金属の安全率の計算はよくありますが、セラミックの安全率は知る人が少ないのではないでしょうか。
セラミックは表面上の傷が多くクラックが発生しており、不確定要因が多いのです。
そもそも不確定要因を補償するために安全率を決定するのですが、セラミックスが破損しないようにどのように設定すればいいのでしょうか。
レンズに使用されるガラスやセラミックは、使用用途にもよりますが人工衛星の構造物として考えるのであれば、安全率「3」を使用して問題ないでしょう。
一般に延性のある金属は安全率が低い値を使うことが多く、脆性な材料は安全率が高い値を使います。
すなわち、レンズに使用されるガラスやセラミックは脆性材料に部類するため高い安全率を使います。
ガラスの破壊とその周辺
https://www.newglass.jp/mag/TITL/maghtml/90-pdf/+90-p004.pdf
板ガラスの強度と強度設計
https://glass-wonderland.jp/cms/wp-content/uploads/2019/05/g10-010.pdf
一方で建物の場合は、その構造がよく知られており、建築法などで定められていることから、「2」の値が使用されます。
ではよく知られていない対象の場合はどうなのでしょうか。
新しく開発された新製品を使用する場合にどのような値で設計・検証していかなければならないのでしょうか。
一般的な推奨値を次に示します。
- 負荷および環境条件が厳しくなく、重量について十分考慮されており、不純物が少なく、トレーサビリティが確保され、物性としても不足のないような信頼性がある材料を使用する場合:1.3-1.5
- 負荷および環境条件が厳しくなく、不純物が少なく、トレーサビリティが確保され、物理特性としても不足のないような信頼性がある材料を使用する場合:1.5-2
- 負荷および環境条件が厳しくなく、一般に市販されている材料を使用する場合:2-2.5
- 試行回数や既知の物性特性が少なく、負荷および環境条件が厳しくない脆性材料用:2.5-3
- 特性が信頼できず、負荷と環境条件が厳しくない、または困難な環境条件で信頼できる材料が使用されている材料で使用する場合:3-4
このことから新しく開発された新製品を使用する場合は、安全率「3」を使用して設計検証していく必要があります。
一方で、使用用途が確定している対象においては次の安全率を使用しています。
ボイラー:3.5-6
ボルト:8.5
鋳鉄製ホイール:20
エンジン部品:6-8
頑丈なシャフト:10-12
圧力容器:3.5-6
タービン部品-静的:6-8
タービン部品-回転:2-3
スプリング:4.5
建物の構造用鋼の構造物:4-6
橋の構造用鋼の構造物:5-7
Factors of Safety
https://www.engineeringtoolbox.com/factors-safety-fos-d_1624.html
用途や素材によってバタつきはありますが、自動車は「3」、航空機や宇宙船は「1.2~3」を使用しています。
特に航空宇宙業界は、重量に対する制限もあるため「1.2~3」という比較的低い値を使用しています。
航空宇宙機の安全率が「5」という値を使用したとすると、構造を硬くするために全体の質量が重くなり、飛ばなくなるかエンジンに負担を掛けるか貨物の搭載量が少なくなってしまいます。
それでもこの「1.2~3」という低い値を使用しているのは、航空宇宙機に使用される具材が一般より非常に厳しい品質管理と高い信頼性を確保しているのが理由でもあります。
安全率を低く設定するには、繰り返しの試験や知見、ノウハウにより蓄積された値だということなのです。
関連資料
Factor of safety
https://en.wikipedia.org/wiki/Factor_of_safety
ワイヤーの安全係数は?1分でわかる意味、つり部材と安全係数の関係
http://kentiku-kouzou.jp/kouzoukeian-anzenkeisu.html
延性材料とぜい性材料
https://jp.misumi-ec.com/tech-info/categories/plastic_mold_design/pl06/c0687.html
樹脂材料の選定方法~材料特性と内部構造を理解する~
https://www.protolabs.co.jp/resources/design-tips/thermoplastics/
Design and Structural Analysis of Alumina-Ceramic Housings for Deep Submergence Service
https://apps.dtic.mil/dtic/tr/fulltext/u2/a272847.pdf
ファインセラミックスの各種評価規格
http://www.asuzac-ceramics.jp/technology/tech31.htm
セラミックスの信頼性とその評価
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jsms1963/32/358/32_358_823/_pdf
ファインセラミックス部品の強度設計と材料特性
https://www.jstage.jst.go.jp/article/materia1994/39/11/39_11_887/_pdf