NASA施設内でのリチウムイオン電池の火災は数日間施設が停止する惨事となった | Lessons Learned、失敗学、事故事例
リチウムイオン電池の火災
リチウムイオン電池の爆発事故は、世界各地で発生していますが、宇宙船のエネルギー貯蔵システムとしてリチウムイオン電池を使用しているNASAでも発生しています。
今回は地上設備で発生したリチウムイオン電池の火災についてまとめたLessons Learnedを紹介します。
ついでに、YOUTUBEに発火の様子と、危険行動も記載されていたので載せておきます。
最初の破裂音注意ですね。
概要
NASAのジェット推進研究所の地下室で特性試験を行っているリチウムイオン電池は、過熱、発火、爆発し、有毒ガスがビルの上層階2階にまで吹き込み、数日間の避難を余儀なくされました。
電池の危険性評価を実施し、研究としての電池試験と、その保管が安全基準に準拠していることを確認した上で、排気システムが建物全体に煙を拡散する可能性を再評価し、宇宙空間で使用される電池の試験構成の改善に影響を与えました。
発生経緯
2009年10月20日のリチウムイオン(Li-ion)電池の試験中に、電池が過熱し、発火し、NASA 研究所(カリフォルニア工科大学ジェット推進研究所(JPL)の高層オフィス)の建物に取り付けられたバンカー内の密閉されたスチールロッカー内で爆発しました。
バンカーは、このような電池の火災の影響を抑えることを目的として特別に設計されていました。
電池試験装置に隣接するロッカーは、初期火災により加熱され、一部が燃え尽きました。
試験に供していた電池は、定格30V、容量15Ahのリチウムイオン電池で、特定のプロジェクトのための試験体ではありませんでした。
試験用電池は、一般的なロッカーと同様に、2枚の金属板で構成された板金ロッカーの中に保管されていました。
ロッカーは、施設の床に6個セットで配置され、配線はロッカーの背面に開けられた開口部を通って配線されました。
この出来事は、電池が同じ試験コンフィギュレーションで、18か月間試験に供した後に火災が発生しました。
電池の火災が発生すると、煙探知器が火災警報器を作動しました。建物にいた人は、怪我をすることなく、建物から避難しました。
JPLの消防施設では、リチウムイオン電池の火災に適した消火器を用いて対応したため、2次的な被害は発生しませんでした。
電池用バンカーは、建物の換気用空調口の近くにあったため、リチウムイオン電池の燃焼による煙と有毒ガスが建物の残りの部分に排出されました。
大気質サンプルが分析され、有毒ガスなどにより建物全体で修復されるまで、建物全体に数日間に入ることもできませんでした。
発生原因
バッテリー火災は、電池の充放電を制御する試験装置と接続されている端子電圧の誤った測定によって引き起こされました。
端子の接続を通して、80個のセル内の温度が上がり、電池の内圧が上昇し、爆発と火災につながるまで、試験用電池に充電され続けられました。
JPLの故障調査によると、根本原因として試験担当者の不十分な知識と経験不足に起因すると考えました。
原因は、欠陥のある地上試験装置の使用と、電池への熱保護が不十分であることでした。
隣接する施設の汚染の原因は、施設の換気および吸気システムの設計に起因するものでした。
Lessons Learned
電池の試験と保管のリスクは、研究開発中の電池の取り扱い方法も、フライト品(宇宙用)に使用する電池の取り扱いと同様に管理し、安全基準を満たす必要があるといえます。
JPLには、試験担当者がリスクの評価に関して認識していない、またはトレーニングを受けていないため、他の研究開発試験においてリスクがある可能性があります。
今回の電池試験は研究開発活動であり、厳密に管理されているフライト用(宇宙用)ハードウェアの検証ではありませんでした。
電池の故障は試験中に発生することがあるため、電池の火災は珍しいことではありません。
ただし、今回の事故につながった危険な電池試験の試験手順には、適切な故障への保護・制御が取り付けられていませんでした。
その結果、火災警報器によりビル全体の避難を引き起こすことになりました。
バンカー内の電池火災による燃焼生成物が、オフィスビルの上層階まで換気口を通って入り込みました。
この施設の教訓に加えて、この事件は同様のリチウムイオン電池を使用したいプロジェクトへ試験構成の改善を示しています。
Lessons Learnedを受けての推奨事項としては次の通りです。
リスクの重要度により、試験品の種類(今回の場合は電池の種類)と試験の種類に対して、各々の危険性評価を実施しすること。
さらに、試験施設の運用前安全性評価を行い、必要に応じて補強を行うこと。
リスクを評価し、リスクの制御方法を施設管理者に連絡してください。
電池の試験手順と保管方法は、人員、施設、設備の安全を保証し、安全基準に準拠している必要があります。
危険物を取り扱う、または保管する場所から、建物の換気システムの吸気口を再評価し、リスクがない事を確認してください。
今回のようなリチウムイオン電池の使用を検討するNASAのプロジェクトでは、電池試験の構成の改善を検討する必要があります。
直前に家訓する項目として、冗長電圧タップの動作を確認してください。
(電池には冗長電圧タップはありません。重要なことは、作業者は機器が故障したことを認識し、機器が修理または交換されるまで試験から除外してください。)
完成時の電池の熱伝導率(あるいは温度計測)の実装を検討してください。
(電池に内蔵される機能ではありません。作業者は、電池の熱管理が将来の試験で考慮事項であることを認識し、適切な試験コンフィギュレーションの構築/換気規定で対応する必要があります。)
ワーストケースでの熱環境、充電制御機器やセンサーの故障ケースなど、電池の充放電時に対応できる機能を実装してくだしさい。
電池の充放電サイクル全体で発生する、ワーストケースでのリスク評価を実施し、各イベントに対して適切な緩和策が実施されていることを確認してください。
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最後に
リチウムイオン電池の火災は増え続けています。
リチウムイオンが広がるにつれて制御されていると思いきや、数が増えているのでその分事故件数も増えているようです。
電池に対する取り扱いは、社会の電池に対する事故が増えるにつれて、宇宙業界でも取り扱いが厳しくなります。
打ち上がってしまえば、問題はないのですが、多くの場合は、ロケット搭載時の安全基準により対応を迫られるものです。
厳しい厳しいと名高い、安全審査の主要目的はロケット搭載時への作業人員への事故や火災を防ぐことにあるので、しっかりと取り組むべき項目ではあります。
リチウムイオン蓄電池は世に出てから、20年も経過しておらず、危険性も知られる物品です。
今後、適切な管理の上、宇宙用に活用してほしいものです。
Lessons Learnedとは
Lessons Learnedとは、組織(に関わらないですが)において業務を遂行した上で得られた教訓(学んだ教訓)のことを指しています。
得られた教訓というと、失敗や不具合だけを想像しがちではありますが、成功したことについても教訓としてあげられます。
Lessons Learnedは同じ失敗を繰り返さないようにすることと、計画が順調に進んだ成功要因を共有することの2つがあります。
案外成功体験というものは、組織の中でノウハウとして蓄積されず、個人の中でされることが多いです。
本人は今までのノウハウから自然と身についていることだとしても、他の人が同じノウハウを共有しているとは限らないため、言語化して残しておくことは重要です。
NASAで公開されているNASA Lessons Learned Steering Committee(LLSC)から、宇宙業界に限らず、工業製品でも適用できそうなLessons Learnedを集めてみました。
参考サイト
NASA Lessons Learned
https://www.nasa.gov/offices/oce/functions/lessons/index.html
NASA Lessons Learned Steering Committee(LLSC)
Lithium-Ion Battery Fire