システムインテグレーションという不明確さを明確にする
https://images.nasa.gov/details-KSC-20200117-PH-ESA01_0005
システムエンジニアリングの3弾目かな
人工衛星ではインテグレーション試験を実施します。
インテグレーション試験に近い内容を示す適合(性)試験もあり、広義の意味で同じように扱われるか、しっかりと区分されて実行されています。
インテグレーション試験と適合性試験は、開発組織により用語がそれぞれ定義されますが、主に責任区分の違いや目的により分かれます。
インテグレーション試験は、システムインテグレーション試験と呼ばれ、今までバラバラに製造してきたサブシステムを統合して一つのシステムとして確認・検査する試験のことを指す場合が多いです。
適合性試験は、別々の独立したシステムにおいて、情報のやり取りや機械的に接触する部分を確認し、各々機能やシステムが成立するか確認する試験のことを指す場合が多いです。
また、別々に独立したシステムではあるのですが、目的達成のために、複数の要素を1つのシステムとして構成する場合もインテグレーション試験あるいはシステムインテグレーション試験と呼ぶ場合もあります。時にはインテグとも略されます。
さらには、統合試験でしたり、総合試験と呼ぶ場合もあります。
これは先に述べたように責任区分や目的、管理している組織の視点によって変わってきます。
人工衛星開発でいうならば、人工衛星と地上(通信)局、ロケットの3組織に分かれることが多いのですが、組織Aが人工衛星とロケットを製造している場合は、2つの独立したシステム間の試験をインテグレーション試験と呼ぶこともあります。現状でロケットと人工衛星を両方開発して打上げている組織が日本で存在しないので、仮定の話ではあります。
例え同じ組織であろうとも、従来の流れから適合性試験と呼ぶこともあります。
困ったことに適合性試験は、インタフェース確認であったり、インタフェース試験とも呼ばれることがあります。
過去に熱試験の記事でも書いた記憶がありますが、
初めて対応する組織に対しては、各組織で使用されている単語が通じなかったり、誤訳して伝わっている可能性があります。
異文化コミュニケーションしているつもりで、お互いに確かめておくことが必要です。
JAXA標準をはじめ、行政組織の仕様書を確認すると、最初に定義をまとめていることが多いのはこのためです。
JAXAや行政組織は、お互いに異文化で構築された企業と相対することが多いために、最初に単語を決めていかないと、言葉の意味が少しずつはずれ、目的に到達する前に、不具合という壁が突然立ちふさがってしまうことに注意していただければと思います。
民間組織の場合は、打ち合わせや議事録によりそれぞれの言語をすり合わせていくことが多いようです。
人工衛星開発の世界では、インタフェース(定義/管理)書にて単語の整理をしていることが多いです。
今回は、広義的な意味も含めて、システムインテグレーション試験としていきます。
身近なインテグレーションの世界
インテグレーションとは何をするものなのでしょうか。
人工衛星開発のインテグレーションの話の前に、人工衛星以外でのインテグレーションの一例を紹介します。
具体例としては、エアコンを上げてみます。
エアコンの他に、テレビと録画レコーダというのもありなのですが、エアコンが分かりやすいかと思います。
さて、目的は、エアコンを部屋に取り付け、稼動させて、部屋に快適な環境を作り出すこととします。
エアコンという独立したシステムに、部屋というこれまた独立したシステムを統合あるいは一体化させるのが、エアコンのインテグレーション試験ということになります。
エアコンが独立して機能を発揮する独立したシステムなのか?と思われる人が居るかもしれません。
しかし、人工衛星においても独立して機能を発揮する独立したシステムなのかと言われるとそうではありません。地上局という独立したシステムがあって、目的を達成することができるため、同じ階層の存在と言えます。
部屋に取り付けるためには、エアコンを運送して、部屋に持ってきて次の作業を実施するかと思います。
- 室外機と室内機の取り付け
- 室外機と室内機の化粧カバーの取り付け
- アース線の取り付け
- コンセントの差し込み
- 真空引き(ポンプを使ってパイプの中の空気を抜いていく)
- コンセントの増設・形状変更・移設
- 内部接続線の壁などへの固定
- 防護装置の取り付け作業
- 内部接続線同士の接続
- アース接地極への接続や地面に埋める作業
- 電源のON/OFF確認
- 温風、冷風、除湿確認
- 温度センターの確認
- 風速、風向の確認
- タイマーの確認
すべての項目を実施するわけではありませんが、だいたいこの作業内容かと思います。
実はこの作業が、ほぼインテグレーション試験となるのです。
部屋という独立したシステムにエアコンというシステムを統合させる。それがシステムインテグレーションなのです。
それぞれの試験ですが、
設置や接続の作業を機械的なインテグレーションあるいはインターフェース確認
動作確認の作業を電気的なインテグレーションあるいはインターフェース確認
と置き換えることができます。
インテグレーションが終わると、部屋を快適にできる環境が"整う"ことができます。
インテグレーション試験とは、目的を達成する前に実施する、ほぼ最終的な確認試験のことを指しているのです。
この試験の後に待っているものは、納品、納入といった、購入者へ引き渡すという行為のみになります。
これは人工衛星に限らず、システムのインテグレーションを実施する製品であれば、確認する項目の違いはあれど、目的は理解できたのではないでしょうか。
そういえば、エアコンを例に出すと、部屋に運送し、設置し環境を整えてくれる作業員の方は、人工衛星でいうロケットに近い存在も言えますね。
と、単純化できたと思っているかもしれませんが、実はここで重要要素の説明が抜けています。
それは購入者/利用者の運用方法です。
エアコンの場合は、空調を管理して、部屋を快適にするという明確な目的があります。
しかし、人工衛星をはじめ他の製品においては、利用者の運用方法を汲み取る必要がります。
なぜなら、利用者の運用方法は千差万別なのですから、利用者の運用に合った試験の実施は必須となります。
困ったことなのかありがたいことなのか、人工衛星では、この運用者に合った試験を2回実施することになります。
それは先ほどから述べている、システムインテグレーション試験なのですが、もう一つが初期運用フェーズに実施する試験です。初期運用フェーズの話になると、また別の要素もあり、話がそれてしまうため今回は省略します。
ともかく、システムインテグレーション試験は、利用者の運用方法を汲み取り、抜けなく試験を行い、検査することです。
これが意外と難しく、利用者は設計者や開発担当が思いもよらない運用を想定していることがあるためです。
抜けなく試験を行うというのは、運用中に不具合を発生させないという目的のもと試験を行います。
特殊運用、ノンノミナル、アブノーマルといった様々な表現をされます。
実は、システムインテグレーション試験を検討し、構築できるということは、それだけでノウハウの塊になります。
過去の経験、不具合から試験に落とし込んで確認する。
利用者の思いもよらない運用に対応するためにあらゆる視点で試験を実施し、問題点を炙り出すのです。
それこそ、各組織の知恵の出しどころでもあります。
そのため、システムインテグレーション試験あるいは初期運用フェーズは長くなってしまうのです。
ここで洗い出された問題点は、すぐに対応できるものはよいのですが、すぐに対応できないものもあり、その場合は、運用でカバーすることになります。
もし、次号機があれば、次号機への反映事項となります。
システムインテグレーションは、実運用時での不具合防止になるため、非常に重要な試験といえます。
次はシステムインテグレーションの内容についてもう少し記載しようかと思います。
参考文献
システムズエンジニアリングの基本的な考え方
https://ssl.tksc.jaxa.jp/isasse01/kanren/BDB/BDB06007BSEkihon.pdf
運用の準備
http://www.satnavi.jaxa.jp/basic/satlife/preparation.html
エアコン取り付け、資格が必要な場合と自分でできる場合について説明!
https://curama.jp/magazine/181/