
1. 代表式
断面設計では、部材の形状によって応力分布が変化します。特に、全断面が降伏に至るまでの余裕度を示す指標が
形状係数f です。
【計算式】 f = Zp / Z
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Zp(塑性断面係数): 断面全体が降伏した際のモーメント抵抗。
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Z (弾性断面係数): 表面が降伏し始めた際(初降伏)のモーメント抵抗。
【長方形断面の場合の定義と式】
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b : 断面の幅 [mm]
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h : 断面の高さ(曲げ方向の寸法) [mm]
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Zp : (b * h^2) / 4
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Z : (b * h^2) / 6
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f(形状係数) : 1.5 長方形の場合、断面全体が塑性崩壊するまでには、表面が降伏し始めてからさらに1.5倍のモーメント耐力があることを示します。
Zp:塑性断面係数(断面全体が降伏したときのモーメント抵抗) Z:弾性断面係数(弾性域での応力分布に基づくモーメント抵抗)
技術的には、f は断面形状の「応力分布の偏り」を数値化したものであり、 応力集中の補正や、CAE解析結果の妥当性評価に活用されます。
この考え方を直感的に伝えるなら、f は「断面の形状がどれだけ効率よく力を分散できるか」を表します。 例えば、同じ断面積でも、上下に広がった断面は f が大きく、応力集中が緩和されます。 設計者は f を把握することで、形状変更による補正効果を定量的に評価できます。
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2. Excelでの計算式と入力方法
| 計算内容 | Excel関数例 | 補足 |
|---|---|---|
| 弾性断面係数 Z | =(B1*POWER(C1,2))/6 |
B1:幅 b[mm]、C1:高さ h[mm] |
| 塑性断面係数 Zₚ | =(B1*POWER(C1,2))/4 |
同上。Zₚ は断面全体が降伏したときの係数 |
| 形状係数 f | =Zp/Z |
Zₚ と Z の比率。断面形状の「粘り」を示す比率 |
| 応力集中補正係数 K | =F1/G1 |
F1:最大応力、G1:名目応力(CAEまたは手計算) |
補足: 形状係数 f は断面形状ごとに異なり、Roark’s Formulas や エンジニアズブックに代表値が掲載されています。 CAE解析では Zₚ を直接扱えないため、手計算で f を算出し、応力集中係数 K の補正に活用します。
3. 用語解説
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形状係数 (f): Zp/Z の比率。断面が「初降伏」してから「全塑性崩壊」するまでの曲げモーメントの比率(余裕度)を示す。
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応力集中係数(K):切欠き等の形状不連続による局所応力増幅率。
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取得方法:CAE解析、DIN 743-2、MIL-HDBK-5J などの設計指針
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Zₚ(塑性断面係数):塑性ヒンジ形成時の計算に使用。
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取得方法:断面形状ごとの公式、Roark’s Formulas
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Z(弾性断面係数):弾性域での応力分布に基づくモーメント抵抗
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取得方法:断面形状ごとの公式、JIS A 5506、ASTM D198
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Kf(全塑性マージン): CAEで得られた「弾性解析上の応力」を、断面の「塑性余力」で補正した実質的な安全マージンのこと。
【Kf の取得・算出フロー】
4. 視覚的理解のためのヒント集(形状係数と応力集中)
4.1. 断面の「広がり」が応力集中を緩和する
断面が上下に広がっている(H形鋼など)ほど、効率よく力を支えるため f は小さく(1.15程度)なりますが、材料の使い方は効率的です。
4.2. 断面形状による f の変化
同じ断面積でも、幅広で低い断面よりも、上下に厚みのある断面のほうが f は大きくなります。 この違いが、応力集中の補正係数 Kf に直接影響します。
4.3. f をを用いた塑性マージンの評価
CAEで降伏点を超えた「真っ赤な領域」があっても、断面中心部にまだ弾性域が残っていれば、Kfによる評価で合格と判断できる場合があります。
4.4. 設計判断の流れを頭の中で整理する
Step 1:断面寸法を確認(b, h, d)
Step 2:Zₚ と Z を算出(公式またはExcel)
Step 3:形状係数 f を計算(Zₚ/Z)
Step 4:発生している曲げモーメント $M$ を算出
Step 5:全塑性耐力 $M_p$ ($= f \times Z \times \sigma_{yield}$) と比較し、$M < M_p$ であることを確認する。
5. 設計判断への応用
CAE解析で応力集中部が降伏点を超えた際、直ちに「破損」と見なすのではなく、形状係数 f を用いて全塑性モーメント Mp までのマージンを算出し、構造全体の崩壊を防ぐ設計根拠とします。
- 弾性限界を超えた評価: CAE解析で応力集中部が降伏点を超えた際、直ちに「破損」と見なすのではなく、形状係数 $f$ を用いて全塑性モーメント $M_p$ までのマージンを算出し、構造全体の崩壊を防ぐ設計根拠とする。
- 断面形状の効率性評価: 同じ断面積でも $f$ が大きい断面(例:円形断面 $f=1.7$)は、初降伏後の余力が大きい。逆に I 形鋼($f \approx 1.15$)は効率的ですが、初降伏から全塑性までのマージンが少ないことを理解して設計する。
- CAEと手計算の突合: 解析上の最大応力に対し、塑性断面係数 $Z_p$ に基づく全塑性荷重を算出し、その荷重に対する安全率を報告書に明記することで、レビューの信頼性を高める。
6. 実用例
6. 実用例(航空宇宙・産業機械)
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🇺🇸 航空機部材の曲げ設計(MMPDS/MIL-HDBK-5J) アルミニウム合金やチタン合金の曲げ設計において、表面降伏(初降伏モーメント My)を超えた領域の強度評価に形状係数 f を適用。全塑性モーメント Mp を限界指標とし、軽量化と安全性のバランスを最適化。
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🇩🇪 衛星搭載部品の強度評価(ECSS/DIN 743-2) 打ち上げ時の過大荷重に対し、局所的な降伏を許容する設計判断に形状係数 f を活用。CAEの弾性解析結果に対し、断面の塑性余力に基づく全塑性耐力を算出し、構造全体の崩壊マージンを確保。
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🇫🇷 航空機胴体のリブ・フレーム設計(Airbus SRM準拠) 複雑な断面形状(J形、Z形リブ)への変更に伴い、形状係数 f を再評価。断面の「粘り」を定量化し、CAEでのピーク応力が降伏点を超えた際の妥当性根拠として使用。
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🇺🇸 宇宙構造物の接続部設計(NASA RP-1107) ボルト締結部やラグ周辺の応力集中に対し、材料の塑性流動と形状係数 f を考慮した極限荷重評価を実施。手計算による耐力評価とCAE結果の整合性を確保。
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🇩🇪 産業機械の軸強度評価(DIN 743) 軸肩部や逃げ溝の応力集中 Kt を評価。静的強度において、断面全体が塑性崩壊に至るまでの余裕(形状係数 f)を考慮した安全率を算定。
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🇯🇵 鋼構造物の塑性設計(JIS A 5002) 建築・土木分野の梁設計において、塑性ヒンジの形成を考慮。形状係数 f(Zp/Z)を用いて、極限状態における全塑性耐力を算定し、耐震性能を評価。
7. 設計ミス・トラブル事例
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形状係数 f を「応力低減係数」と誤認
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事例: 応力集中係数 K を f で割ってしまい、局所応力を過小評価して報告。
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結果: 実際には応力は低減されないため、想定荷重で塑性崩壊が発生。
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Z(弾性)と Zp(塑性)の取り違え
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事例: 精密機器の弾性設計において、誤って塑性断面係数 Zp を使用。
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結果: 使用荷重域で永久変形が発生し、光学軸や可動部の精度が失われ使用不能に。
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Kf(全塑性マージン)と切欠き感度係数の混同
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断面変更後の f 再評価を失念
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事例: 長方形断面(f=1.5)から H形鋼(f≒1.15)に変更した際、旧設計の塑性マージンをそのまま流用。
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結果: 形状係数が低下(塑性余力が減少)したことに気づかず、想定より早く座屈・崩壊。
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CAEピーク応力のそのままの採用
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事例: 形状係数 f による補正を行わず、CAEの最大応力が降伏点を超えただけで「NG(設計不可)」と判断。
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結果: 過剰な補強による重量増加と、プロジェクトの遅延を招く。
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DIN 743-2 の適用範囲誤認
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事例: 軸の逃げ溝形状が規格外であるにも関わらず、代表値をそのまま適用。
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結果: 応力集中を過小評価し、実機試験にて軸肩部から破断。
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8. 工学的な歴史的背景
形状係数(f)と応力集中係数(K)は、20世紀初頭から構造設計の中核概念として発展してきました。
応力集中の理論的基盤は、1913年の Inglis による切欠き応力解析に始まり、1930年代には Timoshenko や Peterson によって K の体系化が進みました。
Roark’s Formulas(1938初版)では、断面形状ごとの Zₚ/Z 比(形状係数)が整理され、塑性設計との接続が明示されました。
DIN 743-2(ドイツ)や MIL-HDBK-5J(米国)では、軸肩部や undercut に対する K の補正係数が規格化され、 NASA RP-1107 などでは、航空宇宙構造における応力集中の算定手法が整理されており、これに材料の塑性余力(形状係数)を組み合わせて判断するのが実用的なアプローチです。
一方、日本語資料では f の定義や設計活用が断片的であり、CAE解析結果の補正に f を用いる設計判断は未整備です。
9. 背景と課題
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CAE解析では形状係数 f を直接扱えないため、手計算による補正が必要
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応力集中係数 K の定義が設計チーム内で統一されていないことが多く、レビューで混乱が生じる
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DIN 743-2 や MIL-HDBK の適用範囲が曖昧なまま引用され、設計妥当性が不明確になる
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断面変更後に f の再評価が行われないまま設計が進行し、設計限界を逸脱する事例がある
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Roark’s の代表値をそのまま適用し、実形状との乖離が発生するケースが多い
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f の単位系や定義が設計資料に明記されていないと、CAE補正の根拠がレビューで否定される
10. 設計レビューでの活用ポイント
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Zₚ/Z による形状係数 f を設計資料に明記し、断面形状の効率性を数値で示す
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CAE解析で降伏を超えた部位に対し、形状係数 f に基づく「全塑性耐力」に対するマージンを明示し、局所降伏が直ちに全体の破壊に繋がらないことを定量的に説明する。
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DIN 743-2 や NASA TM 104738 に基づく f の適用根拠を明示し、レビューの信頼性を確保する
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断面変更時には f の再評価を必ず実施し、設計判断の透明性を維持する
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設計テンプレートに代表的な f 値を組み込み、レビュー時の比較と意思決定を効率化する
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f の定義、算出式、適用範囲を設計資料に明記し、レビューでの根拠提示を可能にする
- CAE解析結果に対して、形状係数 f を考慮した全塑性耐力を算出し、設計限界の妥当性を定量評価する。
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CAEの最大応力 σmax は降伏点を超えていますが、断面形状係数 f=1.5 を考慮した全塑性耐力 Mp に対しては、マージン Kf=1.2(20%の余裕) があるため、構造的な破断・崩壊には至りません」と説明する。
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上記 Kf の算出根拠として、Roark's Formulas の断面係数表と、MMPDS(旧MIL-HDBK-5J)の曲げ許容値の考え方をセットで提示し、レビューの妥当性を確保する。
参照一覧
技術手法・計算式・設計支援ツール
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Roark’s Formulas for Stress and Strain (7th Edition)
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断面形状ごとの塑性断面係数 ($Z_p$) および形状係数 ($f$) の公式が網羅されている「バイブル」です。
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※リンク先は旧版を含む検索結果ページ。NASA提供 PDFライブラリ (第7版)
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FAA-NASA Symposium on the Continued
Airworthiness of Aircraft Structures -
NAFEMS – Engineering Excellence: Simulation for
Fatigue Strength and Durability -
エンジニアズブック – 塑性断面係数と形状係数
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各種断面の $Z_p/Z$ 計算式を日本語で確認できる実務サイト。
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実用例・設計事例
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MIT OCW – Structural Engineering Design (Lecture Notes)
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鋼構造物における塑性ヒンジの形成と形状係数の理論的解説。
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MMPDS (Legacy MIL-HDBK-5J) – Metallic Materials Properties for Aerospace Vehicle Structures
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航空宇宙構造における曲げ許容応力($F_{bru}$)と形状係数($k$ または $f$)の相関データ。
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NASA Engineering and Safety Center RP-14-009
工学的背景・規格
- DIN 743-2: Calculation of load capacity of shafts and axles
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軸肩や逃げ溝における理論的応力集中係数($\alpha_t$)の標準的な算出根拠。
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EN 1993-1-1 (Eurocode 3): Design of steel structures
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断面のクラス分け(Class 1~4)に基づき、形状係数を用いた塑性設計を定義する欧州規格。
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- JIS B 0906 (ISO 10816) 等の機械振動・強度関連資料、あるいは設計便覧(応力集中図表)を参照。
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