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人工衛星の設計・製造・管理をしていた宇宙のシステム・機械設計者が人工衛星の機械システムや宇宙ブログ的なこと、そして、横道に反れたことを覚え書き程度に残していく設計技術者や管理者、営業向けブログ

ガンプラ小型衛星「G-SATELLITE」で機動戦士ガンダムとシャアザクは宇宙で動く【人工衛星と耐環境性】

機動戦士ガンダムシャアザクハローキティが宇宙にいる件

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今回は2020年3月7日に打上げられた小型衛星「G-SATELLITE」についてです。

CRS-20 MISSION | SpaceX

 

 

 

小型衛星「G-SATELLITE」は、「機動戦士ガンダム」のガンプラ(プラモデル)を軌道上で駆動させるというプロジェクトです。

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このプロジェクトの発端は「東京2020」(トウキョー・ニーゼロ・ニーゼロ)という名称だけ見ても時が過ぎれば忘れられそうな組織によるものです。2020年の東京五輪の組織といえば、記憶がつながる人も多いのではないでしょうか。

五輪を盛り上げよう企画の一つで「ONE TEAM PROJECT」というこれまた頭に残らなさそうなプロジェクト名の一つになります。

 

【特報】TOKYO 2020 | ONE TEAM PROJECT「G-SATELLITE 宇宙へ」

https://www.youtube.com/watch?v=i4bFjZINt0E&feature=emb_err_watch_on_yt

 

日本産のアニメのキャラクター(ロボット)として宇宙に行くことは、ガンダムシャアザクが初めてではないんですね。

 

知っている人が居るかどうか不明ですが、実は2014年のハローキティ40周年の時に、ハローキティが公式に宇宙旅行しています。非公式には2012年にも宇宙旅行済み。

 

ハローキティ人工衛星に乗って初の宇宙空間に

https://www.sanrio.co.jp/corporate/release/y2014/d0812/

www.youtube.com

https://www.youtube.com/watch?v=3-wQEXzqeFk

 

キティちゃん、宇宙へ行く! アメリカの学生がキティちゃんのぬいぐるみをロケットに乗せて宇宙空間に飛ばした動画がスゴい!!

https://youpouch.com/2013/02/12/105544/

www.youtube.com

https://www.youtube.com/watch?v=5REsCTG4-Gg

  

これに関係してか不明ですが、宇宙を舞台にして機動戦士ガンダムハローキティのコラボも発生しています。

 

ガンダムvsハローキティ

https://www.gundamvskitty.com/

www.youtube.com

https://www.youtube.com/channel/UCUWCwmYec08m5aHTYVVZkXQ

 

さて、機動戦士ガンダムの話に戻ります。

 

今回軌道上でガンダムが何をするかは他のメディアでいろいろ記載されていますので後述で簡潔に記載しますが、さっそく、打上げ後にどうなるのか、記載していきます。

最近話題の軌道上を延々と回り続けてスペースデブリになるかどうかですね。

 

可能性は低いですが、他の人工衛星と衝突してしまった場合は、スペースデブリになる可能性もあります。それでも、スペースデブリになったとしても3年ぐらいで大気圏に突入します。

 

今回のプロジェクトは国際宇宙ステーションから放出され、高度400km程度から放出されるからです。

大きさ(空気抵抗)や重さも関係していきますが、今回打上げるG-SATELLITEは10x10x34cm(分離機構搭載サイズ)なので、何もなければ2年ぐらいで地球の重力に引っ張られて大気圏に突入していきます。

 

計画としては国際宇宙ステーションから放出された後に、G-SATELLITEの内部からガンプラが出現してG-SATELLITEの上に立ち上がるような姿勢を取るようです。さらに出現したガンプラを撮影するカメラも駆動して展開するようなのです。

実はこの動きによって人工衛星自体の空気抵抗が増して、大気の影響を受けやすくなるのです。

 

宇宙空間に大気があるのかと疑問に及ぶ方もいるかもしれませんが、地球の重力はなかなか広い範囲まで及んでおり(太陽に対する)地球重力圏の半径はおよそ26万 kmになるといわれています。

重力圏 - Wikipedia

 

G-SATELLITEは成層圏や中間圏より高い位置にある熱圏(80~800km)から打ち上げられるのですが、地球の大気に影響を受けており、空気抵抗を受けていたり、地球の重力を受けることで落下していくのです。

地球の大気 - Wikipedia

 

ちゃんと燃え尽きます(とても重要)

 

ちなみに、

この記事を書くに至ったきっかけである衛星開発のプロフェッショナルの動画

www.youtube.com
participation.tokyo2020.jp

 

今回のプロジェクトでの新しい技術的なポイント

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話は技術的な方に移っていきます。

 

今回のプロジェクトでの新しい技術的なポイントは、どの記事を読んでも書かれていないんですよね。

 

人工衛星自体は、過去の設計とほぼ同一らしく目新しいものは特にありません。

これは逆に挑戦的な技術ポイントはないが、今までの技術の蓄積で今回のような計画が可能になったとも言えます。

 

代わりに、宇宙環境でも色彩を維持できるような塗装とコーティングを押して書かれているため、ピックアップしてみます。

  

宇宙空間で塗装やコーティングといった色とまつわる事象として、熱的な物理現象が発生するようですが、今回はガンプラのカラー(塗装)を使用しているとのことです。

ここはガンプラ製造元の創通(バンダイの親会社)なのかサンライズなのか分かりませんが色彩に対して譲れないところがあったと勝手に類推します。

 

宇宙では熱の影響もあるため、色は限られています。そのなかで、白や黒、金色、銀色はよく使われています。

あまり使われていないガンダムの色彩である赤色、青色、黄色が使用されたことはあるのでしょうか。

実績は不確定までもJAXAの材料データベースからすくっていきます。

 

赤色は国際宇宙ステージョンの日本国旗ロゴに使用されているんですね。

JEM用フライトマーキングといわれるエポキシインクが存在しています。

 

JAXAの材料データベースによると太陽光吸収率59.2%で、垂直赤外放射率95.0%程度です。

同一素材かは記載がありませんが、エポキシ樹脂インクであるMARKEM 7224(赤)のアウトガスデータとしてTML2.620% CVCM0.008% WVR0.216%というデータも存在しています。

ただ、データベースを見る限り、国際宇宙ステーションのロゴはインクではなく、耐原子状酸素性コーティング(耐AOコート)赤色ロゴベータクロスと呼ばれるフッ素系の繊維強化複合材料が使用されていることが多いような気がします。実際のところは知りませんが。

 

青色は使用所は不明ですが、AZ Technology社のAMJ-700IBU #31のデータが存在しており、太陽光吸収率51.0%で、垂直赤外放射率88.2%程度。

しかし、オフガスのデータがなく不明です。

http://www.aztechnology.com/materials-coatings-AMJ-700-IBU.html

太陽光吸収率や垂直赤外放射率のデータはありませんがオフガスデータとしては、赤色と同じくエポキシ樹脂インクであるMARKEM 7224(青) でTML3.573% CVCM0.010% WVR0.192%が存在しています。

  

黄色はAZ Technology社のTMS-800IY #51のデータが存在しており、太陽光吸収率27.9%で、垂直赤外放射率89.1%程度。

しかし、青と同様にオフガスのデータがなく不明です。

http://www.aztechnology.com/materials-coatings-TMS-800-IY.html

黄色はこの他にも、国際宇宙ステーションのJEM補給部にあるスカッフプレート(黄)にて使用されており、太陽光吸収率51.0%で、垂直赤外放射率90.5%程度が存在しています。

このスカッフプレートに使用されているか定かではありませんが日本特殊塗料社製のポリウレタン系スカイハロープライマー #3000, スカイハロートップコート #200(つや消 黄)というオフガスデータがあり、TML2.484% CVCM0.036% WVR0.377%となっています。ただし、太陽光吸収率や垂直赤外放射率のデータはありません。

 

ちなみに、いずれの塗料もTML:1.0%以下を越えています。

宇宙ではアウトガスの制限がついています、いろいろと悪影響を及ぼすからなんですね。

スクリーニングの目安としてTMLが1.0%としています。

1.0%を越えていて使用していいのか否か、宇宙用有機材料アウトガスデータ集にも書かれていますが、システム全体を考慮した上で、注意して使用する必要があります。

 データの適用にあたっては、材料のスクリーニングの目的として用いられていた「TML:1.0%以下、CVCM:0.1%以下」のみでの判断はせず、使用環境、使用量、汚染源と被汚染面との位置関係などを考慮し、システム全体でのアウトガスの影響を評価し、判断する必要がある。
 特に多量に使用する材料、アウトガスによる汚染に敏感な光学システム付近で使用する材料等については注意すること。

”宇宙用有機材料アウトガスデータ集(第1章)”

http://matdb.jaxa.jp/Outgas/OG_main_j.html

※文字数が通常よりオーバーしているのでアウトガス、TMLやCVCMの解説は飛ばします。

 

さて、現状のJAXAの技術蓄積でも色の再現はできるのですが、G-SATELLITEでは色彩への思いが強いのか、使われておりません。

その上で別の技術が使われています。

 

 耐原子状酸素性コーティング(耐AOコーティング)です。

 

前述のように国際宇宙ステーションは、薄いとはいえまだ地球の大気があります。

それは地球表面上でいわれる自然劣化という現象が発生します。

 

そう、先ほど上げたデータを使用して再現したとしても、自然劣化の影響が大きいことから、どうせ使うなら自然な色彩で行い、その上で耐AOコーティングをする結論に至った気がします。

 

 

原子状酸素とは、活性酸素(種)の一種でもあり、存在が非常に不安定な酸素です。

大気上では2つの原子が結合することでO2となり安定となる酸素原子ですが、原子状酸素とは1つの原子で存在している状態を指します。不安定な状態を嫌うため、他の原子や分子と結合しやすい。すなわち反応性がとても高いのです。言い方を変えると強力な酸化剤ともいえます。

原子状酸素は、酸素気体を低圧下で放電したとき、紫外線や放射線を照射したとき、触媒として用いられる金属などに吸着された酸素によって生じるようです。

 

反応性が高い/強い酸化剤があると何が起きるか、分解が発生します。高分子が分解するのです。分解効果は決して悪いことではなく、洗浄、殺菌といった用途で研究されています。

ただ、宇宙空間で活動するための構成部品として相性が悪いだけです。

  

もちろん、この原子状酸素の影響が大きいのは高度700km程度までなので高度を上げることでその影響を減らすことはできます

高度を上げるには打上げロケットや衛星システムの寿命、軌道の人工衛星混雑化も関係しており、ちょっと事情が混み合ってくるんですね。

 

色の再現の前に、耐AOコーティングをしなくとも耐原子状酸素性が高い素材を開発すればよいという話もありますが、そういうわけにはいかないわけです。

熱的特性がとてもよく、数多くの人工衛星に使用されているMLIと呼ばれる金色のフィルム(ポリイミドと呼ばれる高分子)が使用されており、この高分子が原子状酸素性への耐性が弱く分解してしまうという性質を持っています。

MLIだけでなく、コネクタのインシュレーターやケーブル被膜にも高分子材料が使用されており、劣化が進んでいきます。

減らせない高分子材料の劣化への対抗手段が耐AOコートです。

 

耐AOコーティングの素材として、酸化インジウム(ITO)、ゲルマニウム、SiO2(無機シリカ)やシリコーン系の有機系の素材(RSiO1.5)が使われているようです。

※Rは有機官能基を示しており元素記号ではないので注意。

 

そんな技術が使われているG-SATELLITE

 

 参考文献

Fenton反応とヒドロキシルラジカル

https://www.kanto.co.jp/dcms_media/other/backno7_pdf92.pdf

活性酸素計測モニター開発と表面処理プロセスへの応用

https://www.jstage.jst.go.jp/article/jvsj2/55/8/55_12-RV-007/_pdf

フリーラジカルの医学

http://www.f.kpu-m.ac.jp/k/jkpum/pdf/120/120-6/yoshikawa06.pdf

活性酸素の表面作用量モニターを開発

https://www.aist.go.jp/aist_j/press_release/pr2011/pr20110510/pr20110510.html

原子状酸素をプラスチック材料表面に照射、表面形状の変化により抗菌性能が発現

https://engineer.fabcross.jp/archeive/200214_jaxa.html

 

JAXAとの共同開発について~耐原子状酸素コーティングの開発~

http://www.toagosei.co.jp/news/products/pdf/n120907.pdf

http://www.toagosei.co.jp/develop/theses/detail/pdf/no16_02.pdf

低軌道宇宙環境におけ る材料劣化 現象 とその地上 シ ミュ レーシ ョン

https://www.jstage.jst.go.jp/article/jvsj1958/44/5/44_5_506/_pdf

宇宙機用材料の耐環境性

https://www.cst.nihon-u.ac.jp/research/gakujutu/53/pdf/S2-5.pdf

耐原子状酸素コーティングの開発

http://www.kenkai.jaxa.jp/research/kiban/coating.html

 

プロジェクトミッションについてあっさり

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長くなったのですっ飛ばします。色々。 

 

ガンプラサイズ:1/200サイズのガンダムシャアザク、50mm×80mm×90mm

ガンプラ耐温度:-100~200℃

塗装:ガンプラ用塗装

コーティング:耐原子状酸素コーティング

素材:ハイテンプ(耐高温樹脂)、PEEK(Poly Ether Ether Ketone:ポリエーテルエーテルケトン)、ステンレス、アルミ

配線素材:準フロンETFE フッ素樹脂絶縁電線

軌道:高度400km (地球を90分で1周、秒速8km)、国際宇宙ステーションから放出

軌道上分離:2020年4月下旬

終了時期:2020年9月6日

稼動部:ガンプラの首が稼働する。真空対応ギアードモーター。

LED:ガンプラの目とバックパックには真空対応のフルカラーLEDが内蔵。

 オリンピック期間は5色、パラリンピック期間は3色。

 明滅、調光など発光パターンが可能。

ミッション消費電力:2.6W(一般のLEDの消費電力ぐらい)

ガンプラ製作者:山中信弘

 

  • 7台のカメラ搭載
  • 掲示板を搭載し、日英仏の3カ国語で約140種類のメッセージを表示
  • ガンプラとメッセージの画像を地球へ送信
  • どの場所を飛んでいるのかを示すWebコンテンツ「3D 地球儀」を提供

 

www.youtube.com

 

参考サイト

“G-SATELLITE 宇宙へ”

https://participation.tokyo2020.jp/jp/oneteam/08.html

「G-SATELLITE(ジーサテライト)宇宙へ」に参画~東京2020参画プログラム「ONE(ワン)TEAM(チーム)PROJECT(プロジェクト)」
と特別コラボ~

http://www.jaxa.jp/press/2019/05/20190515b_j.html

ドラゴン補給船運用20号機(SpX-20)ミッション

https://iss.jaxa.jp/iss/flight/dragon_spx20/

東京モーターショー「G-SATELLITE 宇宙へ」トークショーレポート

https://www.gundam.info/news/event/news_event_20191107_04.html

ガンダムが宇宙から東京オリパラ応援、ガンプラ搭載超小型衛星が完成

https://xtech.nikkei.com/atcl/nxt/news/18/06614/?P=2

ガンダム、リアル宇宙に翔び立つ。JAXAガンプラを宇宙に打ち上げるプロジェクトを発表!

https://www.gizmodo.jp/2019/05/gundam-one-team-project.html

ガンプラ衛星が完成、なんと"あの2人"の声を宇宙から届ける機能も搭載!

https://news.mynavi.jp/article/20191205-933667/

宇宙(そら)へ挑む“ガンプラ” 五輪応援に極限環境対応の工夫詰め込む

https://www.sankei.com/west/news/190918/wst1909180003-n1.html

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https://i-maker.jp/i/high-temp-resin