往時宇宙飛翔物体 システム機械設計屋の彼是

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人工衛星の設計・製造・管理をしていた宇宙のシステム・機械設計者が人工衛星の機械システムや宇宙ブログ的なこと、そして、横道に反れたことを覚え書き程度に残していく設計技術者や管理者、営業向けブログ

リアクションホイールは摩耗して寿命を削るため使用管理が重要である | Lessons Learned、失敗学、事故事例

限られた宇宙船リソースとしてリアクションホイールを管理する(2002)

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宇宙船と言えば国際宇宙ステーションISS)が有名です。

 

ISSの大きさは大人用サッカー場と同じ広さです。

 

ただ、居住空間となると地上のように面積では出せず、体積で表すと935m2程度で、だいたいジャンボジェットの客席部分と同じ体積と言われています。

 

ジャンボジェットじゃあ、飛行機をよく使う人か航空業界の人しか分かり難いので、だいたい中学高校の教室の5教室分より少し大きいぐらいです。

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https://www.sekisuihouse.com/nattoku/koubou/seminar_event/public/back_paper/239.pdf

 

意外と広い感じがしますね。

 

この大きさのバランスを取るために、巨大なコマのように回転するリアクションホイールが使用されています。

 

回転することで発生する遠心力によってバランスを取っているのですが、今回はこのリアクションホイールが故障した時の経過と管理手法のLessons Learnedを出していきます。 

 

概要

土星探査衛星「カッシーニ」は、アメリカ航空宇宙局(NASA)と欧州宇宙機関(ESA)により開発され、1997年に打上げられ、2017年9月に運用を停止した人工衛星です。

 

問題が起きたのは、2年半の運用後に、3つのリアクションホイール(reaction wheels :RWA)のうちの1つのリアクションホイールのベアリングケージにおいて、不安定な傾向が発生しました。

 

NASAのジェット推進研究所は、RWAの性能をトレースして、RWA使用の制限しました。

 

RWAの不安定な傾向を監視するソフトウェアツールの使用、異常な挙動を特定するため、RWAのトルク推定器を使用するなど、RWAを管理し、機器の寿命を短くする摩耗の兆候に対応しました。

 

発生経緯

1997年10月に打ち上げられた土星探査機カッシーニの姿勢制御は、3つのリアクションホイールが使用され、バックアップを1基搭載しています。

また、巡航フェーズでは、ほとんどの間、スラスターによって姿勢制御を実行していました。

 

2002年10月に、RWAの3基目(RWA-3)の内部にある2つのベアリングの少なくとも1つでベアリングケージにおいて、不安定な挙動が確認されました。

 

RWAは、2000年3月の姿勢制御で、宇宙空間で初めて使用されましたが、使用されて2年半、不安定な挙動が確認された後からは必要な場合にのみ使用される運用がなされました。

 

発生の対応・処置

RWAの性能は、打上げ後のトルク値の特性評価によって継続的にトレースしていたので、問題を検出することができました。

 

取得したデータを確認し、断続的なRWA-3のベアリングケージの不安定な挙動が9か月間も示されたのちに、2003年7月にRWA-3はバックアップ(RWA-4)に交換されました。

 

残りのリアクションホイールにはほとんど影響はありませんでしたが、同一のベアリングと潤滑剤を使用しており、RWA-3で観察されるベアリングケージの不安定な挙動の可能性があります。

 

したがい、土星探査衛星「カッシーニ」では、RWAの性能低下を管理するために次の手順を実行しました。

 

  1. 主要ミッション中でRWAを使用して科学観測を実施するため、ミッション外のフェーズではRWAの使用を最小限に抑えることとしました。
  2. NASAのジェット推進研究所が開発したRAWの挙動最適化ツール(Reaction Wheel Bias Optimization Tool:RBOT)を使用して、最適なRWAバイアス率を分析し、問題のあるrpmの低い領域内のRWAの実行時間を最小限に抑えました。
  3. RWA(現在バックアップとして機能しているRWA-3を含む)の性能を監視し、その挙動の分析を継続します。

 

ベアリングケージの不安定性は、ノイズやベアリングの抗力トルクの大幅な増加、および過度の抗力トルクの「粗さ」によって予測されます。

 

故障メカニズムは、ベアリングケージの振動を促進し、ベアリングのある潤滑剤(オイル)の局所的な加熱と反応を引き起こし、最終的にはベアリングの早期故障を引き起こします。

 

宇宙船のRWAのベアリングケージの不安定性は珍しいことではなく、姿勢制御にRWAを使用する将来のプロジェクトでも同様の問題が発生する可能性があります。

 

Lessons Learned

宇宙船の運用に不可欠な機器であるため、RWAは異常な数値や寿命を消耗する摩耗の兆候がない場合でも、使用頻度は限定しておく必要があります。

 

Lessons Learnedを受けての推奨事項としては次の通りです。

 

リアクションホイールの使用を管理すること。

  1. RWAの寿命に対する潜在的な兆候を特定するために、受入試験(地上試験)からミッション運用全体に渡り、RWAの性能データを取得し続けることです。
  2. RWAの性能データが、RWAの寿命に影響する可能性があることを示している場合は、ミッションへの影響を軽減するための対策を講じます。例えば、ミッションの終了時に怪しい挙動を示すRWAの使用を減らし、金属同士の接触しやすい低速回転領域でベアリングを操作しないようにします。
  3. 低速回転領域内でのベアリングの動作時間を最小限に抑えるために、RWAの挙動を管理するために、地上ソフトウェアツール(RBOTなど)の使用を検討してください。
  4. 運用制御用のソフトウェアにリアクションホイールの抗力トルク推定を実装して、ケージの不安定性などの異常なベアリング抗力状態を特定します。推定された抗力トルクによって姿勢制御トルクを捕捉することで、宇宙船全体の姿勢性能に対するそのような条件の潜在的なリスクを軽減します。(全地球航法衛星ガリレオ土星探査衛星カッシーニの両方の姿勢制御ソフトウェアは、この補正を実行するように設計されています。)

 

 

 

 


 


最後に

駆動機構というものは、故障が多く、取り扱いが難しいのは地上でも変わりません。

 

人工衛星駆動機構というと、今回話に上がったリアクションホールや同じ姿勢制御機器であるCMG(コントロールモーメントジャイロ)、さらにはアンテナや太陽電池パドルの駆動機構があげられます。

 

これらの故障は、人工衛星寿命に影響されるもので、アンテナの場合、通信不能となるため、ミッションを実行できないばかりか、コントロールもできなくなります。

太陽電池パドルの場合は、太陽光に向けることができず、人工衛星の電力不足を招きます。

 

そのため、機器の受入試験やシステム試験ではその性能を確認し、適切に動作できるか確認する項目でもあり、下手に破損させると修理に時間もかかるため、予備品が作られることもあります。

 

実際のところ、駆動機構を持たない人工衛星が最も安定しており、衛星寿命が長くなる可能性が高いのですけどね。

 

 

Lessons Learnedとは

Lessons Learnedとは、組織(に関わらないですが)において業務を遂行した上で得られた教訓(学んだ教訓)のことを指しています。

 

得られた教訓というと、失敗や不具合だけを想像しがちではありますが、成功したことについても教訓としてあげられます。

Lessons Learnedは同じ失敗を繰り返さないようにすることと、計画が順調に進んだ成功要因を共有することの2つがあります。

 

案外成功体験というものは、組織の中でノウハウとして蓄積されず、個人の中でされることが多いです。

 

本人は今までのノウハウから自然と身についていることだとしても、他の人が同じノウハウを共有しているとは限らないため、言語化して残しておくことは重要です。

 

NASAで公開されているNASA Lessons Learned Steering Committee(LLSC)から、宇宙業界に限らず、工業製品でも適用できそうなLessons Learnedを集めてみました。

 

 

参考サイト

NASA Lessons Learned

https://www.nasa.gov/offices/oce/functions/lessons/index.html

NASA Lessons Learned Steering Committee(LLSC)

https://llis.nasa.gov/

Manage Reaction Wheels as a Limited Spacecraft Resource

https://llis.nasa.gov/lesson/1598

宇宙ステーションの生活と宇宙食と宇宙飛行士

https://www.sekisuihouse.com/nattoku/koubou/seminar_event/public/back_paper/239.pdf

JAXA SPACE PHOTO MUSIUM

https://iss.jaxa.jp/gallery/sp-museum/c01_iss/#:~:text=ISS%E3%81%AF%E5%AE%87%E5%AE%99%E7%A9%BA%E9%96%93%E3%81%AB,%E3%81%8F%E3%82%89%E3%81%84%E3%81%AE%E5%A4%A7%E3%81%8D%E3%81%95%E3%81%A7%E3%81%99%E3%80%82

学校施設の換気設備に関する調査研究報告書[第4章]機械換気設備の計画事例:文部科学省

https://www.mext.go.jp/a_menu/shisetu/shuppan/04062201/024.htm

センサー工学

http://dezima.ike.tottori-u.ac.jp/yokota/index.php?plugin=attach&refer=%E8%AC%9B%E7%BE%A9%E8%B3%87%E6%96%99%E3%81%AE%E3%83%9A%E3%83%BC%E3%82%B8&openfile=%E3%82%BB%E3%83%B3%E3%82%B5%E5%B7%A5%E5%AD%A62%E5%9B%9E%E3%81%8B%E3%82%89%EF%BC%93%E5%9B%9E%E8%AC%9B%E7%BE%A9%E8%B3%87%E6%96%99.pdf