構造シミュレーションは、手計算ではだめなのか
人工衛星では、様々な計算、解析、シミュレーションを行います。
その一つが構造計算です。
構造計算というと、古典的な2次モーメントで計算することもありますが、最近はソフトウェアで済ますことが多いです。
ソフトウェアで見ると、注目箇所以外にこぼれていた弱い部分も見ることができるんですね。
感覚や経験で弱い所を計算していたところ、突き詰めて個々に強度を上げていくと意外なところが弱くなっていた箇所を発見することが、ソフトウェアでは早く確認できます。
もちろん、概算や検討レベルでは、3Dモデルを詳細化するよりも古典的な計算な計算の方が実用的です。
一方で、ソフトウェアも簡易的なモデルを作成することで同様の考え方が分かりやすい表現で見えるため、この辺りは個人の好みや、ソフトウェアのライセンス数、作業時間や個人の確実性(答えの確からしさが感覚的にわかる)によるものなので、どちらがいいとは言えません。
ソフトウェアの構造解析に馴染みのない方に簡単に、解析までの手順を記載すると次の通りです。
- 構造解析を行うモデル・図面・使用する材料の物性値を用意
- 3Dモデルを作成するか、CADモデルをインポート
- 使用する材料の物性値を入力
- モデルの簡易化(質量のみの質点模擬の変更)
- モデルのメッシュ化
- 分界点といわれる剛となる物体などとの固定点を設定(人工衛星の場合はロケットとの境界面となることが多い)
- 静解析、固有値解析などの解析条件の設定
- 解析
- コンター図(赤い所が強い荷重、大きい変化量を持つ箇所などのグラディエーション図)
正直、ここまでは機械的にできます。
設計としては、この結果から読み取り、設計に反映したり、安心したりします。
解析対象が複雑になればなるほど、個別で計算する要素が増えるため、ソフトウェアによる解析が有用となります。
構造解析とギリギリ設計のために
構造解析において、ほとんど機械的にできます。
ただし、物体には固有さ、個性が存在します。
同じ鉄の板でも、詳細にみれば弱い鉄の板と強い鉄の板が存在するのです。
強度としては、工業製品でよく使われる材料に対しては、JISの中で、ある強度以上というのが出されています。
さらに、JISの強度を守りつつ、製造企業としては、ある強度以上の製品である仕様を示されることがあります。いわゆる仕様値が存在します。
さらに、さらに、製造後、おそらく製造ロットごとにサンプルにより強度試験を行い、ある強度以上である値を出し、検査成績書なり、材料証明書なり、ミルシートなりで示されます。
感覚的には、JISは必要最低限で、仕様値は企業の最低保証値、検査成績書は保証値という印象です。
中には、保証値ではなく実力値なだけで、保証は仕様値とする企業もあるので要注意です。
構造計算の際に、どの時点の数値にマージンを加えるか、それは各設計の組織の思想になります。
組織の中でも統一されていなければ、設計が進んだところで、勘違いは発生した時点で、大規模設計変更に入ります。
ある人はマージンを考慮していると考えつつも、実際は、もうギリギリの設計であるため、重量オーバーが発生したりします。
マージンの意識は、ギリギリをさらに詰める人工衛星の設計においては、構造関係に関わる人に限らず、共有しておいた方が良い情報なのです。
まあ、機械系以外は忘れちゃうんですけどね。
何かとギリギリの設計に陥ってしまう人工衛星において、どの値(仕様値、保証値、実力値)を使用するのかは、かなりのキーポイントになります。
構造って、感覚で設計して、ガンガン進んで、サンプル作ったときに壊れるなんてよくあるんですね。
しかも、かなりのスケジュールやコストを使った後に。
感覚で概念設計として進めるのはいいのですが、絵を実現に向けて落とし込むには、サンプルを作る前に、構造計算を取り入れた方が良いのです。
サンプルをどんどん作って、壊して、作っての時代は終わっているのです。
というより人工衛星では、成り立たなくなっているんですね。