往時宇宙飛翔物体 システム機械設計屋の彼是

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人工衛星の設計・製造・管理をしていた宇宙のシステム・機械設計者が人工衛星の機械システムや宇宙ブログ的なこと、そして、横道に反れたことを覚え書き程度に残していく設計技術者や管理者、営業向けブログ

【宇宙機と落下】宇宙活動法の傷害予測数計算(溶融計算)を知る

地球の大気圏落下における溶融計算をみてみる

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デブリも大変ですが、地球の大気圏でちゃんと燃え尽きるか確認しなければなりません。

 

確認方法は、実験なんて大抵できないので解析を行います。

 

宇宙活動2法でも各部品に対して溶融解析をするように決められています。法律上は人が優先となるため、傷害予測数計算といいます。

 

前提となるのは傷害予測数計算をすることです。

 

ガイドラインにある15J(ジュール)=15kgm2/s2とはどの程度のものでしょうか。

重力加速度を9.80665 m / s2とすると、1mの高さから、1.52kgの物体を落とす感じです。

 

とても軽いのです。

 

 

空気抵抗を無視して、軌道500kmから地球の中心へ向けて落下を考えると、15J未満の場合、千分の3グラムとなります。

粉体、粉末レベルです。

 

それは認める意味があるのかと言いたいのですが、

空気抵抗により重力の加速度を落とすことでそれなりの物体が無視できます。

 

が、やはりかなりの数の計算をしなければらならないのは変わりません。

 

ここで小型衛星と定義される、CubeSatや50cm以下級の一般的形状については、いくつかの省略事項があります。

 

一つはエポキシ樹脂、ポリスチレン繊維などの非金属材は計算する必要なく溶けると判断してよい。

 

二つ目

は、アルミニウム合金や銅の60cm角以下の構成品も同じく溶けるとする。

 

限定するものとして、ステンレス鋼、チタン、ニッケルの場合は、200g以下であればとけると判断してもよいのです。

 

ただし、規定が変わり、項目が増えるのか減るのかよく確認が必要です。

 

 

アルミ合金は溶けていき、チタンは残る

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Art By Don Davis As the probes and the bus enter the Venusian atmospher Credits: NASA

落下による傷害予測数計算の際に、部品リスト作成するとあります。

部品リストというと、電子部品を想像しそうですが、この場合コンポーネント単位の筐体などの構造体部品を洗い出すと考えた方が良いでしょう。

もちろん、電子部品でも大きな部品があるため、それらも考慮しなければなりません。

 

どちらにしろ、まとめるのはとても大変です。

 

ですが、質量や融点の条件が分かれば、電子部品のほとんどは無視できます。

ここで考えるべきは、構造体に絞ります。

 

大気圏の溶融の際に重要な要素は、形状と重さなので、自然と構造体に注目していきます。

 

人工衛星によく使われる構造体の原材料は、チタン、アルミニウム、マグネシウム、鉄、SUS(ステンレス)、タングステン、銅があります。さらに、電池などに使われるニッケルも考慮に入れた物性を以下に示します。

 

チタン:

 密度4.54 g/cm3 比熱:528 J/(kg・K) 熱伝導率:17 W/(m・K) 融点:1675℃

タングステン

 密度19.30 g/cm3 比熱:134 J/(kg・K) 熱伝導率:198 W/(m・K) 融点:3410℃

ニッケル:

 密度8.902 g/cm3 比熱:440 J/(kg・K) 熱伝導率:90 W/(m・K) 融点:1455℃

銅:

 密度8.96 g/cm3 比熱:419 J/(kg・K) 熱伝導率:372 W/(m・K) 融点:1083℃

鉄:

 密度7.90 g/cm3 比熱:461 J/(kg・K) 熱伝導率:48 W/(m・K) 融点:1200℃

アルミニウム:

 密度2.70 g/cm3 比熱:900 J/(kg・K) 熱伝導率:204 W/(m・K) 融点:660.2℃

マグネシウム

 密度1.74 g/cm3 比熱:1030 J/(kg・K) 熱伝導率:159 W/(m・K) 融点:650℃

SUS:

 密度7.93 g/cm3 比熱:590 J/(kg・K) 熱伝導率:16.7 W/(m・K) 融点:1450℃

 

チタンとタングステン、そしてニッケルとSUSの特徴は、融点が大きいのです。

融点が大きいために、溶融解析では注目される対象となります。

 

ニッケルは先述した通り電池が対象となります。

冗長として電池をたくさん積んでいる人工衛星は注意した方が良い物質です。

ただし、ニッケルといってもニッケル水素電池なので、100%ニッケルではないので計算の際には適切な値を使いましょう。

 

さらに、ここで使用されているSUSはねじ類なので、質量や大きさが小さいため溶融計算をするとわかるのですが、危険部品にはならない対象です。

 

 

宇宙機でチタンやタングステンを使う理由

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チタンを使う理由は、物性を見るとわかるのですが熱伝導率が低く、密度も小さいのです。

 

実は強度も高いため、軽量化のためにSUSのボルトの代わりにチタンのボルトを使用することがあります。

熱伝導率が低いため、熱を伝えたくない対象に使うことが多いです。

 

熱を伝えたくない物質というとずっと冷たい印象を持たれますが、そうではありません。

熱を伝えにくいということは温度変化が少ないといえます。

軌道上の熱変化に鈍感であるべきミッション機器に使用されることが多いです。

 

ただし、コストが高いというところがネックとなっています。

ただ高いのです。

MISUMI社の六角穴付きボルトを確認してみましょう。(2019年11月時点)

 SUS:M4×10 50個 600円

 チタン:M4×10 50個 7,700円

もちろん数や製造メーカーによりますが、12.8倍の差があります。

 

軽量化のためチタンボルトを使うことは有効ですが、プロジェクト的には赤字になってしまいます。

 

 

次にタングステンですが、特徴は密度となります。

タングステンはカウンターウェイトになります。

 

カウンターウェイトといわれても分かり難いので、バランスウェイトでしたり、調整重量などと呼ばれています。重さの吊り合いとるものなんですね。

 

なぜ重さの吊り合いを取るのかというと、いくつか理由がありますが、ロケット搭載時の要求や軌道上の姿勢制御時のバランスによります。

 

ロケット搭載時の場合は、ロケットの打上げ時の飛行バランスの要求になります。

 

姿勢制御時のバランスは、軌道上で姿勢制御を行う場合、全体的に重かったり形状のバランスの悪さから動きにくくなります。

動きにくいと、姿勢制御に使うリアクションホイールのトルクが大きくなる必要があります。まだ、愚鈍になるために目的の場所へ向くための時間がかかります。

 

ただし、タングステンは高いということもありますが、とても硬いです。

ただただ硬いです。

 

金属加工機に使うドリルを知っているでしょうか、タングステンでできているのです。

加工しつつ、タングステンのドリルの刃も折れます。

とても大変なのです。

 

ちなみに、これより密度のある物質はゴールドになります。

 

がんばれ!