60機同時打ち上げから色々考える
SpaceX社はロケットの製造能力を持ちながら、人工衛星の製造能力も持つ、世界的にも数少ない企業です。
通常は、60機も人工衛星を同時に放出することが困難と考えるところ、その考えをうち破りました。
今回は同時60機の打上げた人工衛星の分離機構を想像してみました。
First 60 @SpaceX Starlink satellites loaded into Falcon fairing. Tight fit. pic.twitter.com/gZq8gHg9uK
— Elon Musk (@elonmusk) 2019年5月12日
衛星放出の瞬間から機構を想像してみる
今までのSpaceX社の提供する映像では、通信のタイミングなのかわかりませんが、人工衛星が放出機構から放出される瞬間が映っていませんでした。
今回初めて見られたので、ほんの少しだけ見てみます。
Phase0
Point1:Falcon-9のカメラ視野を確認
分離を確認する前に、Falcon-9のカメラとその視野を確認してみました。
軌道上の画像を見ると、人工衛星を固定している台座のボルトが見えています。
視野の位置から図にある位置の物体がカメラの可能性が高いのではないかと。
Point2:分離前に見えた光
人工衛星の放出を待つ間に光が通り過ぎました。放出機構の分析の前に、この光はどうでしょうか。
この光の正体は想像すると、以下のいずれかと
- Falcon-9が回転して放出されているため、星が見えた
- 他の人工衛星が見えた
- 左図にある切り離される固定ロッドが見えた
3つ目は、固定ロッドはおそらく四方にあるため、別々のタイミングで外れているのではないか。
Phase1:ロッドの分離
Point3:ロケット先端方向のロッド分離
映像を見ると、ロッドのロケット先端側が先に外れました。
全体像を見ると先端部分に、フックのようなものがあり、おそらく分離のタイミングで稼働するようになっていたのでしょう。
人工衛星を固定しているロットとは別のPoint3-Aのロッドから外れることで、人工衛星の固定している拘束が外れる仕組みと見ています。
このことからPoint3-Aのロッドがどこに固定されているかですが、別の人工衛星が最上階で打上げられることから、 プレート(固定ステージ)についているのではないかと。
また、最上階部分が重いと、ロケットの打上げ振動時に大きく揺れる可能性があるため、アイソグリッド構造パネルなのだと。
別の人工衛星が最上階で打ち上げられるということは、最上階近くの人工衛星に別の人工衛星の分離衝撃を受けることになります。
フラットパネル構造であるスターリンク衛星に衝撃が加わると太陽電池パネルが割れる可能性があるから、プレートが有力ではないかと。
Point4:ロケット先端方向のロッドの放出
ロッドが離れた瞬間を見てみると、人工衛星を固定していたロッドがたわんでいました。
ロケットの姿勢制御で放出されるには、大きな力が加えられていると想像されます。
ロッドが人工衛星やロケットにぶつからないように、離れられるようにスプリングの機構のようなものが搭載されていると想像されます。
このロッドは、おそらくアルミニウム合金かチタン金属のような気がします。たわみの振れ具合をみれば、固有値がある程度推測できるかもしれませんね。
たわみを考慮すると、CFRPといった素材では折れる可能性があるため、リスクが高い気がしますね。
チタン金属だった場合、懸念事項として、再突入で溶融されるのかあやしい所です。
Point5:ロケットの根本側のケーブル分離
ケーブルがあっさり抜けたのが確認できます。
このケーブルはロケット先端方向の固定ロッドの機構を動かしている信号、電力ケーブルと思われます。
ただ、ライドシェアとしてロケット先端部分側に別の人工衛星もあることから、別の人工衛星の放出機構の信号、電力ケーブルが 含まれている可能性はあります。
カメラ側のケーブルでは見られませんが、固定ロッドは人工衛星の塊の四方から構想されていると思われるため、四方のいずれかに別の人工衛星分離用ケーブルがあると思います。
Point6:ロケットの根本側のロッド分離
映像を見ると、鳥のくちばしのようなものが見られます。
これもロケット先端側のロッドの機構と同様の機構があると思われます。人工衛星を放出するときに、鳥のくちばしが解放される機構なのではないでしょうか。
くちばし部の先端を確認すると、平たい部分が見られます。
これは放出時に目的の進行方向へ放出されるためのガイドだと思われます。
人工衛星に当たらなくともロケットにぶつからないようにしている機構な可能性もあります。
また、くちばしは、ロケット先端部分が解放される際に、スプリングにより人工衛星へぶつからない様に放出されると仮定すると、スプリングの衝撃に耐えられるような補強具材を兼ねているようにも見えます。
図に描いていますが、クエスチョンマークは想像で描いています。
鳥のくちばしのガイドをスライドさせる機構がないとぶつかるんじゃないかな、という想像です。
Phase2:人工衛星の分離
Point7:ロケット本体から分離
映像で見える最後は、人工衛星の分離です。
案外あっという間なので、この分離部分しか記憶にない方もいるかもしれません。
今までの映像では一気にこのシーンまで飛んでいるためあまり解析の必要はないかもしれません。
この分離のシーン、分離の初めの方ですが、よく見ると束ねられた人工衛星が力が加わって分かれているようにも見られます。
可能性としては次の二つです。
- 分離時に左右に分かれるようにスプリングなどの機構で力を加えている
- ロケットの姿勢で分離する方向を制御している
いくつかのシミュレーションや解説動画を見ると、ロケットが回転している可能性を示しています。Point2でもロケットの回転の可能性に触れています。
ただ、映像を見ると人工衛星の束が接触しない様にそれぞれ逆方向へ向かっているようにも見えます。オレンジ色の線の部分です。
シミュレーションをコマ送りすれば推測できるかもしれませんが、時間がかかるのここではしません。
Phase3:固定ステージの分離?
映像には映りませんが、ロケットの振動時に人工衛星を抑えていたプレート(Point3参照)とされる固定ステージが分離、あるいは再突入されて放出機構のミッションとしては終了と想像しています。
調べてみたら、ユーザーガイドにアイソグリッド構造のプレートがありました。
疑問点
まとめていて疑問として思ったのは、ロケットの振動にどのように耐えているかという点です。
今回のような分離機構の映像がない時は、人工衛星を固定する強固なロッド(主柱)が、人工衛星の束の中心にあり、1つずつ人工衛星を固定していたのではないかと。
ロケットの振動は、ロケットの進行方向の他に、ロケットと垂直方向にも揺れます。
空圧や推進力か何かだけでは、人工衛星は固定できず、ロケットの中でバラバラになります。
Point4にあるロッドで固定されているといわれるかもしれませんが、分離時の衝撃でたわむロッド4本で、60台の人工衛星すべてを固定するのは構造上怪しいです。
考えられるのは人工衛星の構造に、人工衛星の束にしたときに振動への対策がされている可能性があります。
高弾性のゴム(エラストマー)の可能性もありますが、リスクがあります。
ゴム(架橋)構造ではない、高分子材料を挟んでいる可能性もあります。
構造に凸凹をつけて、人工衛星を重ねた時にハマるようにしてロケットの振動を低減させたりしている気もします。
SpaceX社ではこれ以上人工衛星の構造を提示することはなさそうなので、迷宮入りしそうですね。
人工衛星のサイズ感についてはこちらでまとめています。
mechanical-systems-sharing-ph.hatenablog.com
ロケット振動の人工衛星設計へのフィードバックが人工衛星の構造の最適化のポイント
ロケットに搭載できるペイロードの少なさは、近年のライドシェアによるロケットペイロードに搭載可能な人工衛星数の増加に伴い、解決しました。
ロケットと人工衛星は人工衛星分離部(Payload Attach Fitting;PAF)と呼ばれる装置で結合されていることが多いです。
CubeSatをはじめ、小型衛星の打上げ機会が増えたことにより、限られたペイロードで多くの人工衛星を結合放出する装置の技術が知られ、広まったからでしょう。
SpaceX社はStarlink計画の小型衛星以外に、ロケットによる多くの小型衛星の打上げ機会を提供していました。
そのため、自社の製造するロケットが人工衛星にどのように影響を与えるのか、ロケット側からの知見はもとより、人工衛星も試作・製造していたため、直接、ロケットと人工衛星の両方の設計に反映することができたというメリットがあります。
人工衛星の振動は、ロケットに搭載されているPAFを通して伝わります。
ロケットは規定以上の衝撃を与えない様に、PAF近傍に加速度センサーや温度センサーなどの観測センサーを搭載しています。
観測センサーはデータによるフィードバックを受けて、内部環境で空調調整を行ったり、必要に応じてヒーターを作動するときもあります。ライドシェアではほとんどノータッチかもしれません。
フィードバックは地上へテレメトリとして送られ、情報が蓄積されていきます。
多くの衛星に打上げ機会を提供しつつ、かなりの量の情報を蓄積できたのでしょう。
PAFを最適化することも、他のメーカーよりは試験サイクルが早く、データが蓄積できたのでしょう。
ロケットは分かりませんが、人工衛星の構造のポイントは、打ち上げ振動に保つことが一番大きいです。
次に、観測機器のアライメント管理や熱バランス管理などもありますが、やはりロケット振動に耐えうることが一番なのです。
そして、打上げるロケットも保持していることから、小型衛星への打上げ振動の影響もコントロールすることが可能なのです。
フラットパネルデザインと言われるスターリンク衛星ですが、最適化された結果、あそこまで構造を削ぎ落すことができたのだと想像できます。
日本においては、ロケットの製造能力を持ちながら、人工衛星に挑戦し始めた企業が現われています。
H-IIA/H-IIBロケットを製造している川崎重工業は2025年にゴミ除去用の人工衛星の開発を進めているといいます。
イプシロンロケットを製造しているIHIエアロスペースは、2017年に人工衛星を打上げたキヤノン電子と協業していたり、過去に超小型衛星であるCubeSatを2012年に打上げている明星電気と業務提携をしており、人工衛星を製造する能力があります。
これらのメーカーで最適化された人工衛星がどのような構造になるのか興味はあります。
参考資料
FALCON USER’S GUIDE APRIL 2020
https://www.spacex.com/media/falcon_users_guide_042020.pdf
Starlink Satellite Constellation of SpaceX
https://directory.eoportal.org/web/eoportal/satellite-missions/s/starlink