大型衛星と小型衛星の技術はお互いに成長していく
個人的な大型衛星と小型衛星のイメージとしては次の通りです。
- 小・中型衛星は機能特化型
- 超小型衛星はone機能型
- 大型衛星は万能型
小・中型衛星の機能特化とは、1つあるいは2つのミッションに特化しているというイメージがあります。
それに対して、超小型衛星は、1つあるいは2つのミッションができるというイメージですね。
そして、大型衛星は、複数のミッションができるし、それぞれ高い性能をもつただしミッションによっては小・中型衛星に劣るというイメージです。
超小型衛星と小・中型衛星の違いは、文章上、できるか特化の違いしかありません。
超小型衛星でできることは、小・中型衛星でもできます。
超小型衛星のミッションの性能を向上させる延長上に、小型衛星や中型衛星があるようなイメージです。
そこから大型衛星となると話が変わってきます。
小型や中型衛星の延長上にある部分もあるのですが、繋がっていない部分もあります。
延長上にある部分とは技術面です。
人工衛星の機器や構成の面だけ見ると、脈々と繋がっているのです。
大型衛星の機器の機能をサイズに合わせて小型化していくなど、大型衛星からの技術もあるのですが、小型衛星や中型衛星からの技術を大型衛星に合わせて小型化していくといったものも存在しています。
技術面だけ見ると、大型と小型・中型衛星はお互いに影響し合って、成長しているといえます。
超小型衛星の技術はどうかというと、超小型衛星は、小型や中型衛星へ技術が流れたり、流れてきたりはあります。
大型衛星から、超小型衛星へ技術が流れていく場合ももちろんあります。
ただ、超小型衛星から大型衛星へと技術が流れるという技術はあまりありません。
現時点では、その傾向が顕著になっているように思えます。
近年でも超小型衛星はたくさん打上げられています。
しかし、そのあとすぐに大型衛星へと移行する開発メーカーはあまり聞きません。(知らないだけかもしれないですけど)
どうしても、小型衛星や中型衛星を挟むことが多いです。
その理由は、それは先に述べた技術の流れもありますが、一番の理由はコスト面になります。
ただ、コスト面でいくと、開発というよりユーザー側の側面が強くなってきます。
製造コストではなく、実際に衛星を購入する購入コストです。
ただ、このあたりの話題は結構、巷に溢れているので今回は置いておきます。
今回は、大型衛星(中型衛星含む)と小型衛星(超小型衛星含む)の2つの間の中で繋がらない、延長上にない部分は何が挙げられるでしょうか。
それは開発の考え方や開発組織が上がると個人的に思います。
今回は、個人的に思っている大型衛星と小型衛星の開発の考え方や開発組織の違いについて、考えてみます。
開発の考え方
開発の考え方といっても、いわゆるシステムエンジニアリングにあるような、概念設計、基本設計、詳細設計、運用の流れを変えるわけではありません。
設計で優先すべき順位が変わるのです。
人工衛星においてミッションを中心に考える。ミッション=目的とすることも多いため、目的を達成するために構築していく設計で進めていきます。
大型衛星の場合は、多くのミッションを搭載しています。
もちろん、メインのミッションがありますが、サブとして多くのミッションコンポーネントを搭載しています。
大型衛星は開発開始から打上げまでに5年以上になることが多く、1回1回の機会が貴重です。打上げの機会を無駄にしないために多くのミッションコンポーネントを積まれているのです。
ミッションをすべからく動かすためには、衛星のベース機能となるバス機器にも高い性能と機能を求められていきます。
※バス機器とはミッションとは別に人工衛星を成立させる機器のことで、スマホでアプリでゲームをすることがミッションとするならば、ケースやタッチパネル、電池や制御回路、電源コネクタ、スピーカーといった機器をバス機器と呼んでいます。
バス機器は、ミッションがすべて達成できるように、守備範囲が幅広く設計されています。
そして、ミッション機器に比べて、使用回数が多い。
使用回数が多いと、自然と故障する確率も高まってきます。
故に、高い信頼性が求められてくるのです。
ただ、使用回数が少ない場合でも、トレンドデータが少なくなるため、故障の予兆に気づきにくくなるので、高い信頼性が求められてもきます。
結局のところ、人工衛星の総数が圧倒的に少ないということが原因でもあります。車に限らず、いわゆるコシューマー製品の場合は、人工衛星に比べて製造される数が7桁(百万倍)以上違うため、得られるデータが少ないために発生するのです。
人工衛星の場合は、高い信頼性に目が行きがちですが、バス機器における守備範囲の広い機能と性能という特徴もあるのです。
今まで大型の人工衛星を製造していた組織からすれば当たり前と考えるかもしれませんが、小型衛星では違います。
小型衛星の場合は、そもそも搭載できるミッションが少ないです。
ミッションコンポーネントが大きすぎると、バス機能が搭載できない事態になるぐらい小さいのです。
大型衛星では、機能が部分的に使用できなくなるで終わっていたものが、小型衛星ではそもそも人工衛星のシステムとして成立できなくなります。
全部の機能が使えるか部分的な機能が使えるかであったものが、全部の機能が使えるか全部使えないかの極論にいくことが多いです。
理由はペイロードが少ないからです。余裕が足りないからです。
余裕が足りないということは、冗長系を組んだりすることが非常に難しいということに繋がってきます。
1つが壊れたら、衛星の全機能が止まってしまう事態に陥ります。
もちろんそうならない様に、あらかじめ発生する可能性の高い不具合対策を導入したり、制御回路で保護、冗長化したりするのですが、最終的に運用制限も発生していきます。
小型衛星でなるべく初めに考えておくべきことは、最低限実行することを識別して、切り離す(そのほかをエキストラミッション化する)ことです。
最低限実行するのに必要なコンポーネントのペイロードの確保から検討しておくことが必要になります。
もちろんこの「最低限」とは、衛星を動かすではなく、ミッションが最低限成功するという意味です。
大型衛星でも同じことにたどりかもしれませんがおそらくはFMやPFMの試験時に意識することが多い事でしょう。
それまでは、最低限やるべきことよりも、実現するための設計を追求して進めていたはずです。すべての機能を十全に、万全に動作させることを目標として設計していたはずです。
それが、FMやPFMのデータで現実を知り、落としどころを考える。あるいは、対案を検討する場合もあると思います。
対案の検討というところが、実現するための設計を追求することに繋がっていくのです。
もちろん、小型衛星で同じように、実現するための設計を続けていくと思いますが、ペイロード不足により諦めざる負えなくなります。それは、大型衛星より前のEMやBBMの段階で気づき、判断しておかないと、インテグレーション時に大変な苦労をすることになります。
大型衛星の考え方だとまだまだ時間があるという話になるかもしれませんが、小型衛星の場合は、時間があってもペイロードは増えないのです。早めに切り離さないと、全体の設計が遅延してしまうのです。
大型衛星ではミッションをほぼ頂点として、各サブシステムを構築していきますが、小型衛星では衛星が運用できる範囲を確保してから、ミッションを取り込んでいくという違いがあるのだと思います。
そんな小型衛星にも例外はあります、いわゆる実証衛星であったり初期号の場合は、ミッションを成功させることが優先なので、ミッションを頂点としておくことが多いかと思います。
しかし、ペイロードの少なさから、ミッション実証の最低限の機能を先に確保する、確保できるような検討をしていかなければ、どの設計フェーズであろうとも破綻ギリギリの設計に常に悩まされることでしょう。
それでも初めからすべての機器において限界性能を求めるためには、ある程度の開発マネージメントが必要になります。
「○○がしたい」という人を待っていては小型衛星は広がらない
大型衛星は、「○○をしたい」という人たちのものでした。
小型衛星は、「○○をしたい」という人もいると思いますが、基本は「○○ができるので使ってみませんか」という人に対して投げかけ、提案していく必要があります。
「○○をしたい」という人たちに対して、 大型衛星は技術的に可能であれば、実現に向けて研究や開発を始めます。
しかし、小型衛星は技術的に可能であっても、ペイロードを越えるので打ち上がらずに、製品として不成立になってしまうのです。
故に、小型衛星は何ができるのか、開発側の組織から提案しないと分からないのです。
もう少し広がれば、また別のアプローチができると思いますが、今はこのペースでいくことが多いのではないでしょうか。
さて、そもそも超小型や小型、中型並びに大型衛星と区切りをつけていますが、その定義は、今回の記事ではどう表しているか、気になるという方もいるかもしれません。
今回は、漠然とした状態で話し始めているので、あえて定義はしません。
別に分類学や整理学をしているわけではないので、その辺りは気にせず、漠然と知りたい、ぼんやりとしたイメージだけつかんでおきたいという方にお勧めです。
本ブログでは「定義はしっかり」、多くの組織が関わる場合は、「単語の統一」という話をしつつ、どうなの?という気もしますが、それだけ本記事はゆるいと思っていただければと思います。