COVID-19のロケット打上げ業界への影響
COVID-19は外食や観光産業という身近なものだけでなく宇宙産業にも影響を与えています。
中国から購入していた安価な部品が購入できないことにより、購入先を変更することで全体コストが上昇するという問題も考えられますが、そもそも軌道上に打上げる能力を持つロケットの打上げが延期されてきているのです。
ロケット打ち上げを禁止する理由としては、打ち上げ能力を有する宇宙センターで働く従業員や地元住民への健康に配慮してとのことです。
既に、フランス領のキアナ宇宙センターでは、2020年3月後半、4月に打ち上げられる予定であったロケットの延期が確定しています。フランス領ギアナにおいても数件の感染例が確認されています。
ロケットの打上げが行われれば、多くの関係者がギアナ宇宙センターに集まることになり、どうしても感染と拡大の可能性が高くなるためでしょう。
また、NASAにおいてもロケットと乗組員用カプセルの製造を停止しています。アメリカ合衆国のミシシッピー州にあるNASA最大のロケットエンジン試験施設であるジョン・C・ステニス宇宙センター(John C. Stennis Space Center、SSC)においてCOVID-19の陽性反応が出たというのです。宇宙センター周辺でもCOVID-19の症例が見られる住民が多く、施設の閉鎖に踏み切ったというわけです。
NASAの施設では、ミシシッピ州のステンニス宇宙センターだけでなく、近隣のルイジアナ州のミーシュー組立施設(Michoud Assembly Facility 、MAF)やカルフォルニア州にあるエイムズ研究センターAmes Research Center、ARC)も厳戒態勢に入っています。ステージ4と呼ばれる段階に移行しており、保全と警備を維持する職員のみ施設内で働くことができ、他の職員はすべてテレワークとなっているそうです。
一方で、フロリダ州ケープカナベラルでは米軍の人工衛星であるthe sixth Advanced Extremely High Frequency (AEHF-6)が2020年3月21日に打ち上げを進める方向でいるようです。
欧州と米国は先に述べた通りで、中国ではウィルスとは関係なく2020年3月7日の打上げに失敗しており、現在調査中ということで、別の方面から一時止まっているようですね。
ロシアでは国内のプレセツク宇宙基地(Plesetsk Cosmodrome)やカザフスタン共和国にあるバイコヌール宇宙基地(Baikonur Cosmodrome)から予定通り打ち上げの計画を進めているようです。
ロケット・宇宙船の開発打上げといった宇宙輸送を行っているSpaceX社の社長兼最高経営責任者でもあるGwynne Shotwellも月2回程度の打上げを維持するように対応しているようです。
同じく、民間の商業軌道輸送サービスを行っているBlue Origin、Spaceflight、Arianespace、三菱重工業においても、自宅勤務やCOVID-19の対策を行いつつ打ち上げは継続する旨を宣言しているようです。
Launches from French Guiana suspended due to coronavirus – Spaceflight Now
https://spaceflightnow.com/2020/03/16/launches-from-french-guiana-suspended-due-to-coronavirus/
The virus has gone global—so what happens to the launch industry?
衛星画像から見た環境汚染物質への影響
アメリカ航空宇宙局であるNASAでは、COVID-19が中国全土の汚染を削減しているという衛星画像を公開しています。
How the Coronavirus Is (and Is Not) Affecting the Environment
NASAの地球観測衛星オーラ(EOS CH-1)のオゾンモニタリング装置(Ozone monitoring instrument,OMI)と欧州宇宙機関(ESA)の地球観測衛星Sentinel-5の対流圏モニタリング装置(Tropospheric Monitoring Instrument、TROPOMI)によって中国上空の二酸化窒素の測定を公表しました。
二酸化窒素は赤外領域で観測することができ、石油をはじめとした化石燃料を燃焼させることで発生する窒素ガスです。
二酸化窒素の削減は、呼吸器系へ刺激を与え、咳や喘息を軽減させることができます。高濃度の二酸化窒素(NO2)は、のど、気管、肺などの呼吸器に悪影響を及ぼします
以下の動側でも分かるように中国武漢で騒動の前後の衛星画像を比較すると、季節による緑の減少は見られますが、車両が減っており霧のようなもやもなく明るく鮮明な画像が見えています。
NASAの研究者によると、過去の観測では中国やアジア地域では、旧正月や2008年の北京オリンピックといったイベントにより二酸化窒素濃度が減少し、イベントの終了とともに増加する傾向があるようです。
COVID-19による混乱が起きている2020年では、OMIが2004年に観測をはじめてから15年以上のデータと比較しても、10~30%ほど低減しているとのことです。
ただし、二酸化窒素に起因する光学スモッグの影響は減ってはいるのですが、環境を汚染している物質は必ずしも二酸化窒素だけではありません。人間の肺に影響を与えるPM2.5と大気汚染物質への影響が少ないようで、COVID-19による混乱の前とあまり変わらないようです。
どうも季節の環境条件により風や湿気の影響で留まっていることと、汚染物質が巻き上がらずに地面近くに沈下していることで観測しきれていないといった可能性も上げており、大気が改善しているとは安易に結論付けられないようですすね。
イタリアを含めたヨーロッパの二酸化窒素濃度の観測もされ、中国と同様の結果を得ています。
ESAの記事では、これらの情報を提供することで市民や各組織の意思決定者の判断材料となってほしいと述べられています。
Coronavirus: nitrogen dioxide emissions drop over Italy
地球観測によるCOVID-19の人の動きの影響
先に述べたように、地球環境や宇宙産業にも影響を及ぼしているCOVID-19ですが、地球観測により人や物の増減も視認できることができます。
以下のサイトで、東京ディズニーランドをはじめ、中国やサウジアラビア、イランといった地域で環境の変化を見ることができます。
https://www.abc.net.au/news/2020-03-06/coronavirus-from-space-before-and-after/12032418
https://www.businessinsider.com/coronavirus-burial-pits-iran-grown-so-fast-see-from-space-2020-3
同様の表現は2019年の台風19号でも酪農学園大学の教授がされていました。
酪農学園大学の金子正美教授がGISを用いて台風19号による洪水状況を可視化
衛星画像でわかることは、人の行き来だけはなく、企業の駐車場を観察することにより、従業員の数や生産物の出荷想定まで可能になります。
複数のメディア情報を分析することで、石油の生産量、航空会社への影響、マスクや消毒液生産メーカーの動向を知ることもできます。
Tracking the Coronavirus — Part Three: GO Zooms In On Face Masks & Sanitizer Supply
このような情報を用いて、どういった情報がデマ・誤情報であるかを分析し、広く展開することでも、人々の不安感を減らすことができるのではないかと思います。
日本サイトでの記事
衛星データで見るCOVID-19による経済活動への影響
民間宇宙産業が直面するCOVID-19による影響
参照文献(なかなかの多さ)
Launches from French Guiana suspended due to coronavirus – Spaceflight Now
https://spaceflightnow.com/2020/03/16/launches-from-french-guiana-suspended-due-to-coronavirus/
Airborne Nitrogen Dioxide Plummets Over China
https://earthobservatory.nasa.gov/images/146362/airborne-nitrogen-dioxide-plummets-over-china
China’s capital shrouded in air pollution despite reduced emissions from coronavirus economic slowdown
How the Coronavirus Is (and Is Not) Affecting the Environment
Coronavirus: nitrogen dioxide emissions drop over Italy
NASA images show ‘significant decreases’ in air pollution over China amid coronavirus economic slowdown—take a look
Watch the Footprint of Coronavirus Spread Across Countries
https://www.nytimes.com/interactive/2020/climate/coronavirus-pollution.html
http://www.esa.int/Enabling_Support/Operations/Mission_Control_adjusts_to_coronavirus_conditions
主な大気汚染物質と人体への影響|独立行政法人環境再生保全機構
https://www.erca.go.jp/yobou/taiki/kangaeru/kankyou/03.html
FT-IR の原理と温室効果ガスの赤外吸収スペクトル測定
https://www.osaka-kyoiku.ac.jp/~rck/tohda.pdf
人工衛星による対流圏 NO2・エアロゾルの観測―東アジアにおけるトレンド解析に着目して―
https://www.jstage.jst.go.jp/article/geochemproc/57/0/57_0_229/_pdf/-char/ja
Launch industry puts emergency plans in place for coronavirus, but missions so far remain on schedule - SpaceNews.com
Coronavirus COVID-19's impact seen in before-and-after imagery from space
https://www.abc.net.au/news/2020-03-06/coronavirus-from-space-before-and-after/12032418
Burial pits from Iran's coronavirus outbreak have grown so large you can see them from space
https://www.businessinsider.com/coronavirus-burial-pits-iran-grown-so-fast-see-from-space-2020-3
Satellite images capture impact of coronavirus from Space - ITV News
https://www.itv.com/news/2020-03-18/satellite-images-capture-impact-of-coronavirus-from-space/
https://www.washingtonpost.com/graphics/2020/world/iran-coronavirus-outbreak-graves/
ESA - Satellites will join search for source of Ebola virus
You can see the impact of coronavirus from space
https://qz.com/1815887/you-can-see-the-impact-of-coronavirus-from-space/
Maxar Spotlight: How Misinformation and Negligence in Iran is Propagating the Spread of Coronavirus
Infectious Disease Response Planning with Geospatial Data
Operations Dashboard for ArcGIS
You can see the impact of coronavirus from space
https://qz.com/1815887/you-can-see-the-impact-of-coronavirus-from-space/
Orbital Insight GO Shows Chinese Oil Build Less than What Media Would Suggest
https://orbitalinsight.com/tracking-the-coronavirus-part-one-chinese-energy-trends/
Tracking the Coronavirus — Part Two: Air Travel in China & Asia
https://orbitalinsight.com/tracking-the-coronavirus-part-two-air-travel-in-china-asia/
Tracking the Coronavirus — Part Three: GO Zooms In On Face Masks & Sanitizer Supply
Wuhan Reacts to Coronavirus, the Taal Volcano Erupts and More
https://www.planet.com/pulse/wuhan-reacts-to-coronavirus-the-taal-volcano-erupts-and-more/
Bacteria get dangerously weird in space
Satellite images show how coronavirus brought Wuhan to a standstill