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人工衛星の設計・製造・管理をしていた宇宙のシステム・機械設計者が人工衛星の機械システムや宇宙ブログ的なこと、そして、横道に反れたことを覚え書き程度に残していく設計技術者や管理者、営業向けブログ

太陽電池パドルの展開検知スイッチの未起動で異常事態となった事例 | Lessons Learned、失敗学、事故事例

惑星探査人工衛星マゼランのソーラーアレイの展開の兆候

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Credits: NASA

https://images.nasa.gov/details-s30-72-046

 

太陽電池が必要な人工衛星は、電力消費が多く、使用頻度の高いミッションを行う場合に搭載されます。

 

展開パドルが働かなければ、人工衛星の電力が足らずに、緩やかに人工衛星が喪失するか、多くの機能が制限されることになります。

 

太陽電池パドルで最も心配する点は、展開機構が正常に稼働するのか確認できるのかという点です。

 

軌道上は、他に観測できるものがないため、展開パドルが駆動するのか、目視することができません。

大型衛星であろうと、地上からの望遠鏡で、かろうじて観測できそうというレベルなのです。

 

 

多くはマイクロスイッチで、パドルの状況を検知しているのですが、検知方法にもいくつかあり、今回はその失敗例となります。

 

概要

金星探査機である人工衛星マゼランは1989年に、スペースシャトルに搭載されて打上げられました。

 

スペースシャトルから放出されたときに、シャトルの宇宙飛行士は、マゼランの太陽電池パドルが展開される様子を観察していました。

 

しかし、太陽電池パドルに実装されていた、パドルが展開されたことで反応するマイクロスイッチの信号が発信されませんでした。

 

テレメトリトランスデューサが、関連する機能だけでなく、目的の機能も検知するようにします。

 

マイクロスイッチの設計では、太陽電池パドルの作動ストロークでの許容以上の動作を考慮する必要があります。

 

宇宙機の寿命の早い段階でFMECAを実行します。

  

発生タイミング

スペースシャトルと打上げられた惑星探査機マゼランの軌道上シーケンス中に、2つの太陽電池パドルがスペースシャトルの宇宙飛行士によって展開されたことが観察されました。

 

しかし、パドルが開ききったことを示す「パネルラッチ」のテレメトリ表示が送信されませんでした。

 

展開パドル機構の故障モードの影響と重要度の分析(FMECA)により、パドルが動いて定位置で固定するラッチのテレメトリの表示に問題があることを特定しました。

 

パドルの起動シーケンスで、スペースシャトルの慣性上段ロケット(IUS)の燃焼によってパネルがラッチ位置に向かって移動するように、パネルが回転しました。

 

分析によればこの異常は、マイクロスイッチの作動ストロークの限界と展開ヒンジの機構のゼロ重力効果の組み合わせによるものでした。

 

 

慣性上段ロケットの燃焼中に、太陽電池のパネルを少しずらすことで、マイクロスイッチが閉じたことで、適切なテレメトリ表示が提供されました。

 

この異常を分析することで、あとの探査機の任務には影響を与えることはありませんでした。

 

Lessons Learned

探査機マゼランの太陽電池パドルに取付けられていたマイクロスイッチは、パドルのラッチの状態ではなくソーラーパネルの位置を検出するように取り付けられました。

 

結果として、位置情報を示すマイクロスイッチであり、「パネルラッチ」を検知するインジケーターではありませんでした。

 

マイクロスイッチの作動ストロークの限界と展開ヒンジの機構のゼロ重力効果により、マイクロスイッチで検知できなくなる可能性があります。

 

故障モードの影響と重要度の分析(FMECA)により、これらの問​​題の回避策を打上げ前に、起動シーケンスの中に組み込むことができる可能性があります。

 

Lessons Learnedを受けての推奨事項としては次の通りです。

 

 テレメトリトランスデューサをどこに取り付けるかを決定する際には、関連する機能だけでなく、目的の機能が実際に検知されていることを確認するように注意する必要があります。


マイクロスイッチのすべてのアプリケーションでは、作動ストロークでの許容以上の動作を考慮する必要があります。

 

最後に

展開パドルの展開失敗あるいは、展開パドルの展開未検知は、20年以上経過した現在でも発生しうる事象です。

 

内容にもありましたが、地上と軌道上では重力が違います。

 

最近では、よりミッション機器へのペイロードを優先するあまり、従来より使用されていた展開機構の軽量化が行われる場合もあります。

 

展開機構が軽量化されれば、自然と展開時に使用されることが多い火工品などの衝撃にパドルがギリギリ耐える設計になります。

 

いくつかの機構では、衝撃を緩和させるために、パドルの駆動部をゆっくり動かす機構に変更していることもあり、結果、ラッチのマイクロスイッチでうまく検知できないことという事象も発生します。

 

機構系の設計は、地上では再現の難しい微重力を考慮する必要があるため、ワークマンシップの確認や量産機の再現性を含めFMEAなどの故障分析を実施する必要があるでしょう。

  


 

Lessons Learnedとは 

Lessons Learnedとは、組織(に関わらないですが)において業務を遂行した上で得られた教訓(学んだ教訓)のことを指しています。

 

得られた教訓というと、失敗や不具合だけを想像しがちではありますが、成功したことについても教訓としてあげられます。

Lessons Learnedは同じ失敗を繰り返さないようにすることと、計画が順調に進んだ成功要因を共有することの2つがあります。

  

NASAで公開されているNASA Lessons Learned Steering Committee(LLSC)から、宇宙業界に限らず、工業製品でも適用できそうなLessons Learnedを集めています。 

 

参考サイト

NASA Lessons Learned

https://www.nasa.gov/offices/oce/functions/lessons/index.html

NASA Lessons Learned Steering Committee(LLSC)

https://llis.nasa.gov/

 

Magellan In-Flight Solar Array Deployment Indication

https://llis.nasa.gov/lesson/289