とりあえず人工衛星と動物の寿命と比較してみた
宇宙と放射線でしらべると、どこもかしこも長期にわたり安定した動作を欲しがります。
宇宙に打ち上がると、一部の人工衛星を除き、修理することは不可能である。小型人工衛星はほぼ不可能と言ってもよいでしょう。
人工衛星はだいたいムササビと同じくらいの6年から10年くらいの寿命で活動します。小型人工衛星はだいたいシマリスと同じくらいの2年から8年ぐらいの寿命で活動します。
野生の動物は様々な自然環境に曝されると同じく、人工衛星も様々な自然環境にさらされます。人工衛星の中でも強烈なのが宇宙線です。
自然の驚異、宇宙線
宇宙線は太陽活動や銀河の爆発などで発生します。
人工衛星の中でよく言われているのが、陽子(プロトン)線、電子線、重イオン(重粒子)/Heイオン粒子(アルファ線:α線)、さらにガンマ線、中性子線です。
線と表現していますが、宇宙空間を飛び交っている細かすぎる粒のエネルギーの塊なのです。
宇宙線の中で陽子線や電子線が周囲の物質にぶつかることでガンマ線(γ線)が発生し、半導体に入射することで、電離作用を及ぼし、電荷が生成します。やがて半導体(CCDセンサ、COMSセンサ、LSI、RAM、太陽電池セルなど)の特性を劣化させていく効果をトータルドーズ効果(Total Ionizing Dose Effect::TID)と呼ばれています。
一方、陽子線や電子線、重イオン/He粒子の中で高いエネルギーを持つ場合、半導体に入射されることで、致命的な故障を引き起こします。この効果をシングルイベント効果(Single Event Effect:SEE)と呼ばれています。
シングルイベント効果は、回路によってさらに分けられ、データの反転(0、1の反転)が発生することで起きるものを(シングルイベント)アップセット(SEU:Single Event Upset)と呼ばれ、過度な電圧変化が起こる(シングルイベント)ラッチアップ(SEL:Single Event Latch up)と呼ばれています。
例えば、アップセットが発生すると、異常なデータを地上へ送信することになり、一部のデータ欠損や、画像データの破損が発生します。
ラッチアップが発生すると、電流が一気に流れることによる電子部品の故障や損傷、破壊が発生します。
どちらも半導体の電荷量に影響を及ぼすものであり、製造ロットの微細な違いでも影響が変わります。
シングルイベントの場合は、1回で故障を誘発させるため、他の回路や内部の制御やプログラムにより異常データの排除や前後データの差分による上書きなどの部品外で対応するしかありません。
トータルドーズの場合は、累積可能な量が製造ロットでも変わるため、製造ロットごとの管理で、発生期間を長期化できることは可能です。
さらに、はじき出し損傷効果(Displacement Damage Dose Effect:DDD)も発生します。
放射線が入射することで、原子衝突し、原子間の結合を保持できず、弾かれて飛び出してしまいます。結果、部品の特性を劣化させ、原子をはじき出したことによる空の格子を発生させるため、バルク損傷(Bulk Damage)といいます。
参考
半導体の単一イオン照射効果とその評価システム
http://openit.kek.jp/workshop/2012/d-sys/doc/onoda/
JERG-2-143 耐放射線設計標準
http://sma.jaxa.jp/TechDoc/Docs/JAXA-JERG-2-143_N2.pdf
放射線環境
宇宙線で発生する放射線は、捕捉放射線、太陽フレア放射線、銀河宇宙線、地上中性子線が存在します。
太陽活動が活発化すると、電子機器に影響があるといわれているときに発生するのが太陽フレア放射線です。
太陽フレア放射線は、ガンマ線が発生し部品の劣化に関わるトータルドーズ効果を発生することがあります。また、高いエネルギーを持つ陽子線のシングルイベント効果も発生することがあり、電子機器に異常が発生するといわれています。
太陽フレアは、陽子が80~90%、He粒子が10~20%、重粒子が1%と言われています。
陽子線が大量に発生するために、周囲の物体にぶつかりガンマ線も増えていくのでしょう。この時に発生するガンマ線は0.1~1MeVと言われています。
太陽活動を観察し、宇宙予報がたまに聞かれるのは、このような事情があるからです。
さてついでにeVとは、electron voltといい、1Vの電位差で電子が加速するときに得る運動エネルギーのことで、1eV=1.6021×10-19 Jですが、ここではあまり変換式には意味を成しません。
1eVで何が起きるのか、あまりに分かりやすい例がありあましたので、引用して紹介いたします。
1 eV :~化学変化のエネルギーがこのレベルなのである。
~可視光のエネルギーも同じくらいである。そもそも目に見える光というのは、目の中の化学物質が光を受けて化学的に反応することで見えるから
1 keV :~真空放電をするときの電子やイオンのエネルギーがそれくらいである。そして X 線のエネルギーもだいたい同じレベルである。~
1 MeV :~放射性物質から飛び出してくる粒子のエネルギーがだいたいそのレベルである。原子核内の粒子の運動エネルギーがそれくらいだということである。~ガンマ線はこのレベルである。~素粒子の反応で出てくる電磁波はみんなガンマ線と呼ばれる~
1 GeV:~陽子や中性子の質量がちょうどそれくらいである。
1 TeV:~現在の最高レベルの加速器の性能がそれくらいである。~
ついでに人体での吸収線量(Absorbed dose)について記載しておきましょう。
1J/kg = 1 Gy(グレイ) = 1×WR×WT Sv(シーベルト)と表わされます。
WR:放射線荷重係数
WT:人体の組織荷重係数
参考