高精度観測機器を取り付けるときの公差設計の悩み【少数生産品、機械設計と時々宇宙機コンポーネント】
公差設計と設計サイクル
https://images.nasa.gov/details-KSC-2013-2351
近年では短いサイクルでの設計開発が加速しています。
そのため公差設計が既存製品の公差であったり、JIS規格にある寸法公差や幾何公差をそのまま流用していることが多いのです。
既存製品の流用やJIS規格は、上限・下限を締めておくことには有用であるが、こと新規要素や新規設計が入ったときに、対応できるかが問題となります。
公差設計を忘れていると、次世代、次々世代の製品での不具合(取付不可、性能未達等)の可能性を高くし、ノウハウとしての蓄積がなければ、それだけの設計コストがかかります。
宇宙業界では年単位での製造になることが多く、実績重視な世界でもあるため、設計変更に心理的にも工程的にも障壁があります。
さらには部品や製品の設計や加工を外注しているため、ノウハウの蓄積や継承がシビアな状況になるのです。
使用する機器はすべて日本製というわけではなく、海外からの購入もあります。
宇宙品質といえど、主にトレーサビリティ管理がされているだけであり、公差設計で仕上がった製品の品質を管理しているだけで、公差設計の質を確保しているわけではないのです。
公差設計(公差解析)は部品の精度に関わってきます。
部品の精度が影響する対象としては、ミッション機器の取り付け、主に光学機器の取付精度に直接かかわってきます。
光学機器の取付精度は、人工衛星の指向性に関わってきます。
もちろん、姿勢の管理値として可変にしていれば、軌道上に打上げた後にある程度調整することは可能です。
ある程度というのは調整範囲も制限がありますし、調整にも時間がかかります。
単純には、人工衛星の機能性能確認に時間がかかり、本来のミッションに掛けるべき時間が減ることは間違いありません。
人工衛星は高い信頼性を持つといっても、不意の衝突事故や放射線により破損する可能性があるため、軌道上の時間というのは貴重なのです。
話がそれましたが、公差設計を検討することは、製品の不具合を減らすことに繋がります。作り直しや時間超過というリスクを減らすことに繋がるのです。
本記事は下記資料を参考にしています。
公差設計手法
公差設計にはいくつか種類があります。
互換性の方法(Σ計算、ワーストケース):
アセンブリにおいてすべてのパーツが積層される方向に最も大きくなる方向と小さくなる方向にそれぞれ積算して最悪値を計算する方法です。
X=a+b+c+d+e
主に少数生産向き
不完全互換性の方法(√計算、二乗和平均、モーメント法):
アセンブリにおいてすべてのパーツが積層される方向に正規分布でばらつきが発生すると考え、分散加法を用いて計算する方法です。
X=√(a^2 + b^2 + c^2 + d^2 + e^2)
主に大量生産向き
パーツの公差の分布に応じて、ばらつきを持った多数のパーツを仮の公差(乱数値)を設定し、アセンブリとして組み合わせた時の公差を計算する方法です。
既に製品化したアセンブリ・パーツがある場合は、各アセンブリ・パーツのばらつきのデータを取得し、次世代の製品に反映することが可能です。
仮の公差が難しくもあるため、もしかすると次世代の製品への反映を行うことが多いかもしれません。
互換性方法の方が公差が大きくなります。
アセンブリの最終型を考えた時に、各パーツの公差は不完全互換性の方法の方が公差が緩くなります。
不完全互換性の方法では確率でばらつくことを考慮しているので、生産数が少ない場合は予測の外に値になることに注意が必要です。
人工衛星の機器では通信機や電力機器のノイズ対策のため、機器内部にシールドを設けることになりますが、加工が長期間に及ぶ場合の材料の温度分布や、短期間で仕上げようとしたときに加工時のドリル等による熱が発生し、初期に設定していた加工プログラムからずれてしまう可能性があります。
不完全互換性の方法でのばらつきを減らすには正規分布の標準偏差を求めていることから3σといった値を使用することが多いです。
正規分布から不良品を以下のように求めることができるために、3σが使用されます。
コストを考慮するのであれば、ここに原価や利益、売上げ、設備投資を考えいくとより分かりやすいかもしれません。
2σ:不良率4.55% 100個毎に平均4個の不良
3σ:不良率0.27% 1,000個毎に平均3個の不良
4σ:不良率0.005% 100,000個毎に平均5個の不良
5σ:不良率0.00006% 100,000,000個毎に平均6個の不良
このあたりの計算は他のサイトに出回っているので、本記事では省略します。
測定設備費用
Precise 3-D Measurements of Objects at Apollo 14 Landing Site
https://images.nasa.gov/details-PIA12947
公差を実現するための検査費用も掛かります。
検査費用といっても人ではなく、検査機の費用です。
公差±0.03
・3次元測定でなくてもよい
・通常空調
公差±0.005
・3次元測定機(数千万円)
・普通空調
公差±0.001
・3次元測定機(数千万円~1億円)
・制振、管理された空調が必要
設備費用から考えると、公差±0.005を超えると跳ね上がることが分かります。
公差±0.005は、JIS B 0405規格の精級を超えます。
そう考えると、JIS B 0405規格の精級と中級どちらでも製造コストがかからないようにも思えますが、公差要求が厳しくなる精級の場合でも中級に比べて温度湿度管理はもちろん、加工速度などの調整が必要になりえます。
この辺りは加工を行う作業者の経験や機械加工設備の精度によるため注意が必要です。
ついでに、一般的な計測器の精度をまとめておきます
デジタルノギス
・測定精度±0.03
マイクロメータ、ダイアルゲージ、測定顕微鏡、投影機
・測定精度±0.01
電気DG
・測定精度±0.005
3次元測定機(数千万円)
・測定精度±0.002
3次元測定機(数千万円~1億円)
・測定精度±0.001
公差設計を実施した先にあるものは、いくつかあります。
- 組立時の微調整の労力低減
- 指向性精度の向上
- 打上げ後の初期フェーズの時間短縮
- ミッション性能の向上
- 不具合発生確率の低下
- 製造コスト低減
実施した方が利点は多く、それだけではなく、公差設計の知識を継承していくということも忘れずに資料にまとめておいた方が良いですね。
公差設計は設計の現場だけでは詰められないところがあります。
設計者として必要な公差を設計していても、加工業者との調整から実際のところ実現が困難であったり、コストに合わないことが分かったりするという前提で、進めていく必要があります。
参考
工程能力指数1.33で最低必要な検査コストを知る | ものづくりニュース by アペルザ
モンテカルロ法による撮影レンズの量産シミュレーション手法の開発
https://www.konicaminolta.jp/about/research/technology_report/2009/pdf/feature_010.pdf
公差解析
https://xtech.nikkei.com/dm/article/WORD/20060515/117079/
https://monoist.atmarkit.co.jp/mn/articles/1807/27/news080.html
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