往時宇宙飛翔物体 システム機械設計屋の彼是

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人工衛星の設計・製造・管理をしていた宇宙のシステム・機械設計者が人工衛星の機械システムや宇宙ブログ的なこと、そして、横道に反れたことを覚え書き程度に残していく設計技術者や管理者、営業向けブログ

宇宙業界の戦略を立てるための前提知識【宇宙と戦略】

戦略とは弱者のためのツールである

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開発関係やビジネスとしての展開、今後の宇宙に関わる注目すべき関連業界、そして雑学や歴史といった記事が多い中、戦略を立てるための前提知識についてまとめらえている記事は少ないですね。

 

個別で展開されていたり、そもそも人工衛星とは? 宇宙とは? という導入としての情報は多く展開されているが、戦略を検討する上での情報があまりまとめられていない様に感じられたので、これを機会にまとめてみます。

 

 

 

戦略を立てる必要性については次のとおりである。

古典的な分類によれば、意思決定はそのレベルに応じて、上から「戦略」「作戦」「戦術」の三段階で分かれている。

作戦はイメージしやすいだろう。これは目標が設定されたときに、そのためにするべきことをより効率よく行うための仕組みづくりである。これは、会社で言えば、基本的な業務プロセスの作り込みやその改善ということになる。戦術は、さらに抽象度が落ちて具体性が増し、現場レベルでの細やかな動きややり方の調整というものだ。

(中略)日々の業務を頑張ろう、目の前の仕事に打ち込むべしといった、よく強調される美徳は、典型的に戦術レベルの話である。

(中略)戦略を考えるというのは、今までの競争を全く違う視点で評価し、各人の強み・弱みを分析して、他の人とは全く違う努力の仕方やチップの張り方をすることなのだ。

そういう意味で言うと、「戦略」は弱者のためのツールでもある。同じ戦い方で正面衝突すれば、もともと強い者が勝つだろう。だから弱者が勝つためには、戦いのルール自体を変えたり、攻守を逆転したりして、大胆な転換を模索するしかない。

戦略がすべて 新潮新書 瀧本哲史著 

 

戦略がすべて (新潮新書)

戦略がすべて (新潮新書)

  • 作者:瀧本 哲史
  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 2015/12/16
  • メディア: 新書
 

 

単純な話、競争に勝つためにはだれも手を出していない分野で、かつ、延びる可能性、あるいは今後必須になる技術の芽を見つける必要があります。

同じ分野で戦うと巨大な戦力をもって、叩き潰されてしまうからですね。

ただし、違う分野だからと言って、需要が無ければ、資金不足で先細り消えていく可能性も念頭に置いておく必要がありますけどね。

 

今回はそもそもの前提情報を記載していきます。

 

この知識があれば、今まで正体不明であった人工衛星の基本的なことを知ることができます。

設計開発はできないかもしれませんが、人工衛星とはどういうものか学ぶことができます、多分。

 

 スペースパワー

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Credits: NASA

人工衛星が飛んでいる宇宙空間とは何か。

空と宇宙空間を区別できる境界はいくつか存在していますが、一つにジェットエンジンが使用できる高度50km上空を空と呼び、宇宙空間は円周軌道に入る高度150km上空と言われています。

 

 地球の軌道は、高度と実用性の観点から4種に分けることができます。

 

高度150~800kmを低軌道と呼び、地球観測衛星や、有人宇宙飛行、通信衛星国際宇宙ステーションがあります。

低軌道の人工衛星は、1日で地球の周りを14~16回ほどで周回します。

低軌道での通信衛星の場合、60機程度で地球上のほぼすべての場所を網羅することが可能です。

また、ロケットの推進力も他の軌道と比べて少なく、比較的飛ばしやすい軌道であります。

 

高度800~35,000kmを中軌道と呼び、GPS衛星が含まれるGNSS(全地球衛星測位システム)に使用されます。

中軌道の人工衛星は、1日で地球の周りを2~14回ほどで周回します。

24機程度で地球上のほとんどの場所を視野に入れることができます。

 

高度35,000km以上を高軌道と呼び、軌道周期が地球の自転と同じである場合は静止軌道と呼ばれ、地球との位置関係が安定しており、通信衛星弾道ミサイルの発射感知システムを有する人工衛星に使用されます。

高軌道の人工衛星は、1日で地球の周りを1回以上周回します。

赤道上の静止軌道に等距離で配置することができれば、北緯50度から南緯70度までの場所を常に観測できます。また数基の人工衛星により地球上のほとんどの場所を網羅することができます。

その有用性のおかげで静止軌道はあまりにも混雑しているため、国際電気通信連合による規制が必要になっています。

 

これらの軌道以外にも、楕円軌道にも投入することも可能で、地球と一番近い時は250km、遠い時は40,000kmまで高度が変わり、他の軌道では観測が難しかった北極と南極を観測することが可能です。

 

理論上では、地球の重力圏の限界である90.0000kmに人工衛星を配置することが可能です。

 

地球の重力による引力というのは地球に近ければ近いほど強力で、地表から高度100km打上げる推進力は、地球高度100kmから月に行くロケットの推進力の2倍必要といわれています。

ただし、人工衛星を含む宇宙飛翔体は、一旦軌道に乗ってしまえば、ほとんど燃料を使わずに済んで周回することが可能です。しかも、主権国家の上空通過することに許可を必要としません。

 

人工衛星脆弱性として挙げられるのは、予測可能な軌道を通るという点である。アクセスという意味では有用なのですが、敵的な組織にも人工衛星の位置が知られてしまうことにあります。

 

宇宙空間には4つの活動分野があり、1つは宇宙ステーションのような民生、2つ目は通信関連のような商用のもの、3つ目は監視・偵察のようなインテリジェンスの分野であり、4つ目は軍事通信や弾道ミサイルの探知などの軍事の分野になります。

 

宇宙空間という資源を利用した(戦力)強化として、ミサイル警戒システム、衛星通信、ナビゲーション、地球観測が挙げられる。

 

また、人工衛星の軌道が予測可能なものであるということから、ロケットを使用することで低軌道から高軌道までの人工衛星の迎撃も可能となります。

人工衛星は、宇宙に向かって持ち上げる積載量が限られているわけで装甲を厚くするといったことは実現の可能性は低い。

この人工衛星の破壊がもたらす大きな問題の一つはスペースデブリです。破壊によって数千個もの危険なスペースデブリを永久に撒き散らせることになります。

これにより人工衛星の物理的破壊が実行的なオプションではないとも言えます。

 

物理的な破壊以外では、無線周波数妨害や電磁波妨害、地上からのレーザー兵器、小型人工衛星による軌道変更するだけのエネルギーを持った衝突が挙げられています。

 

人工衛星が防御するための手段として、能力を分散化することで広い範囲をカバーするという手法も挙げられています。

 

だいたいこのあたりでしょうかね。

 

参考文献
現代の軍事戦略入門【増補新版】陸海空からPKO、サイバー、核、宇宙まで

現代の軍事戦略入門【増補新版】陸海空からPKO、サイバー、核、宇宙まで

  • 作者:エリノア・スローン
  • 出版社/メーカー: 芙蓉書房出版
  • 発売日: 2019/03/11
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)