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導電性のある炭素繊維(カーボン)/樹脂複合材でも宇宙空間で空間電荷の影響を受ける | Lessons Learned

導電性のある炭素繊維(カーボン)複合材でも宇宙空間で空間電荷の影響を受ける

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宇宙機開発において注意するべきものは、グランドという考え方です。

 

既製品や一般製品の場合、アースという考え方があり、グランドはアースに似て異なる考え方です。

 

アースは、地面と接続することで電位を安定させたり、地面との電圧差を防ぎ、電流が流れることを防止します。

 

一方で、グランドは、機器内の動作の安定やパーツの帯電による電磁波や輻射を防止することが主たる理由となります。

 

グランドを取っていないと、かつてはラジオやテレビなどの機器では音声や映像に影響が出ていました。

現在ではほとんどなくなっていますので、実体験できる場面が少なくなっていますね。

 

宇宙空間ではグランドの考え方が重要でアースがありません。

 

もしかするとメーカーでも区別せず、ノイズが発生しても、ノイズ防止のための処置として、最終的にアースを接続するため、アースという言葉のみを使っているところが多いかもしれません。

 

グランドの目的は、各種機器と接続することで、電位差を発生させないことにあります。

電位差が発生すると、電流が流れ電圧が安定しなかったり、電磁場の干渉が発生したりします。

簡単に言うと「電気的に接続」した状態にすることをいいます。

 

タイトルにある炭素繊維は電気が流れるため、無理に電気的に接続する対策をしなくても電気的に接続しているだろうという考えがありました。

 

宇宙空間では空間電荷(宇宙プラズマ)が発生しており、電気的に接続していないと各パーツに帯電し、電位差が発生し各機器に悪影響を及ぼします。

 

今回は炭素繊維/樹脂複合材による空間電荷に関するNASAのLessons Learnedです。

 

概要

炭素繊維/樹脂複合材料は、材料が導電性であるため、宇宙プラズマによる帯電の影響を受けないと考えられていました。

 

非導電性樹脂よって電気的に接続されていない場合は、かなりの電荷が帯電する可能性があります

 

材料の電気抵抗を確認するときは、非接触電荷測定装置を使用し、最悪の場合の放電しても問題ないような宇宙機の設計を検討しましょう。 

発生タイミング

宇宙プラズマ粒子により宇宙機表面が帯電する場合は、非金属及びセラミックー金属副造材などの非導電性の表面材が危険な場合があります。

 

非金属およびセラミック-金属複合材料などの非導電性表面材料で認識されない危険をもたらす可能性があります。

 

炭素繊維/樹脂複合材料は、炭素繊維材が導電性であるため、宇宙プラズマ帯電の影響を受けないと考えられていましたが、実際にはかなりの電荷が帯電する可能性があります。

 

電子ビームを利用した試験ではかなり帯電することが分かりました。

炭素繊維/樹脂複合材料で作られた宇宙機の構造体は、構造性能要件を維持しながら、大幅な軽量化が可能であることが証明されています。

いわゆる炭素繊維/樹脂複合材料は、カーボンスキンのハニカムパネルことを指しています。

 

炭素繊維/樹脂複合材は優れた熱性能を持っており、宇宙船のソーラーアレイ、ラジエーターパネル、宇宙望遠鏡の構造、およびミラー構造での一部を形成しています。

 

これらの理由から、この材料は宇宙干渉計ミッション(SIM)宇宙船の構造コンポーネントで広く使用されています。

 

炭素繊維の表面は導電性を示すため炭素繊維材の表面を抵抗計で測定すると抵抗がゼロになる可能性があります。

 

しかし、炭素繊維樹脂複合材の接着するために使用されているエポキシ性樹脂(非導電性シアネートエステル樹脂)は、電子ビームにさらされると、2000ボルトを超える電位を蓄積することが確認されています。

 

Lessons Learned

宇宙機の宇宙側を向いている外表面など、空間電荷を含む静電放電エネルギーによる劣化損傷を受けやすい場所に複合材料(シアン酸グラファイトエステルやエポキシ樹脂など)が使用されている場合、次の点を注意して設計してください。

 

ワーストケースでの条件試験において、宇宙プラズマ環境条件下を模擬する場合、材料の電気抵抗に対して非接触電荷測定装置を使用してください。


試験の結果、最悪放電による帯電を受け入れ可能な宇宙機を設計する必要があります。

対策として、パルスフィルターや代替材料、コーティングの使用、または複合材料表面の電気的接続を改善する必要があります。

 


 

最後に

まとめると、カーボンスキンのハニカムパネルを使用する場合は、パネル自体の帯電に気を付けてくださいということです。

 

炭素繊維ハニカム材(炭素繊維複合材)は、飛行機やロケットなどで使用されており、軽くて強度はあります。

 

しかし、複合材を成形する際に、接着剤を使用するため内部を貫通して電気が流れないという特性があることに注意してください。

 

導電性の接着剤を使用するという手もあります。

その場合は気を付ける点として、接着剤そのものの強度があります。

 

導電性接着剤は添加物を混ぜる場合があるので接着強度が弱まる点と、ハニカムパネルの場合は加熱溶着であることが多いため、高温でも導電特性が保持できるかにあります。

さらに宇宙機特有のオフガス、アウトガスの問題もあります。

 

なかなか難しいですね。

 

構造筐体を金属の塊からの削りだしにしている場合は気にしていなかった点ですので、構造変更の場合には注意しましょう。

 

参考サイト

NASA Lessons Learned

https://www.nasa.gov/offices/oce/functions/lessons/index.html

NASA Lessons Learned Steering Committee(LLSC)

https://llis.nasa.gov/

Space Charging of Composite Structures

https://llis.nasa.gov/lesson/1330

アースとは違う!グランド(GND)を理解するための基礎知識を解説

https://www.seikatsu110.jp/electrical/et_short_circuit/22553/

Links for Courses Taught by Dr. Holbert

http://holbert.faculty.asu.edu/courses.html