ハーネスが損傷する機械的理由
Lessons Learnedとは、組織(に関わらないですが)において業務を遂行した上で得られた教訓(学んだ教訓)のことを指しています。
今回はハーネスが損傷する理由です。
抜粋した資料の情報が少ないため、「終わりに」が本題ですね。
ハーネス(ケーブル)は人間でいうところの神経であり、血管です。
神経や血管が切れれば人体に致命的なダメージを受けてしまいます。
当たり前で、認識が抜けやすいのがハーネスです。
この認識が抜けた結果が今回の事例です。
発生状況
電源機器の電気的誤動作、さらにアースへの短絡が発生した結果、メインエンジンとバーニアエンジンのシャットダウンが発生した。
事故委員会の調査によると故障の最も可能性の高い原因は、ロケット振動によて、配線の絶縁被膜が機械的損傷を引き起こし、アースへの短絡を引き起こしたと結論付けた。
Lessons Learned
重要な機器のハーネスは、振動で引き起こされる応力に耐えられなければならない。
ハーネスは、構造部材の研磨面や鋭いエッジから保護しないと、ロケットの打ち上げ振動によりハーネスが破断する可能性がある。
推奨事項
コネクタの重要度に応じて、品質、検査、及び試験の改善点を特定して実装します。
後続の宇宙機のために、重要なハーネスに対して最低限メガーチェックを実行し、ハーネスを検査した上で、取付の品質を確認する。
終わりに
宇宙機に限らず、製品の製造や運用中にハーネスは損傷します。
稼働中に発生する振動や単純な地震、どれだけ太くても稼働時間が長ければ長いほど被覆そのものの劣化は進み破断の可能性は高くなります。
宇宙機の場合は、大気という劣化要素はありませんが、地上以上の放射線に当てられるため被覆自体も劣化していきます。
もちろん、地上のはるか上にある宇宙機の内部を分解して確認したわけではありませんが、今までの実験から樹脂材である被覆は放射線により分解されることが分かっています。
分解だけれあればいいのですが、冷却器やホイール、アンテナ駆動機構といったものがあるとわずかな振動によりハーネスの破断の可能性が高まります。
ただ現実問題、運用期間が短かったり、放射線観測用の測定機器を搭載して高放射線領域を突入する宇宙機でもなければ、耐候性があり、温度耐性があれば、運用期間が2~4年程度であれば、重要度が高い具材ではありません。
今回の事例では、1時間程度断続的ではあるが強烈な振動を伴う環境に耐えうる実装でなかったということで発生しました。
長期的な視点で見れば重要度が高くない具材であるハーネスであっても、短期間での負荷に耐える必要があり、十分に評価しなければならないと気づかせてくれる事例です。
今回の学びでは、ハーネスに注目して、単純に加工のしやすく入手しやすいハーネスであっても、宇宙機が製造されてから運用されるまでの全期間を考えて評価しなけれいけないということです。
正直、価格が安く、入手がしやすくても製造から運用までの全機械環境、電気環境に耐えれればどこで購入しても、品質にばらつきがあっても問題はありません。
品質もばらつきも、購入後に個別に評価したり、品質のばらつき具合を把握したうえで、リスクが許容できるレベルであれば使用しても問題ないのです。
具材のばらつきを組立・製造工程にウェイトを置くことで、カバーするのも一案です。
一例として、ハーネスの結束を増やしたり、構造体の表面との接着やメタルマウントで固着する部分を増やすことがカバーすることができます。
どこで力を抜き、どこに力を入れるのか。
資金に際限がなければ、具材でも工程でも全力を尽くせばいいのですが、開発のウェイトを変更して進めるのも一案です。
ちなみに機械系では、組立製造工程を強くすると接着剤やメタルマウントの量が増え、宇宙機の重量や重心が変わるためやりたくないです。
むしろ減らしたいです。
ハーネスも忘れずに考慮に入れた上で製品を開発していただければと思います。
近年は電力ケーブルの代わりに無線による電力供給の開発されていることから、少しずつケーブル自体が減ってい行くかもしれないですね。
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参考サイト
NASA Lessons Learned
https://www.nasa.gov/offices/oce/functions/lessons/index.html
NASA Lessons Learned Steering Committee(LLSC)
Delta Wiring Harness Connectors and Installation