導波管及びマイクロ波機器のフレーク状の銀メッキ処理の汚染
導波管とは、電磁波を伝送するために用いる中空(ちゅうくう)の構造体のことを指しています。
イメージとしては、特殊な表面処理を行い、電磁波が外部へ逃げたり損失量を減らす金属パイプを想像していただければわかりやすいかもしれません。
電波は大気や物体に反射することで損失されてしまうため、通路を使うことで、電波の受信効率を上げることをしています。
案外、通信系に関わり合いがなければ、導波管と言われても何のことを言っているのか分からない電波用語でもあります。
概要
不十分なメッキが施された導波管は、宇宙軌道上であったり試験中の宇宙機において、コロナ(プラズマ)やアーク放電の危険性を低から宙に引き上げます。
メッキされた導波管の使用をする場合は、地上においては適切な管理を行い、製造工程において十分に確認していく必要があります。
発生メカニズム
教訓となったプロジェクトは河川探査機(MRO) でした。
火星探査機が軌道上に投入されて5か月後に、通信機の無線周波数(RF)導波管のスイッチが故障しました。
原因は、スイッチ内のポリイミドテープのフィルムが熱分解され、スイッチに破片が入ることで誘発されたRF破壊とされました。これにより単一故障による動作不良が発生し、単一故障に関する免除の条件の再検討を規格内に取り込むこととなりました。
ポリイミドテープの熱分解としていましたが、実際のところ、破片の発生源は不明でありました。
火星探査機の故障以前に、別のミッションで、導波管の銀メッキの異常が発生しており、それが原因だったという可能性も上がっていました。
発生の対応・処置
MROで使用されている導波管と同じ製造メーカーが開発した銀メッキされた導波管に問題が確認されたからです。
NASAの受入検査において、不適切なメッキ工程と、導波管の汚染や腐食が確認されたからです。
同じ銀メッキの処理業者から入手したフライト品の補用品であるリジットやフレックス部分に対して、破壊物理分析(DPA) を行い、汚染や剥離、腐食の存在が確認できました。
Lessons Learned
- 銀メッキが不十分である導波路は、軌道上に打上げられている宇宙機含めてリスクが内在しています。MROと同じ製造プロセスによって処理されたフレーク状の銀メッキ処理は、剥離する可能性があります。
- 銀メッキの代わりにニッケルコバルト(電鋳めっき)を使用していたり、異なる製造工程を得て銀メッキされた製品のリスクは低のままです。
Lessons Learnedを受けての推奨事項としては次の通りです。
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通信系の設計では、メッキされた導波管の使用は避けてください。RF損失を低減するため、または熱特性を得るためにメッキが必要な場合は、導波管の製造メーカーと十分に調整し、製造工程を管理してください(例えば、ディップブレージング(アルミを使用した溶接)及びメッキ工程の管理)。
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メッキされた導波路とメッキされていない導波路の両方について、データを収集し、ディップブレージングの厳密な検証を維持します。
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構造体の慣性系の検証を含んだ、導波管と同ロットのサンプルによる破壊的物理解析(DPA)を実施すること。
- 製造メーカーの品質保証管理と検査が適切であること、及び品質管理基準がメッキ処理業者に適用されていることを確認します。
- 導波管の設計図面に関するエンジニアリングノートでは、次のことを義務付けるべきです。
- ミッション担当が承認した手順に従い、導波管を洗浄し、導電率測定を行い、すべての導波管にディップブレージング実施後に塩などの残留物がないことを確認します。
- 熱処理管理規格であるAMS 2772に基づき、340〜360F(171~182℃)で8時間熱処理し、構造要件と分析に従い、必要なT条件を指定します。すべての導波管で硬度測定を実行します。
- 適切な規格に基づいた化成コート、プレート、またはペイントの塗布を行い、各プロセスの検証にはクーポン(試験片)試験を実施する。
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最後に
導波管は、構造・機械設計と通信設計の狭間にあるような気がしています。
損失の検討は通信の知識を必要とし、製造や形状、インターフェースについては機械の知識を使用していきます。
小型衛星の場合は、同軸ケーブルや同軸コネクタが使用されます。
中大型衛星でないと、今後、宇宙機の導波管の設計をすることが無くなるため、正直、技術の継承がちゃんとされるか心配な設計箇所と勝手に思っています。
導波管は、地上アンテナにも使用され、巨大なものはスマートフォンや携帯電話の通信用にも使用されます。
設計そのものはなくならないのですが、宇宙機と考えた時にどこまで生き残るのか、どうなんでしょうね。
Lessons Learned
Lessons Learnedとは、組織(に関わらないですが)において業務を遂行した上で得られた教訓(学んだ教訓)のことを指しています。
得られた教訓というと、失敗や不具合だけを想像しがちではありますが、成功したことについても教訓としてあげられます。
Lessons Learnedは同じ失敗を繰り返さないようにすることと、計画が順調に進んだ成功要因を共有することの2つがあります。
NASAで公開されているNASA Lessons Learned Steering Committee(LLSC)から、宇宙業界に限らず、工業製品でも適用できそうなLessons Learnedを集めています。
参考サイト
NASA Lessons Learned
https://www.nasa.gov/offices/oce/functions/lessons/index.html
NASA Lessons Learned Steering Committee(LLSC)
Contamination from Flaked Silver Plating Off Waveguides and Microwave Components
https://llis.nasa.gov/lesson/1878
Ni-Fe、Ni-Coを用いた電鋳技術