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電子部品のための電子回路の設計とワーストケース解析を行うためのアプローチ方法 | Lessons Learned、失敗学、事故事例

電子部品のための電子回路の設計とワーストケース解析

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人工衛星は軌道上に打上げられると修正を加えることができません。

 

宇宙という、日常でも、多くの機械が動く工場の中とも違う環境下で回路が動くことになります。

 

機能を満たすことはもちろん、性能の範囲内での動作確認は、通常の産業製品でも実施されます。

 

宇宙業界でも、性能の範囲以内で動作確認をするのですが、宇宙という環境では地上で再現することが難しく、たまに想像の片隅にもなかった事象が発生します。

 

 

どこまで想像できるのかが、設計のカギとなるのですが、その想像の一つにワーストケースを想定して試験することがあります。

 

今回は、そのワーストケースの考え方の教訓がありましたのでまとめてみます。

  

概要

電子回路の設計と試験の推奨手法であるワーストケース解析( Worst Case Analysis:WCA)は、各回路と各アセンブリ(ユニット部)が、部品性能の変動の中で、現実に起こりうる最も極端な値の組み合わせ測定を行い、要求されている電気的性能を満足するかを解析する回路解析に対する体系的なアプローチ手法です。

 

実施しない場合は、体系的なワーストケース解析による情報がないため、プロジェクト全体の回路設計の整合性が成立しない可能性があります。

 

This lesson learned is based on Reliability Practice number PD-ED-1212, from NASA Technical Memorandum 4322A, Reliability Preferred Practices for Design and Test.

 

メリット 

 ワーストケース解析は、部品の受ける環境や各部品の組み合わせて、電子回路を設計・分析することです。

すべての組み合わせで、求める電気的性能要件を満たしていることを検証することで、システムが成功する可能性を最大化させます。

 

実施方法

最悪ケースは、様々な条件に基づき、例えばハードウェアの劣化や部品の仕様外の範囲に陥ることを考慮して評価します。

 

電子回路の場合、通常の分析では、温度や初期のばらつき、経年劣化、放射線及びその他の影響が考慮されます。

 

設計・分析者は、特定ミッションの運用環境と寿命に関する部品の性能を算出し、調達した部品の初期のばらつきと組み合わせて、運用ケースや最悪条件の部品の変動値を習得し、データベースを作成します。

 

設計・分析者は、従来の電気回路解析手法を用いて、各回路や各回路ユニットが、現実に起こりえる最も極端な状態を再現し、要求された特性を満たしているかどうかを判断します。

 

技術的根拠

従来の信頼性の実施は、部品の修復不可能な故障を最小限に抑えること注力されます。

 

一方で重要なのは、基本的な人工衛星システムの制御とミッションの実行(観測機器の稼働や通信機の動作)が、意図された精度、再現性、及び安定しているものかを保証することです。

 

これらを維持するには、設計検証に統一的で規則的で体系的アプローチが必要不可欠となります。

 

再現性のある均一の動きを実現するには、すべての設計・分析者が共通の部品性能のデータベースを使用することで実現できます。

 

分析①は、アセンブリに始まり、サブシステム及びシステム要件にトレーサビリティが可能で、定性的及び定量的な回路を含む一般的な分析を達成できます。

 

また、分析②として、極地統計分析(Extreme Value Analysis:EVA)または二乗和平方根(Root Sum Squared:RSS)のアプローチを使用して、統計レベル(2ςまたは3ς)での回路性能の変動に起因する統計学的な信頼度の明示あるいはレベルも必要になります。

 

さらに分析③としては、部品をランダムに組み合わせて繰り返して測定するモンテカルロ法を使用します。

 

これらの3つのアプローチの想定的なメリットを比較して、インプットとアウトプット、及び導出される情報の違いをまとめることができます。

 

例えば、ハードウェアの故障に関わるアプローチについてはEVAを適用することをお勧めします。

 

RSSモンテカルロ法を用いた手法は、同じ統計レベルで使用された場合、お互いにおぼ等しい結果を導き出せると考えられています。

どちらの方法も、保持可能で再構成可能な機器に安全に使用できますが、人工衛星や宇宙船などの保守不可能なハードウェアに許容される最低レベルの信頼性を検討する上でも使用されます。

2つの方法は、EVAが実施できない場合にのみ適用される必要があります。

 

3ςの端部で、その特性を満たせない回路は、機能的な意味でも高い信頼性があるとは言えません。

 

 

ワーストケース解析を実施することでプロジェクトにおけるメリットを生かすには、回路の中でクリティカルとなる「弱い繋がり」を防ぐために、システム全体で保証する必要があります。

 

重要な回路の場合、基本設計フェーズにあるPreliminary Design Review(PDR)の段階で概念設計が成立していることを検証するために、事前に検証しておくことが必要になる場合があります。

 

最も有効なタイミングとして、ワーストケースは詳細設計と同時に実施され、Critical Design Review (CDR)の前に、実現可能であることを確認し終えている必要があります。

 

実施しない場合の影響

初期の電子回路設計は、経験則と、初期の部品のばらつきのみに注目されていました。

 

これは、搭載機器が極端な温度や長寿命で仕様の範囲に留まらないことが多いために、不十分な検証内容であることが分かりました。

 

より規則性のあるアプローチで進めていきましたが、設計・分析者が個々に実施しているため、部品の性能の基準に一貫性がありませんでした。

 

単体試験や総合試験での失敗数は減少しましたが、それでも許容困難なレベルであり、特に大規模なシステムは、個々の設計により変更される一貫性のないリスクレベルに苦労させられていました。

 

ワーストケースが最初に実施されたのは、1965年頃で、有能な回路設計者による体系的なアプローチ方法により、リスクレベルがかなり減っていることが分かっています。

 

体系的なワーストケース解析による情報がないと、初期設計の長期的な整合性が成立しない可能性があります。

 

ハードウェアの認定試験で故障し、設計変更となる可能性がとても大きくなります。

 

ハードウェアの受ける環境が、従来の環境とは違うにも関わらず、過去の環境を情報のままハードウェア設計を使用すると、ワーストケース解析が文書化されていない場合、よりリスクが高くなります。

 

Lessons Learned

体系的なワーストケース解析による情報がないと、初期設計の長期的な整合性が成立しない可能性があります。

 

ハードウェアの認定試験で故障し、設計変更となるとても可能性が大きくなります。

 

Lessons Learnedを受けての推奨事項としては次の通りです。

 

電子部品の受けうる環境における部品性能の変動の中で、現実に起こりうる最も極端な値の組み合わせ測定を行い、要求されるシステムの寿命において許容可能な範囲内で動作するように、すべての回路を設計します。

 

 

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最後に

ワーストケース解析は、1969年という、人工衛星開発における比較的初期の時から注目されていたようですね。

 

現在における解析の基礎となるモンテカルロ法RSSなどがあげられています。

 

実際、JAXAモンテカルロ法などで検索すると、いくつかの情報を得ることができます。

 

ただ、電子部品の故障解析や初期解析として、これらの情報にたどり着けるかは怪しい所です。

 

故障が発生し、必要な時にこれらの浮かび上がような気がしています。

 

多くの場合は、口伝や過去資料に埋もれて、実際の設計を行う場合に、抜けてしまう要素な気がしています。

 

熟練の設計者であれば、経験的に実施することが分かっているため注意は必要ではないのですけどね。

 

多くの引継ぎ資料で、ワーストケース解析の手法について残しておくと、より組織としてのノウハウが向上していきそうな気がします。

 

Lessons Learned

Lessons Learnedとは、組織(に関わらないですが)において業務を遂行した上で得られた教訓(学んだ教訓)のことを指しています。

 

得られた教訓というと、失敗や不具合だけを想像しがちではありますが、成功したことについても教訓としてあげられます。

Lessons Learnedは同じ失敗を繰り返さないようにすることと、計画が順調に進んだ成功要因を共有することの2つがあります。

  

NASAで公開されているNASA Lessons Learned Steering Committee(LLSC)から、宇宙業界に限らず、工業製品でも適用できそうなLessons Learnedを集めています。 

 

参考サイト

NASA Lessons Learned

https://www.nasa.gov/offices/oce/functions/lessons/index.html

NASA Lessons Learned Steering Committee(LLSC)

https://llis.nasa.gov/

Design and Analysis of Electronic Circuits for Worst Case Environments and Part Variations

https://llis.nasa.gov/lesson/1804