人工衛星の分離検知スイッチは如何なるものか
https://images.nasa.gov/details-PIA15268
人工衛星の中で最も重要といっても良いスイッチがあります。
それは分離検知スイッチです。
といってもホット・ローンチ方式と呼ばれる人工衛星、それは打上げロケットに搭載されていても電源がONされている場合、分離スイッチをスタートとして分離後の起動シーケンスが起動しないため、もしものための冗長システムとして使用される場合があります。
ホット・ローンチ方式の場合ではアンビリカルケーブルと呼ばれる、ロケットと人工衛星でほぼ最後まで接続されているケーブルからの放出信号であったり、人工衛星の通信機を利用した放出信号を受信することで、軌道シーケンスが動き出します。
ロケット側の誤作動で放出信号を受けられない場合も、分離機構から放出されたタイミングでONとなる分離スイッチによって起動することで、冗長系の一つに数えられることも多いです。
ただし、コールド・ローンチ方式と呼ばれる人工衛星は、打上げロケットに搭載されている状態で電源がOFFとなっており、分離スイッチが起動シーケンスの始まりになります。
分離スイッチがONにならなければ人工衛星は起動せず、軌道上のスペースデブリと化してしまうとても重要なスイッチになります。
分離検知スイッチは人工衛星本体に搭載されている場合と、分離機構に搭載されている場合があります。
分離機構に搭載されている場合は、人工衛星側の分離面のインターフェースにそのまま取り付けられ、軌道上で一緒に回り続けます。
後者の場合は、軌道上に分離機構も接続されるために、人工衛星の重心が変動するために注意が必要です。
分離機構も含めて、ロケットのペイロードに含まれるため、ロケットのユーザーズマニュアルでの確認は必要です。分離機構がロケット側なのか人工衛星側なのか(ほとんどは人工衛星側ではあるが)確認しておく必要があります。
さらに、確率もかなり低くはありますが、デブリに接触してしまったら破損してしまう可能性があります。
では、分離スイッチにはどのようなものがあるのでしょうか。
プッシュ式のスイッチであったり、コネクタ形式のものであったりと、信号を受ければいいため形にこだわったもの、決まった形がありません。
分離機構は、英文になりますがいくつか参考ページを挙げておきます。
分離スイッチは、誤作動すると意図しないタイミングで人工衛星が起動するだけではなく、ロケット内であれば他の人工衛星やロケットに影響が出る可能性があります。
JAXAの小型副衛星の打ち上げの場合は主衛星に影響が出ない様に、主衛星の分離後に起動することであったり、何秒後以内のロケットに影響したいないタイミングで分離することなどの要件があるのはそのためです。
これはいわゆる小型衛星と大型衛星の違いなのかもしれません。
参考文献
Lessons Learned Developing Separation Systems For Small Satellites
CubeSat concept
https://earth.esa.int/web/eoportal/satellite-missions/c-missions/cubesat-concept
Nanoracks Documents | ISS Research Info & Resources
https://nanoracks.com/resources/documents/
http://nanoracks.com/wp-content/uploads/NanoRacks-Kaber-Deployment-System-IDD.pdf
Nanosatellite Launch Adapter System (NLAS)
https://www.nasa.gov/centers/ames/engineering/small-sat/nlas
ISIS M3S Microsatellite Separation System
https://www.cubesatshop.com/product/m3s-microsatellite-separation-system/
キルスイッチ/フライトピン/ディベロップメントスイッチという何か
https://images.nasa.gov/details-jsc2019e056550
分離スイッチの他に、回路の近いところにキルスイッチがあります。
キルスイッチは人工衛星本体の電源をON/OFFするスイッチのことを指しています。
キルスイッチはフライトピン(RBFピン:Remove Before Flight Pin)と呼ばれることもありますし、別々の回路として識別されることがあります。
人工衛星の電源をON/OFFされるものとして、ディベロップメントスイッチと呼ぶこともあります。
人工衛星を開発する組織によって違いますが、機能は同じです。
電源をONするかOFFするかの違いです。
ここで分離検知スイッチとあえて分けているのは、分離検知スイッチは信号を受信してスイッチが切り替わるため、厳密に言うと電源をON、OFFする最後のスイッチというわけではありません。
ただ、ここまでくると余計ややこしくなるだけなんですけどもね。
先に述べたように、人工衛星を開発する組織によって呼び方が微妙に違います。
困ったことに、打ち合わせの中では、総称して分離スイッチと呼ぶこともあります。
だいたい同じことを示しているが、実際の回路上は違うものを指していることが多い困ったものになります。
結局のところ、回路上で呼び方が違うため、組織によっても名称が変わってくるんですね。
これらを付ける理由は前述したような人工衛星やロケットに影響を及ぼさないため、さらに言うのであれば人工衛星のハザード解析/安全審査にも関わってきます。
いわゆる3(スリー)インヒビットに掛かってくるのです。
インヒビット:事故に繋がる機能について要求しない時にその機能が動作することを抑制するため、事故に繋がる機能を動作するエネルギ源との間に設ける物理的な遮断 電気回路におけるリレー、配管における遮断弁
ハザード解析については、上記ハザード解析ハンドブックを確認しておくのが一番良いでしょう。
このハンドブックにおいても一例を示しているだけで、今後の技術により、より安全な分離検知であったり、電源ONが可能になる可能性があります。
それらを確認するために安全審査を実施しており、ハンドブックでは通り一辺倒でグレーゾーンになる部分を審査していくのですね。
まあ、JAXA衛星の場合ですけど。
JAXA衛星以外の場合は、安全審査をせずとも、被害を受ける利害関係を整理した上で製造しているため各々の組織が担保してくれるでしょう。
(まあ、契約によりけりですけど。)
参考文献
システムモデリングツールを用いた超小型衛星のシステム安全に関する知見の整理と共有
http://www.dimensions-japan.org/dcase/pdf/20170327nanbu
電源システム開発
https://kitsat.net/documents/shibagaki_part2.pdf
https://www.rymansat.com/archives/4335
JEM ペイロードアコモデーションハンドブック- Vol. 8 -超小型衛星放出インタフェース管理仕様書
https://aerospacebiz.jaxa.jp/wp-content/uploads/2016/07/jem_handbook.pdf
SSCnote.ホ-ムペ-ジ:手作り衛星製作者の心得
http://www2s.biglobe.ne.jp/~gshirako/sat_tech.html
超小型衛星鳳龍に搭載される電源システムの開発と検証
https://kyutech-laplace.net/Alumni/2010/M2/imasato/M2-imasato-summary.pdf
超小型衛星「鳳龍弐号」の試験・検証と軌道上不具合原因究明
https://www.jstage.jst.go.jp/article/astj/12/0/12_JSASS-D-12-00047/_pdf/-char/ja
公募型小型副衛星ハザード解析ハンドブック
http://sma.jaxa.jp/TechDoc/Docs/JAXA-JERG-2-025.pdf
宇宙活動法に関する申請
https://www8.cao.go.jp/space/application/space_activity/application.html
宇宙活動法に関する申請マニュアル
https://www8.cao.go.jp/space/application/space_activity/documents/manual-satellite.pdf