世間一般の振動試験とロケットの振動は?
世間での振動試験というと、主に自動車と鉄道、包装貨物の試験がJISで規定されているようです。
- JIS Z 0232 包装貨物ー振動試験方法
- JIS-D-1601 自動車部品振動試験方法(正弦波)
- JIS E 4031 鉄道車両用品ー振動および衝撃試験法
規格は事故や事件が起きると厳しくなったり、新しく追加されますので気を付けてください。
常に新しい情報を求めるようにしましょう。
さて一方、宇宙はどうでしょう。
JAXAの試験ハンドブック(JERG-2-130-HB003)を確認すると、振動試験の考え方は書かれているのですが、振動試験条件は書かれていません。
理由は簡単。
人工衛星を搭載するロケットによって受ける環境条件が違うのです。
JISなどで規定されるような、最低限の条件というのは宇宙ではありません。
ロケットにもいくつか種類がありますし、ロケットと人工衛星の結合方法によっても変わります。
複数の人工衛星と一緒のロケットに搭載されて打ち上がる場合は、人工衛星がロケットの打上げ環境で壊れて、ロケットが壊れない様にするために振動条件を与えます。
契約によっては、ロケット壊れても知らないけど搭載できますとか、保証は各人工衛星を搭載する組織で持ってくださいとか、ロケットを打上げる組織によっていろいろあります。
ロケット丸ごと購入する場合は、ロケット側で人工衛星への振動環境が低くなるような調整もできます
人工衛星用のロケットであれば、振動環境条件をどのように下げるかもポイントになります。
振動環境が厳しければ、人工衛星そのものも強くしなければならず、硬くなるため、重い衛星になってしまいます。
軽く、振動に強い構造を検討することも必要になってきます。
JERG-2-130-HB003 振動試験ハンドブック
https://www.test-navi.com/jp/aero/pdf/j_18.pdf
https://www.test-navi.com/jp/aero/pdf/j_19.pdf
貨物輸送中の衝撃値(加速度)に関するデータベースの作成
https://www.nkkk.or.jp/pdf/public_business_report_3-03-24.pdf
振動数/周波数は同じ
化学系の自分が躓いたのは、違う言葉なのに同じ意味だったということです。
高校物理では習いますが、使わずに忘れてしまいます。
さらに共振点、共振周波数、n次振動数、n次モードの周波数と似た言葉が出てきます。
振動試験機の試験設備や、機械系、さらには鉄道の振動、自動車の振動を取り扱う人によっても言葉が違います。同じ意味なのに。
混乱しますが、同じものであると意識して覚えていきましょう。
マイルズの式とかいう何か
マイルズの式(Milesの式)というものを使用して、振動環境での安全余裕を算出します。
Milesの式の解説は、音響試験ハンドブック(JERG-2-130-HB002)に譲るとして、この式は共振点(固有振動数など)とロケットの振動環境条件から、ロケットで発生する負荷を算出することができます。
mechanical-systems-sharing-ph.hatenablog.com
算出された負荷(=加速度)から構造解析を行い、発生応力を確認して、各材料の耐久可能な強度を求めていくことになります。
JERG-2-130-HB002 音響試験ハンドブック
宇宙業界の安全余裕の考え方
Milesの式で算出された発生応力のほかに、ロケットから与えられる負荷があります。
振動以外に静荷重が加わるのだが、それらの荷重のなかで最も厳しい負荷と使用材料の耐久強度(降伏強度、破壊応力)で計算します。
安全余裕(Margin of Safety:MS)と表現されます。
詳しい解説はJERG-2-320のJAXA標準に譲ります。
材料の許容応力 / 負荷荷重 -1
上記で計算され、0以上であることを確認します。
宇宙以外では安全率や安全係数と呼ばれるものと同じ考え方です。
そこでは、-1をしないことに注意です。
また、アンウィン(W. C. Unwin)とカーデュロ(F. E. Cardullo)の安全率と呼ばれる目安の値が経験的に出されますが、宇宙ではどの程度までよいのか目安の値はないんですね。
上記のように、0以上であればよいという人や0に近いと壊れる寸前なのでもっと強度を高くする工夫をすることという人もいます。
マイナス1をしているのですけどね。
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