往時宇宙飛翔物体 システム機械設計屋の彼是

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人工衛星の設計・製造・管理をしていた宇宙のシステム・機械設計者が人工衛星の機械システムや宇宙ブログ的なこと、そして、横道に反れたことを覚え書き程度に残していく設計技術者や管理者、営業向けブログ

【宇宙機と次号機】なぜ前のプロジェクトでできたことができなくなるのか

前号機と同じものがつくれない

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人工衛星を複数機開発する上で大変なことはいくつかあります。

今回は前号機と同じものを製造するのが難しい理由をいくつか紹介します。

 

1つ目、部品。

2つ目、情報と知識。

 

部品に人工衛星の開発期間が長いために入手困難になる可能性があります。

 

大型衛星は開発に7年から10年であるといわれています。

電子部品のサイクルは早く、特にメモリ関係やセンサー素子は7年、10年もたてば性能も数倍、数十倍、数百倍になっています。下手をすると技術シフトが起きている可能性もあります。

そうなると、もう前号機の部品は買うことさえできません。

かつての部品は製造中止でなくなることはよくあります。

 

人工衛星の機器メーカーはそうなることがすでに分かっているため、初期の製造機器で大量の部品を購入しています。

 

ここで重要なのは初期号ではなく初期の製造機器という点です。

初期の場合に大量に購入すると、製造時や試験時に、故障した時の代替えになっても、その部品が原因で故障が発生してしまっていた場合は変えざる負えないからです。

 

なぜ新しい部品を使わないかというと、コストがかかるからです。

もちろん技術革新で、部品代は下がっていることもあるでしょう。

代替え品を進められることもあるでしょう。

 

しかし、宇宙は実績重視といわれている理由の一つでもあるのですが、一つの部品、あるいは一つに基板や機器そのものに対して、いくつかの試験を実施しています。

それをすべてやり直す必要があるのです。

代替品だとしても細かい特性は変わってしまうのです。

 

すべてをやり直さずに、変更点の評価をすることもありますが、確実性を増したいのであれば試験するしかありません。

ここで価格を出すのは卑怯かもしれませんが、人工衛星は数百億円規模です。

50cmから1m級の人工衛星だとしても、10億円までいかなくとも、数億円レベルです。

 

その確認しなくて、無駄にならないか、常に考えなければなりません。

それ以上の保証や、スピード=サイクルを早く回すという目的があるのならありかもしれません。

サイクルを早く回すということは軌道上実証を早く行えるという大きな利点があります。地上で試験していても、軌道上で得られるデータの方が大きく価値があるからです。

 

で、部品の話に戻りますが、製造した機器が軌道上での実証に成功できれば、その機器は軌道上で有用であることが名実ともに有用であることが分かります。

 

と、軌道上で実証するまでは、多くの衛星開発者がドキドキしながら宇宙を目指しているんですね。

あるいは、宇宙で壊れることが予想せずに打上げて成功というパターンも、すでに何機も製造しているため、壊れるものは壊れる、壊れないのもは壊れないと、自信をもって打上げているパターンもあります。後者は各試験で検証していることを十全に理解し、試験に裏付けられて成功することが分かっているパターンもあるかもしれません。

 

なので、製造までに時間がかかり、初期は量産もできないために、前号機と全く同じものを製造するのはとても難しいのです。

 

情報と知識が消える瞬間

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ある機器を作っていた担当がいなくなったからもう作れない。

初期の人工衛星製造にはよくある話かと思います。

 

人工衛星及びその機器は特注品であることが多いので、技術や知識が一人に集中して、複数で作ることによるインターフェース不備によるスケジュール遅延やチーム理解による協力体制が作りにくい環境にあります。

 

コア技術はある担当の頭の中だけで完了しており、その人以外理解不能であることなんて珍しくありません。

伝統工芸による職人の世界であれば、引退などを理由に発注者側はあきらめるかもしれません。

しかし、会社という屋号が残っているのになぜ製造できないのか、

 

それは特注品であるがゆえに、細かい記録に残さない、設計書がないというのがあります。

発注者から製造した製品のトレースができるように要望されることもあるため、記録を残していることはあるでしょうが、記録に残らない製造・組立の勘までは伝わっていないことがあります。発注者からのトレーサビリティは、製品に対するトレーサビリティであって、技術は残していないのです。


例え、設計資料を残していても、その内容が不完全であれば、自分の変更した変更点の有用性と故障発生を確認することもできないのです。

 

結局は試験するしかないのです。

人工衛星に限らず、多くの設計は、設計書に残らない勘や、組立エンジニアの親切心・配慮によるケーブルの這い回しや半田の質があるのです。

 

日本の場合は、人によってはエンジニアだった人がマネージャーとなることもあるでしょう。

マネージャーが作業をしてはいけないというわけではありませんが、確実に作業量は減ります。作業量が減るということは、見て学ぶことが減るということです。

 

むしろ元祖で製造していた人が管理職となり、審査員となったときに、この設計で過去に失敗したとか、注意・確認事項が抜けているなどということもあるでしょう。

 

それは、あなた方が記録や人の記憶に残してこなかった結果なのです。

それで失敗するのは、先人が残していたものを読み取れないというのもありますが、過去に残さなかったというのもあるのです。

 

それは必ずしも技術力の低下ともいえません。後続号機になると、常に新しい開発、研究に目が行くため、過去の技術はできるものと判断されて、優先度が下がるのです。変更点が発生した時の影響度や確認箇所を見失う程度に。

 

新規技術だけではなく、人が変わったことによる影響度もリスクに含めておく必要があります。その影響度をリスクに含めなければ、思わぬ不具合が発生してしまうでしょう。

 

暗黙知により失われた経験のために、失敗は繰り返すのです。

技術のトレーサビリティは大切です。