製造メーカーからすると、利益が出ない上に、製造管理を強いられる対象であるため、業績により廃盤あるいは代替品に置き換わることがよくよく発生します。

代替品や新規性能品を使用する際に、影響範囲を確認し、矛盾を発生しない様に、今回でいうブロック図やマトリクス表に記録を残していかなければ、複雑なシステムとなっている人工衛星は管理できないのです。