往時宇宙飛翔物体 システム機械設計屋の彼是

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人工衛星の設計・製造・管理をしていた宇宙のシステム・機械設計者が人工衛星の機械システムや宇宙ブログ的なこと、そして、横道に反れたことを覚え書き程度に残していく設計技術者や管理者、営業向けブログ

モーダルサーベイと呼ばれる共振周波数/共振点探査/振動応答検査のための試験と分析の基礎

モーダルサーベイ試験

モーダルサーベイ試験は、試験する物体に対して低レベルでの加速度を振動試験機で負荷させ、得られ加速度応答データから物体の固有値周波数(振動数)や物体の振動による変形(振動モード)を得る試験のことをいいます。全機振動試験/共振点探査/振動応答検査ともいわれます。

試験自体はランダム振動試験や正弦波振動試験の低加速度レベルで試験されます。

 

モーダルサーベイ試験と宇宙機開発の関係

モーダルサーベイ試験は、宇宙機の機械環境試験でもよく使用されています。

 

一つは、ロケットの打上げ振動、あるいはモーターを含む駆動部品、製品内部の部品同士が共振する周波数(共振周波数)にないことを確認するために試験を実施します。

 

さらには、ロケットの打上げ環境を模擬した高負荷を掛けるランダム振動試験や正弦波振動試験などの振動試験前後で行われ、高負荷を掛けた振動試験中に、構造的な破損が発生していないかを確認する際に使用されます。

 

物体の固有値周波数や振動モードのデータを得ることにより、物体を分解せずとも物体内部(電子部品や基板、ネジなど)の破損の有無を推定することを可能としています。

 

また、目視では確認できない構造的な異常の有無をデータにより確認する方法としても利用されます。

 

ただしこの使われ方は一般的ではなく、通常の製品でモーダルサーベイ試験を実施する場合は、試験体の共振周波数を取得することをメインとしており、物体の破損の確認のために主要な負荷をかける振動試験前後の2回で実施されることはとても少なく、試験前の一回で終わることが多いようです。

 

一般的には、内部部品同士や搭載先の部品との共振が発生していないかを確認しつつ、構造シミュレーション結果とモーダルサーベイ試験の結果を合わせることにより、構造シミュレーションで構築する数学モデルの精度を向上させることにも使用されます。

モーダルサーベイ試験の取得周波数範囲

人工衛星の場合、モーダルサーベイ試験の取得周波数帯は20-2000Hzと広域で取得されることが多いです。

一方、通常の製品の場合はそこまでの広域を取得することは少なく、200Hzまでであったり、500Hzまでであることが多いです。

 

これは、どの加振機であっても、高周波数帯でノイズを受けてしまい、精度が低くなってしまうことが理由となります。

精度が低いのであれば、取得する必要性も低下します。

 

特に正弦波振動でのモーダルサーベイ試験は、取得周波数帯がそのまま試験時間に直結してしまうため、短い範囲で取得した方が費用的にも安くなります。

 

人工衛星を含めた宇宙機の場合は、前述のように振動試験による故障を分解せずに推定する、さらにいうと試験対象の組み立ての確からしさ(ワークマンシップ)を確認することも目的の一つにしています。

そのため、(高周波数帯を含めた)広域の周波数帯のデータを取得した方が得られるデータが多く、実際に不具合が発生したときに有利に働くことが往々にしてあります。

 

宇宙機では、試験回数も多量に生産しないため試験用の製品でも高価で、複数台作られることが少なく、また、披露蓄積の観点から複数回試験することも少なく、試験そのものが貴重な機会になります。

 

このように広域で取得された周波数帯のうち、低周波数帯は外部(ロケットなど)の固有値振動数と共振しないかを確認するためであり、高周波数帯は前述のとおり物体の構造的な異常を確認しています。

 

一方で高周波数帯のデータは、高速フーリエ変換FFT)を使用してもノイズが大きく、宇宙機を試験したことのない振動試験作業者からは意味のないように思われることも多くみられるのは事実です。

しかし高周波数帯のブロードな形状は、構造物全体の傾向や試験前後の異常を検知するための判断要素になりえます。

宇宙機でのモーダルサーベイ試験のデータ取得の目的

宇宙機でのモーダルサーベイ試験のデータ取得は、共振周波数を確認することを目的の一つにしているのですが、宇宙機の場合は優先度としては低めに設定されます。

 

というのも、宇宙機の場合は打ち上げない試験用で打ち上げる機体とほぼ同一の構造を持つEM(エンジニアリングモデル)、あるいはSM(ストラクチャーモデル)を利用して、事前に確認していることが多いのが理由です。

 

ちなみに一部の宇宙機の開発プロジェクトでは、EMあるいはSMを製造しない選択肢を取っていることもあります。これはリスクを検討した上での選択しています。

 

この辺りは特に、特定の開発手法というものはなく、各開発プロジェクトの様々な事情から選択されます。

開発上の確実性を狙うのであれば、いくつかのモデルを製作するべきですが、資金やスケジュールの問題からしばしばすべてのモデルを製造することが難しくなっています。

 

頭ごなしに開発手法を否定せず、リスクや制限条件を明確にしたうえで、実施の有無の判断をしていきましょう。

例えば、やり直しをリカバーできるだけのスケジュール感、過去と類似設計であるために、構造的には問題ないという判断、精度の高い構造シミュレーションモデルの製作ノウハウなどがその一端にはなりえます。

 

省略する場合は、何を犠牲にしてプロジェクトを進めているのか認識し、話し合った上で進めることをお勧めします。

 

プロジェクトは後になればなるほど、被害やストレスが過大になっていくものです。

 

モーダルサーベイ試験は正弦波振動試験かランダム振動試験か

モーダルサーベイ試験としては正弦波振動試験とランダム振動試験を使用します。

 

正弦波振動試験は、周波数をスイープして加振させていくために、特定の周波数帯で大きく振幅すれば、固有値振動数や共振が起きていると感覚的にも理解できるのではないでしょうか。

 

ではランダム振動試験が利用されているのはなぜでしょうか。

 

ランダム振動にはその名の通りランダムな振動要素が含まれており、その中に正弦波振動の成分もあります。

そのため、ランダム振動試験の条件でのモーダルサーベイ試験を実施しても共振点を探ることができます。

ランダム振動は正弦波振動以外にも複数の振動が組み合わされており、比較的実際の環境に近い振動環境を負荷させることができます。

 

モーダルサーベイ試験における正弦波振動試験やランダム振動試験は、製品の機能性能を確認する試験ではありません。

加速度も1Gにする必要もなく、掃引速度もあまりにゆっくりである必要もありません。

 

宇宙機では正弦波振動試験で実施する場合、掃引速度が4oct/min程度でも取得することが多いです。

 

一般製品の場合は、JIS規格(JIS C 60068-2-64:2011 (IEC 60068-2-64:2008) 、振動応答検査の欄)で1oct/min以下とされていることから、1oct/minを設定するプロジェクトが多い気がします。

共振点探査の共振とモード解析

共振は物体の固有値振動数(周波数)と外部の振動数(周波数)が一致した状態をいいます。

 

共振になると、減衰(ζ)がなければ周波数の振幅が無限大に増大していきます。

実際の構造は減衰が存在するために、振幅が無限大になることはありません。

 

この振幅の倍率は共振倍率Q=1/(2ζ)で計算され、どれだけ振幅が増幅するかを示しています。この計算式でわかる通り、振幅の増幅は物体の減衰によって計算されます。

 

振幅が大きくなると、物体が大きく震える(揺れる)ため、変形を引き起こし、物体の強度を越えると破壊されてしまいます。

 

振幅の大きさ(単位:m)と、振幅が1秒間に何回振動するか(振幅の波が何回発生するか)は振動数(単位:Hz)によって表されます。

 

複数の物体の振動数が、同じあるいは近いと振動が合成され、振幅が大きくなっていき、いわるゆる共振を発生させます。

 

構造設計では、固有振動数(物体が持つ固有の共振周波数】を構造シミュレーションや実試験により算出します。

物体の固有値振動数(周波数)と内外部からの振動による振動数(周波数)を離すために、部分的な物体の剛性を高くするなどの設計することが重要な課題となります。

 

文頭にざっくり述べましたがモーダルサーベイは、物体の構造を理解するための手法です。共振点探査や振動応答検査とも称されます。振動応答検査はJIS内で記述があるのですが、業界や組織によって呼称はまちまちであることも注意が必要です。

 

物体は、ある周波数で励起される(外部から特定の周波数を受ける)と、モードと呼ばれる特定の形状で振動あるいは変形します。この振動や変形も、複雑な組み合わせにより様々なモード形状が発生します。

試験や解析により、構造の固有値振動、モード減衰、およびモード形状を特定することをモード解析と呼ばれることもあります。

 

試験以外でもモード形状と固有振動数は、有限要素解析モデルといわれる数学的モデルを使用して予測することができます。構造シミュレーションや構造解析といわれます。

 

固有値振動数を確認し、共振周波数の情報を入手することで、物体がどの周波数帯域で振動するかを知ることができ、モード解析により、どのような変形をするのか知ることができます。

 

さらに変形量や物体への負荷を知るには、物体に対して外部からどのような負荷が掛かるのか、振動試験条件による負荷から算出することができます。

この負荷はマイルズの式により算出することができます。

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設計初期段階での構造シミュレーションの大切さ

構造シミュレーションはエンジニアが構造物を設計した時に、実物を製造する前に構造特性を理解するのに役立ちます。近年ではバーチャルエンジニアリングとも呼ばれる手法の一端を成しています。

 

この数学モデルも、設計の初期段階や初めて解析をする場合などは、実際に製造した構造物と差異があるため、ある程度の精度を得るまでは、試験機などを利用して実際もモーダルサーベイ試験結果と照合していくことで、物体の構造特性を理解する助けになります。

 

構造シミュレーションの経験者は、設計段階の不確かな部分を考慮しつつ、実際に製造した構造物と数学モデルで再現できない部分を考えながら、製品の評価をしていくことがとても大事です。

 

例えば、全ても固有値振動数を数%単位で合わせこむことは初期段階やある程度の製品の振動特性情報の蓄積がないと厳しい。

 

設計者が欲している都合の良い結果が出ることは少ないため、多面的な視点が必要になります。

 

特に初期から構造シミュレーションを取り入れずに、問題が発生してから取り入れる場合は、時間的制約や製造的な制約も発生するため、解析した結果を精査することが難しくなってしまうこともあります。

 

その場合は実際の製造物の固有値振動数などの振動特性をの合わせこみは止めて、振動特性の傾向に絞り込むのも一つの手段です。

どのモードが低周波数帯で発生するのか、最も揺れるモードがどこにあるのかなどを探っていくというのも分析手法としてはありです。

 

これらの確認は、設計の早いフェーズで実施していた方が、設計・製造の出戻りが少ないです。

宇宙機コンポーネントでいうと、電子部品がたくさん載っている基板の揺れを抑え込むために、支柱を増やしたり、座金の径を大きくしたり、ねじのサイズを上げたり、ねじの本数を上げたり、いくつかの材料を変更したり、振動を低減させるダンパーのようなものを追加するなどの具体的な案を取りやすくなります。

 

これらは設計後半になるほど、基盤の部品密度が高くなりすぎて、重量部品の移動ができなかったり、放熱のためのヒートシンクの場所や大きさが限定されてしまうことにより、設計・開発者を非常に悩ませます。

 

宇宙機コンポーネントの場合は削り出しであることが多く、再製作や再加工に時間がかかってしまうことが予想されます。

ハンマリング法

モーダルサーベイ試験には、ハンマリングと呼ばれるインパクトハンマーによる方法とモーダルシェイカーという方法が一般的です。

 

宇宙機ではモーダルシェイカーを利用することが多いです。

モーダルシェイカーとは、簡単に言い過ぎると振動加振機上で実際に筐体を振動させることです。小型もあります。

 

モーダルシェルカーが使われる理由の一つは、ハンマリングの方が筐体に対して何度も不均一な衝撃を加えるため、ダメージが予想できにくいことと、数メートルクラスの宇宙機に対して適度な威力で振動させることが難しいためです。

もしかすると、衝撃試験機により均一な衝撃を与えることが可能になっているかもしれませんが。

 

さて、数メートルクラスの宇宙機に対して衝撃を与えるほどのハンマリングの装置を準備するよりも、振動試験機(加振機)を使用した方が安定しており、すぐに振動試験に移行できるために時間的にも有利で、比較的再現性が高いということも理由の一つです。

モーダルサーベイ試験は正弦波振動とランダム振動のどっちでやるの?

モーダルサーベイ試験は前述のとおり、正弦波振動とランダム振動の両方で目的の振動特性を取得することができます。

そして、比較的ランダム振動で取得することが経験的には多いです。

 

というのも、正弦波振動試験の方がランダム応答試験よりも試験対象に付加される構造的なストレスが大きいためです。

 

感覚的には逆に思われる人が多くいそうですが、共振探査ではない正弦波振動試験も、ランダム振動試験よりも強い負荷を掛けられることが多いです。

 

実際にランダム振動試験より正弦波振動試験の方が、物理的な損傷による不具合が多くはないでしょうか? (これは経験則に寄るかもしれませんが)

 

このような理由から、宇宙機への負荷を減らしたいためにランダム振動試験を選択するプロジェクトが多くなっているのではないでかね。

 

もちろんランダム振動試験にもデメリットがあり、ランダム振動を負荷されていることから、想定とは違う回数のストレスを宇宙機に負荷されてしまいます。

 

おそらくは負荷の回数よりも宇宙機自体の負荷(ダメージ)を選択した結果でランダム振動を負荷させているのではないかと思います。

 

ただ、固有値振動数、共振周波数の正確性の確認を主としつつ、ある程度ダメージを得ってもよいモデル(試験用試作品)の場合は、正弦波振動試験の方が比較的正確性が高いです。

この辺りはプロジェクトの考え方次第です。

振動試験で主に得られるデータ

振動試験で主に得られるデータは、周波数応答関数(FRF)、コヒーレンスの信号データを注目します。

これらの信号による線形スペクトルから、パワースペクトルやクロスパワースペクトルを計算します。測定値はノイズも多いため、高速フーリエ変換を用いて平均化していきます。

 

周波数応答関数は、加振させる入力信号と加振により反応した出力信号の2つの信号から計算されます。伝達関数ともいわれます。

 

一般に出されるスペクトルはこの周波数応答関数によるものです。取得データの分解能が低い(取得データの周波数単位が少ない)場合は、高速フーリエ変換をしてもギザギザと荒い形状を成すことが多いです。

 

コヒーレントは周波数応答関数に関係して、加振により反応した部分が励起に起因するかを示し、測定自体の評価に使用されます。

縦軸が0から1で示され、基本は1側に張り付いており、構造的な応答が悪い場合に低くなる傾向があります。

参考文献

JIS C 60068-2-64:2011 (IEC 60068-2-64:2008) 環境試験方法−電気・電子− 第2-64部:広帯域ランダム振動試験方法及び指針

https://kikakurui.com/c60/C60068-2-64-2011-01.html

Basics of Modal Testing and Analysis

https://www.crystalinstruments.com/basics-of-modal-testing-and-analysis

設計において共振周波数を改善する方法とは?

https://d-monoweb.com/blog/improve-resonance-frequency/

周波数応答解析

https://www.fem-vandv.net/c27.html

第 4 章 環境試験・検証試験

https://kitsat.net/documents/Nishimura_part1_4.pdf

大型衛星に対する振動試験

https://www.jstage.jst.go.jp/article/jjsass1969/31/355/31_355_428/_pdf/-char/ja

 

宇宙業界用語「宇宙交通管理(STM)」について

宇宙交通管理こと、STM:Space Traffic Managementとは、宇宙機の打上げ、軌道投入、軌道変更、軌道離脱、地上への落下までの活動を管理することをいいます。

[目次]

 

宇宙空間の交通事情

宇宙空間の交通は地上と比べると比較的自由です。

信号がなければ、交差点もない、看板や標識もなく、速度制限もありません。

方向転換は難しいですが、地上のように、直進、後退、左折、右折だけではなく、上方向や下方向も可能です。

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飛行機に近いのですが、空港のようにどこかの拠点に集まることありません。

 

地球を周回する人工衛星同士の接触は少ないです。

人工衛星は、自ら方向転換することが難しく、推進系と呼ばれるスラスターより燃料を放出した際に発生する推力で方向を変えています。

 

それ以外では、主に地球の大気による空気抵抗と地球の重力により、人工衛星の速度が低下し、落下していきます

 

落下していくだけではなく、役目を終えた人工衛星を意図的に地球に落下させたり、静止軌道などの高高度のある人工衛星の場合は、墓場軌道と呼ばれるさらに上空の高度の軌道に移動させていきます。

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墓場軌道に移動させる理由は、比較的多くの人工衛星が配置される可能性のある軌道の場合、役目を終えた人工衛星の位置が、今後打ち上る人工衛星に邪魔となるため移動させます。

 

全ての人工衛星に推進システムが搭載されているわけでありません。

そんな人工衛星は緩やかに地球に自由落下することになります。

 

緩やかにというのは、人工衛星は、地球の地表面に対して水平に移動しており、地球の大気や重力の影響で、地球の地表面と水平面の斜め下方向に緩やかに進んでいるためです。

 

地球の重力圏により人工衛星の進む速度は決まっており、楕円軌道の場合、第二宇宙速度である約11.2km/sec、円軌道の場合第一宇宙速度である約7.9km/secで進んでいます。

この速度が保てなくなったときに、形状にもよりますが、重力の影響により重い方が比較的早く落下していきます。

 

宇宙交通管理の簡単な経緯

宇宙開発は、最初の人工衛星が1957年に打上げられすでに60年以上も経過しています。

 

それが今になって、宇宙交通管理といわれるようになったのかというと、宇宙空間、地球軌道上に進出する国、組織が急増したことが理由の一つです。

 

軌道上に人工物を配置するためにはロケットを使用するのですが、ロケットは宇宙機の代わりに爆薬を搭載すればミサイルになるため兵器と同等以上の機能を持っています。

 

打上げに関する注意喚起、関係各所への調整、打上げ時のロケット発射場からの避難勧告、十分な高度に達しなければ安全のための爆破などやることがたくさんあります。

 

現在は、世界で年間にロケットが打ち上るケースも200回近くにまで増えています。

回数が多くなれななるほど、注意喚起や調整などの制御が難しくなっていきます。

 

ロケットの打ち上げ回数が増えると、ロケットに搭載する物量も大きく変わります。

初期はロケット1台に付き、宇宙機1機であったのですが、現在では宇宙機数十機も同時に打上げられることもよくあります。

 

地球軌道上に投入された人工衛星は、目的のために軌道を動いたり、他の人工衛星と軌道を避けたり散らばっていきます。

 

初期は人工衛星の数が小さく、人工衛星同士がぶつかることも稀といえる事象だったのですが、現在では人工衛星の数が増えたことによって確率が高くなる一方です。

 

稼働中の人工衛星以外にも、役目を終えたり一度も起動せずに廃棄される人工衛星もたくさん存在しています。

 

これらの人工衛星は、静止軌道に近い場合は墓場軌道とよばれる軌道に軌道制御したり、地球上に落下させる場合もあります。

 

地上に落下する場合は、大気圧による圧縮熱などにより人工衛星が燃えていくのですが、融点や沸点が高い物質が使用されていると燃え残ったり、十分に燃焼されずに地球表面に落下する事例も少なくありません。

 

何かしら、誰かしら損害を被る事態が表面化しつつありルール化して管理しようとしているのが、現在の宇宙交通管理の流れです。

日本の宇宙交通管理

日本ではすでに宇宙交通管理として、いくつかの法律ができています。

通称宇宙活動法と呼ばれる法律のことです。

 

宇宙活動法の中で次の3つが宇宙交通管理に関わる部分と考えられます。

  • 人工衛星及びその打上げ用ロケットの打上げに係る許認可制度
  • 人工衛星の管理に係る許認可
  • 三者の賠償に関する制度

宇宙交通管理は、宇宙機の打上げ、軌道投入、軌道変更、軌道離脱、地上への落下までの活動を管理することとあげましたが、それぞれ該当しています。

 

人工衛星及びその打上げロケットに係る許認可制度は、宇宙機の打上げや軌道投入に係る部分をルール化しています。

 

人工衛星の管理に係る許認可は、軌道離脱、地上への落下に係る部分をルール化しています。

 

三者の賠償に関する制度は、これらの宇宙での活動の賠償するための保険の義務付けです。

今までの宇宙での活動は自由であり、すべて自己責任でした。

宇宙活動を進めていたのが国レベルであったときは良かったのですが、現在、民間企業の進出もあり、1つの事故が民間企業にとって致命的になることも想像できます。

 

少しずつではありますが、宇宙業界の地盤を法律を使用して強固にしていっています。

 

この宇宙交通管理では、軌道離脱や地表落下、つまり運用後に役目を終えたり、故障して動かせなくなった、あるいは動かなかった、様々な原因でバラバラとなった人工衛星スペースデブリが2010年代後半からより注目を浴びています。

 

スペースデブリ除去が注目され、扱いやすく、ビジネスにもつながりやすい理由の一つに、運用が終わった人工衛星を対象にしていることがあげられます。

 

使い終わった人工衛星なのだから自由にできる。

汎用的な手段で除去できれば、ビジネスサイクルとして回りやすいと考えることができるでしょう。

もちろん、どこまでコストを抑えることができるかが問題ではあります。

 

さて話を宇宙交通管理に戻すと、宇宙機の活動の中で宇宙活動法の中で制限が難しいことが一つ残されています。

軌道変更です。

 

軌道変更はすべての人工衛星できません。

時折、人工衛星衝突回避の記事を読むと、すべての人工衛星が軌道制御可能な機能を有しているかのように、記載されていることが多いです。

 

いわゆる、小型衛星並びにキューブサットとも呼ばれる超小型衛星では、搭載スペースの関係から軌道制御用の電子機器や推進システムであるスラスターを搭載できないことが少なくありません。

 

もしスペースデブリが衝突する可能性があるのであれば、受け入れるしかないのです。

 

軌道変更はすべての人工衛星ではできないことから、法律上も機能の有無を記載することはできますが、軌道制御の機能をいれること義務化することはかなり難しいでしょう。

広がり始めた宇宙開発の市場を狭めることになってしまいますので。

今後の宇宙機同士の接触事故

今後、さらに人工衛星が増え始めたら飛行機や船舶の接触事故より件数が増える可能性があります。

 

それは人工衛星同士で回避行動ができない場合があるからです。

 

接触してしまった人工衛星は破損するのですが、破損の欠片が新たなスペースデブリとなっていきます。

 

新たなスペースデブリは、破損した人工衛星本体と比べて形状も重さも違うため、落下速度が変わり、微妙に高度も変化していきます。

 

これらの繰り返しにより、低軌道側でのスペースデブリの渋滞が発生していきます。

この渋滞はやがてロケット打上げ、特に静止軌道や楕円軌道まで打ち上げる際にぶつかる可能性も高くなっています。

 

もちろん、影響が大きくなりうる大きなスペースデブリは、国際的にある程度共有されているため、まだまだ大きな影響はないが。。。という状況です。

参考サイト

『宇宙交通管理(STM:Space Traffic Management)の現状と今後の動向に関する調査研究』報告書

https://www.jsforum.or.jp/files/libs/623/20220712150003860.pdf

宇宙交通管理(STM)の現状と課題 2018~2020年度総括

https://space-law.keio.ac.jp/pdf/symposium/symposium12_04.pdf

日本の森林火災/山火事と宇宙からの監視網

海外では森林火災に対して人工衛星によって宇宙空間から取得した画像データを活用して、早期発見システムを構築しています。

 

日本ではあまり表に出ない情報なのか、そもそもの森林火災件数が少ないためなのか、森林火災に対しての人工衛星による監視システムを構築しているのか、少し調べてみました。

 

本の森林と山火事

農林水産省によると、日本の国土の67%が森林で、約2500万haが森林面積と言われています。

もっとも森林が少ない都道府県は大阪府で5.7万haで、2位が東京都の7.9万haです。

 

日本での山火事は、2016年から2020年の消防庁のデータによると平均して年間1300件発生しています。

おおよそ600ha(1ha=10000m^2)が焼損しており、損害額が約3.5億円に上ります。

広さの比較として、東京ドームが4.7ha、東京ディズニーランドが51ha程度であることから、東京ドーム約128個分、東京ディズニーランド約12個分が焼損していることになります。

 

損害額が約3.5億円というのは大きな額であることは間違いないのですが、日本の消防活動が優秀なのか、消火も数分から2日程度で鎮火しています。

 

といっても、2日以上も燃え続けた事例もあり、住民への避難勧告が発令されたこともあります。

 

近年で広範囲であったのが、2002年4月5日から4月6日に岐阜県岐阜市各務原市で発生した森林火災は410haを焼いています。

2016年5月8日から5月22日に岩手県釜石市で発生した森林火災は413haも焼いています。

www.youtube.com

焼損面積は167haとそれほど大きくはありませんでしたが、2021年の栃木県足利市で発生した山火事は2月21日~3月15日と延焼とよばれる火事が燃え広がっていくことにより20日間以上燃え続けた事例もあります。

www.youtube.com

山火事の出火原因

さらに、日本での出火原因の31.4%がたき火、8.1%が放火並びに放火疑い、6.8%がたばこ並び火遊びであることが分かっています。

そして農業のための焼き畑、害虫駆除、開墾準備などは火入れと言われ17.8%、その他が35.9%となっています。

原因が分かっている中で、おおよそ6割が人為的なものです。

海外でも比率は違いますが、主な原因に変わりはありません。ただ、人がいない地域では落雷による火災が原因となることが多いようです。

 

日本における山火事の件数でも大体の傾向があります。

夏休みなど山への一人が多くなる8月に一時的に増加しますが、7月や9月の発生件数が小さく、徐々に発生件数が増えていきます。

大体、4月ぐらいに多く発生し、再び減少傾向に入っていきます。

 

この傾向は日本の気候に関係しています。

 

まず、山火事が起きて広がりやすくなる気象を整理していきます。

①気温が高いこと。

②乾燥していること。

③風が強いこと。

この3つの条件がそろうと火事が広がりやすい傾向にあります。これは日本に限らず、世界各国でも同様の条件です。

 

日本は季節風(モンスーン)が春先に吹き、フェーン現象として乾いた空気が日本列島の山脈を挟んだ太平洋側に流れていくこと、春にかけて気温が上がっていくことの条件が重なり、4月の山火事の発生件数が大きいことが考えられます。

 

人工衛星と森林火災

森林や森林火災には中赤外線と熱赤外線の帯域が使用され、少し情報が古いですが極軌道気象衛星NOAAのAVHRR(Advanced Very High Resolution Radiometer、改良型高分解能放射計)、地球観測衛星Terra/AquaのMODIS(Moderate Resolution Imaging Spectroradiometer、中分解能撮像分光放射計)によって、観測されてきました。

 

海外では、ノルウェーやブラジル/アマゾンなどで森林火災の監視のために人工衛星が使用されています。

 

日本では山火事の焼損面積が大きくならず、人工衛星で観測できる範囲になった時にはすでに地上から観測できるレベルに達しているため、即応性にどうしても欠けてしまうのかもしれません。

 

日本よりも広く、監視の目が届きにくい状況にある海外の方が需要は高そうです。

 

日本で山火事の監視を人工衛星で実施する場合は、他のサービスと合わせてという形になるでしょう。

例えば、宇宙空間からの活火山観測、森林全体の観測、農業の農地面積観測などと合わせた形となり、現状山火事が主たる目的として提供できるサービスではなさそうな気がします。オプションとなると、オプション抜きといわれることがあるので、常設機能とした方がいいかもしれませんね。

 

むしろ、今まで組み込まれていなかったからこそ、イニシアチブが取れ、実績を積めるかもしれません。そう考えると日本でもすでに取り組んでいるところがあるかもしれませんが。

 

また、山火事への対応を行っている消防施設の担当地域が限定されていることも多く、県境での対応を考慮すると、ユーザーとしては都道府県あるいは国レベルが担当となり、農林水産省林野庁消防庁管轄になりそうな気はしています。

衛星による日本の森林観測

衛星による日本の森林観測は、主に無断伐採をはじめとする森林の変化と土砂流出に関係する調査を実施しています。

 

ただ頻度は、人工衛星自体が少ないのか、毎日あるいは毎月同じ場所の画像データを取得しているわけではありません。

年に2回以上ではありますがそれほど頻繁に得られているわけではなさそうです。

 

森林伐採や土砂流出は、毎日刻々と変化するものではないため、頻繁に画像データを取得する必要がないというのが大きな理由でしょう。

ちなみに取得した画像データは林野庁空中写真 | 地図センターネットショッピングにて販売されています。

 

このような理由から、日本ではビジネス的には森林観測データは流行らないでしょう。

 

例えば、毎日画像データを取得するようなシステムに取り入れて、副次的に得られる森林火災のデータを蓄積管理していくといった方向になるのではないでしょうか。

また火災だけではなく、各地の火山のデータが取得することもよいのではないでしょうか。

 

日本のように、海外と比較して規模が小さい火災を見つけられるようにシステムを改善していけば、現在海外で運用されている森林火災監視システムよりも優秀なものができるかもしれません。

参考サイト

日本では山火事はどの位発生しているの?

https://www.rinya.maff.go.jp/j/hogo/yamakaji/con_1.htm

本の森林面積とその割合(わりあい)をおしえてください。また、森林の割合の多い県と少ない県をおしえてください。

https://www.maff.go.jp/j/heya/kodomo_sodan/0105/19.html#:~:text=%E6%97%A5%E6%9C%AC%E3%81%AE%E6%A3%AE%E6%9E%97%E9%9D%A2%E7%A9%8D%E3%81%AF,%E7%9C%8C107%E4%B8%87%E3%83%98%E3%82%AF%E3%82%BF%E3%83%BC%E3%83%AB%E3%81%A7%E3%81%99%E3%80%82

山火事の直接的な原因にはどのようなものがあるの?

https://www.rinya.maff.go.jp/j/hogo/yamakaji/con_3.htm

令和3年足利市山林火災 - Wikipedia

気候変動で増加する世界の山火事

https://spectee.co.jp/report/climate_change_expand_wildfire_world/

消防の歴史

https://www.bousaihaku.com/ffhistory/

宇宙からの地球環境の赤外線リモートセンシング

http://www.jsir.org/wp/wp-content/uploads/2014/10/2003.10VOL.13NO.1_13.pdf

世界の森林火災と航空機活用

https://www.fdma.go.jp/singi_kento/kento/items/post-88/01/sankou3-1.pdf

より効果的な林野火災の消火に関する検討会

https://www.fdma.go.jp/singi_kento/kento/post-88.html

社会に活かされる宇宙の目

http://www.ep.sci.hokudai.ac.jp/~shw/pse2013/20130517_nakau.pdf

世界・日本の森林面積ランキング。森林面積はどのように推移している?

https://mori-naka.jp/article/2900/

空中写真及びデジタルデータ等の入手方法について

https://www.rinya.maff.go.jp/j/kokuyu_rinya/kutyu_syasin/

林野庁空中写真 | 地図センターネットショッピング

https://net.jmc.or.jp/photo/aerialphotograph/rinya.html

宇宙インフラとは?

宇宙インフラとは

宇宙インフラとは、地上を離れて宇宙という空間を使用した経済や社会を支える基盤となるサービスのことをいいます。

宇宙空間より得られた情報を使用するもの、宇宙空間より情報を生成するもの、宇宙空間を中継して使用するものがあります。

 

多くの人が日常的に使用しているものを上げるのであれば、天気予報。

地上遥か3万6000kmの宇宙空間に整備されている宇宙機である静止気象衛星(ひまわり)より得られた情報を利用しています。

気象衛星による日本の気象観測は1970年代後半より始まり40年以上続けられています。

 

自身の現在位置を知ることができる、GPS(Global Positioning System)。

地上より2万kmの宇宙空間を周回している24機以上の衛星による測位システムを利用しています。

GPS自体は米国による衛星によるものですが、現在では日本の準天頂衛星や世界各国の地球測位システムにより成立しています。

宇宙インフラはいつから

宇宙インフラという言葉とは古くからあります。

2010年代以前は、宇宙への輸送システムであるロケット、人間が宇宙空間で活動できるか宇宙を利用した実証を続けている宇宙ステーション、軍事的な側面が強かったGPS、地球外の大地での活動を目的とした月面基地、現在ではspaceX社のstarlinkが実用化まできている宇宙を介したインターネット通信、宇宙上での太陽光発電システムを構築し地上へ電力をおくる宇宙発電システムを指していました。

 

この10年近くで、さらに範囲が拡大し、被災状況の把握や地球環境の観測、並びにそれらの情報を迅速に展開するネットワーク、米国に頼らない独自の測位システムが注目されるようになってきました。

 

世界の潮流としても、国が主導してきた宇宙開発も民間企業に移ってきており、国の政策では出てこないような宇宙空間より得られたデータを利用するアイディアがでています。

いわゆる宇宙ビジネスと呼ばれる分野です。

 

ちょうど日本にスマホの「iPhone」が広がり始めた2007年~2008年頃に、スマホの登場とともに広がったアプリの登場に近いものがあります。

スマホのカメラ機能やGPS機能を利用した単なる遊びのいくつかのアプリのサービス。

過去から存在していたQRコードと連携したサービスも数多く生まれ、現在では通常機能として受け入れられています。

 

現在の宇宙ビジネスもちょうど近い時期に来ています。

宇宙インフラが通常のインフラと区別されなくなるか

宇宙インフラとして天気予報を上げる人は少ないのではないでしょうか。

言われてみて、天気予報も宇宙インフラとなりますが、すぐには浮かばず、GPSを先に上げる人が多い気がします。

天気予報はすでに社会・経済インフラに溶け込んでいるからではないでしょうか。

 

宇宙ビジネスで生まれたサービスもいずれ溶け込み一般的にインフラとなることが、一つの目標としてあります。

 

インフラとなるには、安定的に利用できることが一つの条件です。

 

天気予報は、打上げ当時は3時間ごとのデータ取得でしたが、現在では2.5分程度まで縮まっており、リアルタイムに近い情報を得ることができています。

 

GPSは日本を含めた世界各国の測位システムを利用し、現在でも1分から2分程度まで縮まっています。

 

SpaceX社のstarlinkも、4000機程度の人工衛星を常時宇宙空間上に周回させておくことにより安定したデータ通信を可能にしています。

 

このようにリアルタイムで安定的に利用することでできるようになったことでサービスとして安定し、インフラの地位として確立していっています。

 

また日本では、大規模な地震や台風などで被災状況や防災のための観測衛星が注目されますが、海外では山火事に対する監視として観測衛星が広く活用されています。

 

現在の宇宙インフラが整備されるには、10年単位での時間が掛かっています。

宇宙機の製造能力とロケットの製造と打ち上げ能力にかかっています。

 

その制限の中で、国の施策という条件が加わることで、宇宙開発自体が進まないという事情がありました。

 

現在は、民間企業であるspaceX社のstarlink衛星のような製造・打上げ速度であれば一気に短縮できることを目のあたりにしています。

 

世界全体として、流れは来ているのですが、過去のスマホアプリのように上手くいかない理由として、お金がとてもかかることがネックになっています。

資金不足からすでに多くの民間企業・ベンチャー企業による計画が頓挫しています。

 

spaceX社も一時は資金不足で危険な状況まで陥ったと言います。

 

短期的な資金を得るための施策と、長期的な計画を組むという、会社立ち上げ時のよくある状況がどこの宇宙ベンチャー企業でも陥っているのが現状です。

 

宇宙業界は国からの施策で動いていたため、今まで宇宙関連企業に居た人材が宇宙ベンチャー企業に移った時にあまり体験したことのない資金不足による操業に立ち会っているのかもしてません。

 

まだまだ宇宙インフラの整備は続くでしょう。

参考

宇宙基本計画

https://www8.cao.go.jp/space/plan/keikaku.html

日本の静止気象衛星のあゆみ

https://www.data.jma.go.jp/sat_info/himawari/enkaku.html

H3ロケット試験機2号機での相乗りの可能性が出てきた件

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H3ロケット試験機1号機の打上げが2023年3月7日の行われ、失敗した。

 

2023年度中ごろに打ち上げ予定(2022年12月23日の宇宙基本計画工程表)であった試験機2号機を次の打上げのために準備している。

 

H3ロケットは政府関連ミッションを達成するための宇宙空間への輸送システムであり基幹ロケットと呼ばれている。

この基幹ロケットの開発を完了させるべく、試験機1号機の原因究明と試験機2号機の打上げ構成を検討している最中である。

 

ロケットに関する検討状況は、他の人に任せるとして、今回は問題となっている試験機2号機に小型衛星あるいは超小型衛星を搭載して打ち上げるための検討が始まっている。

 

試験機2号機の打上げ構成は、現在も検討中である中で主とする人工衛星を搭載しない方向でまとまりつつある。

 

主とする人工衛星を搭載しない代わりに、小型衛星を搭載する案が出てきている。

主とする人工衛星を搭載しない利用は単純にリスクが高いめである。

 

さて、H3ロケットは精密に作られている。

どの程度の大きさでどの程度の重さを搭載するのか想定しており、物体の重心なども考慮して設計している。

試験機1号機で打上げたALOS-3(だいち3号)は、サイズ5.0mx16.5mx3.6m(太陽電池パドル展開時なのでロケット搭載時はもう少し小さい)、質量約3000kg(3トン)である。

3m以上で、重さ3トンの物体が突然抜けた場合、H3ロケットの重心も変わり打上げに必要な質量パラメータも変更される。

さらには、実際の打上げ想定とは別の品物をロケットと称して飛ばすことになってしまい、実証試験としても不十分な条件になってしまう。

 

そこで従来は想定する宇宙機相当の模擬質量となる金属の塊であるダミーウェイト、ダミーペイロードなどと称する物体を搭載して、実証試験に臨んでいる。

 

最近有名なSpaceX社もFalcon Havyロケットで、テスラ・ロードスターという車両を打ち上げている。

www.youtube.com

 

日本でも北海道でロケット開発を行っているインターステラテクノロジズでもコーヒー豆や大吟醸ハンバーガーなどを搭載して打ち上げています。

 

このようにエンタメ性のあるダミーペイロードを搭載できるのは、民間企業だからできたのかもしれません。

 

大部分が公的資金であるH3ロケットの場合は、実用性・実証性の低いがエンタメ性の高いダミーペイロードを搭載することは内外からの反発を考えて難しいでしょう。

 

おそらく巨大な金属の塊となり、もしかするとメッセージボードぐらいは搭載することになりそうですが、エンタメ性は皆無でしょう。

 

そしてこのダミーウェイト、最低限重量と重心を調整する必要があるため、巨大な金属の塊を加工するなり、複数の塊を結合させる必要があります。

 

金属価格の上がっているこのご時世な上に、ちょうどよい重さの金属加工はなかなか時間が掛かります。

 

そこでビギーバック衛星とよればる小型の人工衛星を搭載してはどうか、という話が上がっても不思議ではありません。

 

メインの宇宙機に相乗りするため、相乗り小型衛星とも呼ばれます。

これにもいろいろ呼び名があり、相乗り衛星、ライドシェア(相乗り)衛星、ビギーバック衛星、小型副衛星などと呼ばれ、少し混乱するものになります。

 

2016年に打上げられたASTRO-HことX線天文衛星ひとみに、名古屋大学の衛星ChubuSat-2、三菱重工業の衛星ChubuSat-3、九州工業大学の衛星鳳龍四号が打上げられて以降、日本のロケットからは相乗り衛星が打ち上げられていません。

いや、調べきれてないかも。

 

相乗り事業は2019年にJAXAからスペースDB株式会社に事業移管されています。

 

スペースDBは、国際宇宙ステーション日本実験棟「きぼう」からキューブサット級の人工衛星を放出しているのですが、機会がなかったのか事業移管後にロケットによる相乗り衛星を放出していません。

 

というのが現状です。

 

今回、H3ロケットの搭載可能としている人工衛星の条件は次の通りです。

(1) 50kg 級の超小型衛星、または、3U サイズ(または、6U サイズ)の キューブサット であること。

(2) 情報提供の時点で、衛星の開発が完了していること。

(3) 総務省への無線局免許取得にあたっての事前調整がなされていること。

(4) 2023 年秋頃の衛星引き渡しを想定し、事前の準備作業に対応可能なこと。 

 

いくつかの条件はありますが、応募締め切りである2023年06月12日時点で、人工衛星本体が完成していること。

多少の時間調整はあるかもしれませんが、試験もすべて終わっていることを条件としています。

 

また、人工衛星開発より時間が掛かるかもしれない総務省への無線局免許取得もすでに事前調整まで終わっていること。(人工衛星の免許取得は、通信可能な状態、すなわち軌道投入後に通信出来て免許を取得でき、それまでは仮免状態となります。)

 

総務省へのということから、国内事業者のみ対象としていることが読み取れます。

 

例えば、海外などで打上げる予定で、人工衛星自体完成しており、延期や打上げ待ちの状態、あるいは継続的に人工衛星を製造しており、打上げ待ちの人工衛星というなかなかシビアな条件となっています。

 

一方で、無線局の問題が解決しているのであれば貴重な打上げ機会でもあるので、試作・試験用に製造している地上保管・検証用のエンジニアリングモデル(EM)を打上げまでにリファービッシュするという手段も考えられます。

 

というのも、以下の条件をあらかじめ了解していることを応募本文に記載しているです。

 

(1) 衛星の開発(追加で発生する試験等の経費を含む)・搭載までの事前準備(衛星側作業)・運用等打上げ後に必要となる作業に係る経費については、情報提案者側で負担頂くこと。

(2) H3 ロケット試験機 2 号機の打上作業が優先となるため、不可抗力もふくめて衛星側を原因とする一切の理由による作業遅延により搭載準備作業が完了しない場合は、マスダミーでの打上げとなることについて、合意可能なこと。

(3) 打上げにおいて、万が一衛星を喪失した際でも、JAXA は再打ち上げ機会の提供、衛星の開発経費等の補償処置を取らないことについて、合意可能なこと。 

 

人工衛星は打ち上げロケットを想定しつつ開発を進めます。

それは、ロケットの振動条件は個々のロケットで全然違うためです。

 

すなわち、今回のロケット変更により、再び振動試験を実施する可能性があります。

 

この半年はその試験の実施か、すでに実施している試験でカバーできるものなのかの確認になることでしょう。

 

ちなみに、衛星のサイズや質量が決められていますが、これはおそらくロケット側の都合で、過去実績ある衛星とロケットインタフェースを使う想定なのかもしれないですね。

 

問題なく作動する放出機構の製造が間に合うことを考慮すると、これらしか厳しいのかもしれないですね。

 

海外の放出機構とか半年で調整して製造は、すでに製造済みであるものを融通しなければいけませんから。

 

逆に、自前のロケット側含めた放出機構があれば、1m級とか、100kg以上とかできるかもとは思っています。

 

ただ個人的には、多少エンタメに入ってもいいかなぁとは思います。

 

過去の旗振り初音ミクvtuberに関係した何かとかね。

ぎーち(ブレイク兄) on Twitter: "今衛星開発してるメンバーでミッションスペースに空きがあるなら、くりあネキをねじ込んであげてほしい 振動試験とか真空試験とか短絡試験とか、くりあネキなら…まぁ耐えれるでしょう" / Twitter

それこそ、ガンダムなり、神社なり、観測機器や簡易的なリターンカプセル実証モデルとかね。

 

 

参考サイト

H3ロケット試験機2号機への「超小型衛星相乗り」に係る情報提供要請(RFI)

H3ロケット試験機2号機への「超小型衛星相乗り」に係る情報提供要請(RFI) | 公募 | 新着情報 | JAXA新事業促進部

令和 4 年度 ロケット打上げ計画書

https://www.jaxa.jp/press/2022/12/files/jaxa20221223-1-1a.pdf

だいち3号(ALOS-3) – JAXA一宇宙技術部門 サテライトナビゲーター

https://www.satnavi.jaxa.jp/ja/project/alos-3/

SpaceXがテスラ車を打ち上げて5年。いま宇宙のどこにいる?

https://gadget.phileweb.com/post-29913/

MOMO (ロケット) - Wikipedia

超小型衛星の相乗り仲介、JAXAからベンチャーに移管

https://www.nikkei.com/article/DGXMZO52959460U9A201C1000000/

Space BD、JAXAより我が国基幹ロケットH-IIA/H3を用いた相乗り超小型衛星打上げ機会の提供事業における民間唯一のサービス事業者に選定

https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000002.000050164.html

信頼性と品質保証は違う、最近影薄めな信頼性と宇宙機

[目次]

 

宇宙業界は高信頼性であるといわれています。

 

ただ、高信頼性といっても決して特殊な設計方法をしているのではなく、自動車や家電、パソコンと同じ設計方法を取っています。

 

宇宙業界で有名なロケットは千を超える部品で構成され、宇宙機人工衛星、探査機)を地球外に安全に運び出すという機能を持っています。

ロケットに搭載される宇宙機は、数週間から数年も休みなく稼働します。

 

開発方法は同じですが明確な違いがあります。

それは動き始めたら人間によるメンテナンスができないという点です。

地球からプログラムの書き換えはできるのですが、物理的なメンテナンスがほとんどできません。

 

人間が居住できる前提で製造されている宇宙ステーションでは、メンテナンスを行い機体としての寿命を延ばすことができます。

もちろん宇宙ステーションに近づくことができれば、人間による補修や交換も部分的に可能です。

 

しかし、年間100機以上打ち上げられている宇宙機を宇宙ステーションの人間が手を出してメンテナンスしていくことはほとんどできないのが現実です。

 

そこで壊れない設計、壊れにくい設計をするために信頼性が問われます。

信頼と信頼性

技術的な言葉としての「信頼性」と日常生活で使用している「信頼」は微妙にニュアンスが違います。

 

日常的に使用される「信頼」は、今までの実績や周囲の評価に基づいた上で、今後(未来)の行いに対して信じ頼ること、頼りにすることをいい、人に対して使われます。

 

しかし、技術的な「信頼性」は、今後の行いに対しての評価であるのですが、人に対してではなくモノに対して使われます。

 

「信頼性(信頼度)」の使われ方を読み解くと、「信頼」のように今までの積み重ねだけではなく、仕様要求としても、達成するべき目標として定量的に出されることもあります。

 

仕様要求として出される場合は、要求の壊れにくさで製品を「設計すること」を求めています。

壊れにくさを出してはいるのですが、指標としては宇宙機の活動寿命(寿命設計)の要求の上で算出されています。(仕様が使いまわしでなければ)

 

各部品の壊れにくさの積み重ねで宇宙機のシステムとしての寿命を設計時点で検討・想定するために「信頼性」が使われることが多いです。

 

そして、宇宙機の「信頼性」の難しさは、結果が表に出にくいことにあります。

そのため、サービス回復のパラドックスにあるように、問題が起きていないので評価されていない可能性があるのです。

mechanical-systems-sharing-ph.hatenablog.com

宇宙機はほとんどがカスタム製品で運用する企業も限られるため、絶対数が家電や自動車、パソコンよりも少なく、不具合や故障の数が統計的に必要な数を製造するのが難しいのです。

 

短期間に宇宙機を大量に打ち上げ製造しているspaceXぐらいしか、現実的に定量的に算出するのは難しくさせています。

 

日本の宇宙機関である宇宙航空研究開発機構JAXA)も何機も製造していますが、ほとんどがカスタム製で同型機が少なく、製造に何年もかかるため、世代交代も発生しています。

 

過去の資料や仕様書から各プロジェクトの「信頼性」を個々人で定量的な評価としてまとめているかもしれませんが、JAXA全体としてあまり共有されていないかもしれません。

 

というのも、各プロジェクトの要求仕様は客先資料である上、製品を設計しているのはJAXAから注文を受けているメーカーであることから、各個人での資料閲覧制限が掛かっており地球観測系や惑星探査系などの文化の違いもあり…

 

それでも宇宙業界で「信頼性」が言われるのは、大量に製造できないため、設計時点から確実性を上げる指標として「信頼性(信頼度)」が使われています。

大量生産できないために「信頼性」を使用しているのですが、大量生産できないために「信頼性」の精度を高めることが難しいという指標ではあります。

信頼性と品質保証

信頼性と品質保証が混同することはないでしょうか?

無い場合は読み飛ばして問題はありません。

 

よく企業では品質保証という名の部署はありますが、信頼性の名を関する部署はほとんどありません。

 

信頼性を検討管理するのは設計部門やシステム部門で、品質保証・品質管理は製造後の製品を対応するといわれていおり、信頼性を担当するのは研究開発の部署が担当することが多く、信頼性の名を関する部署はほとんどありません。

 

製品といっても、量産品、初期ロット品、試験用サンプル品、製造用サンプル品、部分機能品などに分けられます。

大体は量産品から品質保証・品質管理の部署が担当することが多いですが、組織文化によって初期ロットやサンプル品から担当することもあります。

 

これは不思議なことではなく、不具合や故障の発生を抑制するために上流へ上流へと管理の幅が広がった結果とも言えます。

 

信頼性の研究が進んだのも、1940年代以降よりアメリカよりレーダーなどの故障が多発したことから、上流での故障抑制のために設計時点からどのように抑え込んでいくかが考えられるようになったと言われています。

 

その後、1950年代のアメリカとソ連の宇宙開発競争により、1度の失敗がお金以外にも多くの損失を生むということになってから、より広まってきました。

もちろん、当時はこのような研究は秘密であったため、1970年代以降に広まってきた歴史があります。

 

実際に、信頼性の検討のために使用される解析ツールであるFTAやFMEAは、1960年代頃には利用されていました。

 

そのような事情から、品質保証・品質管理の部署が上流を確認することは不思議なことではなく、設計審査の判定に品質保証・品質管理部門の責任者が担当することはよくあります。

 

もちろん設計審査のどの段階から判定員あるいは審査員長となるのかは組織文化によって違います。

 


 

 

参考サイト

設計品質確保の思想 ――航空宇宙エレクトロニクスに学ぶ「信頼性設計」

http://www.kumikomi.net/archives/2006/03/05qual.php?page=1

JAXA共通技術文書

https://sma.jaxa.jp/techdoc.html

宇宙開発の信頼性の設計では何を確認しているのか?

宇宙業界は高信頼性で成り立っているといわれています。

 

宇宙業界の高信頼性といわれても特殊な手法を取っているわけではありません。

もちろん、他の製品と比べてグレードが変わることはありますが、手法そのものは高い技術を要するものではありません。

 

JAXAにて公開されてるJAXA共通技術文書より、信頼性の設計項目について抜粋してみます

[目次]

宇宙機の信頼性設計で重要度が高いのは、(1)設計余裕の確保及び故障リスクの最小化(単一故障への配慮)、(2)故障許容設計(致命的な状態に至らないようにするために、適切な冗長化、故障の伝搬・波及防止などの対策)の2つがあげられます。

 

宇宙機の信頼性設計では、システムがミッションを遂行可能なレベルまで許容できるようにリスクを低減させることを目的としています。

ミッションとは、宇宙機の達成すべき目的のこと。

 

例えば、地球観測衛星の場合は、地球に関わる環境データの取得及び地上への伝送。

探査機の場合は、目的の惑星(あるいは小惑星)への到達、並びに環境データの取得及び地球への伝送。

これらが主なミッションとして設定されています。

 

宇宙開発ではこのミッションを細分化し、優先度を決定し、ミッションサクセスを目指し、各設計や試験を行うことになります。

 

(1)設計余裕の確保及び故障リスクの最小化(単一故障への配慮)

(2)故障許容設計(致命的な状態に至らないようにするために、適切な冗長化、故障の伝搬・波及防止などの対策)

先に述べた2つの項目を達成するにしても、どのような項目を設計するのか抜粋すると次の項目が上がります

 

FMEA/FMECA、FTA(事前解析)、単一故障点識別・対策、故障検知,分離及び復帰(FDIR)、波及故障の防止、耐久性・サバイバル設計、共通要因故障の排除

設計寿命、寿命管理、寿命試験

信頼度、トレンド解析、既存及び新規技術の評価

End-to-End試験、軌道上環境の模擬の程度と解析による妥当性

ワーストケース解析、ディレーティング、蓄積疲労損傷、打上げ及び宇宙環境影響評価

設計過誤の防止、極性管理、部品・材料・工程プログラム

一次電源接続部の短絡モード、デブリ評価、電力ハーネス設計、MLI接地、パドル放電短絡耐性評価、太陽電池パドル発生電力管理とLLM、異常発生時のテレメトリ取得強化、地上局可使時間の考慮、FTA(事後解析)、故障解析

 

このように羅列するだけだとかなりの量があると思われるのですが、実際のところは通常の電子機器の設計内容を明文化した内容がほとんどですになっています。

 

もちろん、特有の計算や考え方を必要としている項目はJAXAの共通技術文書に記載されています。

 

ただし、この項目はJAXAの共通技術文書で記載されている内容であるため、宇宙活動法に関する申請はまた別の視点で記載されます。

 

宇宙活動法における申請内容の詳細は「許認可の申請手続き : 宇宙政策 - 内閣府」に示していますが、主に物体としての外観構造、人工衛星を管理するための設備(地上局含む)、ロケットとの結合・分離方法、異常時の破砕、他の人工衛星との衝突回避、終了措置、組織体制といった管理体制を求められています。

 

異常時での物体放出防止機構、構造解析、大気から真空への気圧変化耐性、環境試験結果、設計概要、分離又は結合時の他の人工衛星への干渉防止、空間的な位置、姿勢及び状態を把握する方法、破裂の危険性回避構造、再突入時の第三者損害の防止といったことが求められています。

これらは、主要な設計項目を抜き出した形となっており、安易な設計で人工衛星を軌道上に送り出し、結局動作することなく大気圏に突入することが無いようにする意図が見えます。

 

単一故障防止設計

例えば、単一故障や波及故障に対しては、独立して『単一故障・波及故障防止設計標準』が文書としてあります。

 

単一故障について注目しているのには理由があります。

宇宙機は多くの部品が密集して構成されており、一つの部品の故障により宇宙機のシステムが全損するレベルでの大きな影響を引き起こすことがあるためです。

 

可能な限り冗長化を行い、単一故障点の排除あるいはリスクを最小化していくことが必要です。

どういうことかというと、故障が発生しても運転が維持できるように、故障する可能性のある部分と同等の装置や機能を搭載しておきましょう、ということをまとめています。

ちなみに、単一故障は、その機器が故障すると、宇宙機システムやシステムを構成しているサブシステム、機器そのもののが使えない状態になることです。

単一故障点が、故障した機器のさらに詳細に見ていった中で実際に故障が発生する部位のことを指しており、それはケーブルやセンサに限らず信号や制御構成など、切り分け可能な部分を指しており、単一故障とはあえて書き分けられています。

 

もちろん、すべての装置を2台、3台と搭載することは宇宙機システムの空間的な制限や予算の都合上難しいです。

そのため、取捨選択や故障の予兆を予測する事前のデータ取得や検知するセンサーなどを搭載するなど、実際に同じ機器を搭載する以外の方法も含めた設計を行うことになっていきます。

 

絶対故障しないシステムではなく、故障しても宇宙機システムとしても運用可能であり、故障を許容するシステムを構築していくことも考えながら設計していくことが述べられています。

 

近年では、システムとして宇宙機単体で完結するのではなく、複数の宇宙機を構成し、それぞれが同等の機能を持たせ、連携させる衛星コンステレーションというシステムがSpaceX社のスターリンクの登場で広まっており、各所で同等のプロジェクトが立ち上がっています。

複数の宇宙機で構成されることから、宇宙機単体が冗長化しているとも言えます。

 

この故障を許容するシステムという考え方は、宇宙業界の特殊な設計のように語られることもありますが、実際のところ、インフラの設備などでも同等の考え方で設計されています。

 

この考え方、システムが継続して動き続けることができることは可用性と呼ばれ、ソフトウェアのシステム設計にもみられる文言です。

JAXAの技術文書でも可用性という単語はところどころに記載されてきていますが、当たり前すぎてほとんど使われていません。ただ、WEB検索でのキーワードの一つとして覚えておくと役に立つかもしれません。

 

宇宙機の冗長系の設計

ただ、冗長設計としてどのような制御設計をすればいいのか分からない場合は、『公募小型副衛星 ハザード解析ハンドブック』を参考にするとわかりやすいです。

 

ただ、公募小型副衛星はロケットに宇宙機を搭載する際に、メインとなる宇宙機を搭載したロケットの余剰能力を利用して宇宙機を宇宙へ打ち上げる宇宙機のことです。

 

基本的な考え方として、メインとなる宇宙機を事故らせないという思想が前提にあるため、そう簡単に放出されないという設計であることは前提においておくべきです。

 

同じ冗長系だとしても、絶対に放出できるように、起動側への冗長系がある設計と、不動側に冗長系がある設計では設計が変わることに注意したほうがいいでしょう。

 

ロケットからの放出側の制御は、放出することに対する制御と宇宙機自体を起動する制御の方法に注意して設計した方が良いです。

 

さて、本記事では宇宙業界側での視点からJAXA共通技術文書の情報を抜粋しているのですが、JIS規格上でも安全設計として抽出された文書があります。

 

それが「B 9705-1:2019 (ISO 13849-1:2015) 機械類の安全性−制御システムの安全関連部− 」です。

 

この中に示されている安全カテゴリ4/カテゴリ4が、航空・宇宙機器に求められる制御回路構成と言われています。

単純にまとめると、冗長化された構造により加え、故障が発生した際に故障を検知する機能、かつ冗長化の状態を互いに監視し、単一故障だけではなく故障の累積にも対応する回路とされています。

 

カテゴリの基準は産業用ロボットや安全機能をもった電子機器の制御構成に使用されています。

制御回路の設計に困った場合は、こういった事例集も参考にするとよいのではないでしょうか。

 


 

参考

JAXA共通技術文書

https://sma.jaxa.jp/techdoc.html

JMR-004 信頼性プログラム標準

https://sma.jaxa.jp/TechDoc/Docs/JAXA-JMR-004C_N1.pdf

宇宙活動法 許認可の申請手続き

https://www8.cao.go.jp/space/application/permits.html

JERG-2-120 単一故障・波及故障防止標準

https://sma.jaxa.jp/TechDoc/Docs/JAXA-JERG-2-120A.pdf

JERG-2-025 公募小型副衛星 ハザード解析ハンドブック

https://sma.jaxa.jp/TechDoc/Docs/JAXA-JERG-2-025.pdf

安全規格・技術セミナ-~リスクアセスメントと安全設計~

https://fujisafety.jp/files/aboutus/c1-20.pdf

第16回 制御システムの安全設関連部(SRP/CS)

http://www.jspmi.or.jp/system/l_cont.php?ctid=130404&rid=1157

安全 PLC を用いた機械・設備の安全回路事例集

https://www.jema-net.or.jp/jema/data/7211(2010520).pdf

 

 

ロケットの打上げ延期の時の人工衛星の対応は?

ロケットの打上げ延期の時の宇宙機人工衛星など)の対応とは

いくつかの場合分けになるとは思いますが、打上げ直前のカウントダウンフェーズの場合、次のようになります。

宇宙機由来のトラブルでなければ、基本、衛星分離機構から外すことはありません。

可能性として、ロケット側の致命的なトラブルで、打上げが絶望的となったら外すかもしれません。

 

そして、これらはリスク回避を基準に判断されます。

 

フェアリングに搭載されたままのリスクとしては、巨大な燃料を搭載しているロケットが誤動作したときに、連動して宇宙機にも影響を受けてしまうこと。主に、爆発や高所による不安定があります。

 

高所であることから、メンテナンス性が悪く、メンテナンス要員に危険が及ぶ可能性があるため、ロケットに接続されたままということはありません。

 

宇宙機はロケットの先端部分にある曲線状のフェアリングの中に搭載されています。

このフェアリングごと取り外して保管されます。

 

 

フェアリングの保管によるリスクは、フェアリングの種類、ロケットの構造、設計に関わってきます。

 

最新で高価なロケットの場合、フェアリング内は空調が利いていており、ある程度の清浄度を保たせることができます。この場合は、下手にフェアリングを開けるよりもそのまま保管していた方が安全です。

 

宇宙機フェアリングは強固に強固に結合されており、フェアリング保管設備の方が、安全に施設に固定することができるためです。

 

この時、フェアリングはある程度密封になっているために、温度差や気圧差に十分気を付けなければ、フェアリング宇宙機にダメージを受けることになります。

 

様々な形状の宇宙機に対してフェアリングはある程度形が決まっているため、施設内の作業者にとって、よくわからない人工衛星よりもフェアリングごと固定した方が作業の熟練度からも容易だからです。

 

もちろん清浄度に指定がある場合は、フェアリングをロケット打ち上げ場(射場施設)の近くにある施設内の清浄度の管理された区画に保管されることになります。

 

色々注意すべきではありますが、何とか人工衛星を移動させた後に問題になるのはスケジュールです。

 

人工衛星には、いくルカのリスク要素がありますが、大きなものの一つに電池と推進剤があります。

 

電池はそれ自体がエネルギーを持つことから、発熱や暴発、漏電の危険性がありますが、制御方法が確立されており、ちゃんとしていれば問題はないのですが、自己放電があることから、電池容量が減り続ける可能性があります。

 

宇宙機の生存率を上げるために、スケジュールが長引けば充電しなければいけません。

ロケットとの契約によっては、一度分離機構まで取り付けられたなら、充電禁止となることもあります。

ロケットの打上げが長引けば長引くほど、ロケットの生存確率が下がってしまいます。

 

ロケットのフェアリングの設計次第ですが、アンビリカルケーブル人工衛星が接続されている場合は、フェアリングを開けることなく充電することも可能です。

 

フェアリングの構造上、充電ができなければ、フェアリングを開ける(衛星分離機構と結合した状態である)必要が出てきます。

 

フェアリング内での次の危険性は推進剤の存在です。

 

今でこそ推進装置に水やイオンが使われますが、昔からヒドラジンが使われていました。

今でも大型から中型の宇宙機は、水やイオンでは推進力が出ないためヒドラジンが使用されることが多いです。

小型衛星以下のサイズの場合、コンポーネントとして搭載する隙間を確保するのが難しく、ほとんどヒドラジンを搭載した宇宙機はありません。

 

ヒドラジンは法律で危険物第5類自己反応性物質です。

引火性があり、爆発の危険性もあり、人体が吸引するとめまいや、意識喪失、皮膚傷、内臓にもダメージを受ける有毒性のある物質です。

 

このヒドラジンに対して、どのようなリスクを負うかの判断によって、フェアリングまで開けるか否かを判断することになります。

これは宇宙機側とロケット側、その他の関係者との調整となります。

 

多くの場合、ヒドラジンが危険であるため、ある程度の期間(おそらく数週間)を超える場合は、ヒドラジン人工衛星から抜く判断になると思います。

 

充電作業とヒドラジンの保管は爆発のリスクがあり、充電しているケーブルやリレーからの火花や熱が印加する可能性をどこまで許容するかによります。

正直、主観ですが危険性が高いため、長期間そのままにはしたくありませんので、ヒドラジンを抜くというのも、近くで作業する作業員のストレスを考えたものとも言えます。定期的にヒドラジンの状態をチェックする作業も増えますからね。

まあ、ヒドラジンの排出作業も供給作業も危険なので、スケジュールによるところが大きいとは思います。

 

もしヒドラジンフェアリングに搭載したまま、排出、並びに(再度打ち上げ準備のため)供給できるのであればそのままでフェアリングに搭載可能となるでしょう。

 

フェアリングに搭載したままであるかの要素としては、次の通りです

  • ロケットとの契約内容
  • ロケット施設の空き状況
  • ロケット施設内での安全状態のし易さ(フェアリングが固定しやすければそのままだが、固定しにくい場合は取り出す)
  • 清浄度の管理
  • 電池の充電
  • ヒドラジンの安全性の判断

 

その後の衛星分離機構と接続したまま保管するか、衛星分離機構から外して保管するかは、主に7つの判断基準に行われます。

 

現在、ベンチャー企業を含めて、様々なロケットが開発されており、ロケットと宇宙機は、今までできなかったことができたり、できたことができなかったりしています。

 

通例でやっていたことでも、技術や仕組み、構造を更新することで対処可能になることから、上記7つを上げさせてもらいました。

 


 

フェアリング内の宇宙機の状態

ロケットの機能に応じて、フェアリングの中で人工衛星が起動したままの状態(ホット・ローンチ)と停止したままの状態(コールド・ローンチ)の2つに分かれます。

mechanical-systems-sharing-ph.hatenablog.com

小型衛星や超小型衛星、複数の人工衛星を打ち上げる場合は、コールド・ローンチの形式であることが多いです。

コールド・ローンチは、ホット・ローンチに比べてロケット側で対応することが少なく、インタフェースも減ることから多く用いられています。

 

ホット・ローンチは、ロケット側で対応することが多いのですが、その代わり人工衛星自体の生存確率を上げています。

 

ホット・ローンチの場合は、人工衛星の電源がされた状態で打ち上げることになります。

利点は、ロケット打上げ中も、人工衛星の信号をアンビリカルケーブルを介してロケット内で受け取り、ロケットと地上との通信である程度知ることができます。

 

ちなみに、電波法とか国際的な取り決めの関係で、ロケットから放出されないと宇宙機のテレメトリの発信ができません、確か。

 

アンビリカルケーブルは、設計次第ですが、最終的な人工衛星の起動スイッチになることもあれば、常時電力を供給することもあります。

フェアリングとは

人工衛星はロケットに搭載される時は、フェアリング(機構)に搭載されています。

 

フェアリング(fairing)は、ロケットの先端に取り付けられている半球状の覆いです。

役割としては、新幹線の先端の形状と同じで、滑らかで曲線を描く形状をしており、空気抵抗を低減させ、空力加熱から保護するための形状をしています。

ロケット以外にも、自動車やオートバイク、自転車、航空機、ボートにも取り付けられ、業界により名称が変わり、航空機ではカウル(cowl)とも呼ばれます。

 

フェアリングは最終的に、大気の影響が大きい大気圏を脱出するまでは取り付けられ、ロケットの場合、目標の高度に到達したときロケットの本体と分離して中の人工衛星が露出して、最終的に分離します。

 

参考サイト

H3ロケットフェアリング

https://answers.khi.co.jp/ja/mobility/20210806j-01/

フェアリング空調移動車運用

https://www.rocket.jaxa.jp/rocket/h3/pickupPhoto/detail_20210310-1.html

JAXA共通技術文書

https://sma.jaxa.jp/TechDoc/

JERG-1-007F 射場運用安全技術基準

https://sma.jaxa.jp/TechDoc/Docs/JAXA-JERG-1-007F_N1.pdf

JERG-2-026 軌道上サービスミッションに係る安全基準 

https://sma.jaxa.jp/TechDoc/Docs/JAXA-JERG-2-026.pdf

JERG-2-025  公募小型副衛星 ハザード解析ハンドブック

https://sma.jaxa.jp/TechDoc/Docs/JAXA-JERG-2-025.pdf

衛星搭載型2波長赤外線センサの紹介

2波長赤外線センサとは?

赤外線センサといっていますが、いわゆる赤外線カメラのことです。

赤外線は、人間の目に合わせた可視領域外にある光の波長域のことで、可視領域では識別しにくい物体や現象を観測するために用います。

2波長という、それぞれ別の光の波長域を観測することで、通常では見逃してしまったり、疑似的に模造した物体を識別し、本物を当てることができます。

 

赤外線を用いる技術は多くあり、特に熱を観測できることから熱源探知機としても利用されています。

 

兵器の視点でいうと、赤外線はミサイルの推進剤が燃焼する熱やCO2などの炭素ガスを検知することができます。通常の可視光では単なる蒸気のような白い雲のようで見分けることができません。

紫外線でも観測することができますが、観測できる波長の領域が少ないため、赤外の方が視野的に広い範囲で、確率も高く検出することが可能です。

 

もちろんミサイルだけではなく、爆発や火災、飛行機の落下など、いずれも危険な状態を宇宙という何からも邪魔されないところから観測することができる利点があります。

この利点は、現在のミサイル防衛に利用されている赤外線センサ(レーダ)の欠点を補完しています。

 

地上に配置されたレーダーは地平線により、長距離からの検知に遅れてしまいます。

長距離のミサイル、例えば弾道ミサイルを利用されたとして、どうでしょうか?

弾道ミサイルは、ミサイルが発射されるときに推進剤が燃焼される時間はわずか数分(十数分?)で打ち上り、大気圏を突入し、自由落下します。

自由落下するので、特徴的な熱の観測が難しく、目視できた時には対応が難しい距離にある可能性があります。

 

そこで人工衛星に装備された赤外線センサが利用することで広範囲で観測することができ、対応に時間を作ることができます。

ただし、現状人工衛星の赤外線センサは、細かい部分を観測するには、まだまだ精度が低いという欠点があります。

そこで、2波長赤外線により、多角的(多くの波長帯域)に観測することで精度を向上させる目的があるものと思います。

 

ミサイルなどの高速で飛行する物体の検知は、赤外線だけではなく、電波を放出して反射してきた電波観測するレーダー(Radio Detection and Ranging) も存在することから、これらの技術を組み合わせて、ミサイルの検知などの精度を高めています。

 

例えば、先ほど挙げた弾道ミサイルの場合、打上げ時点では人工衛星などによる赤外線センサで観測できるのですが、高高度から落下する期間は、ミサイルが比較的低温になることから観測が難しく、落下の際の大気の抵抗により再度加熱するのですが、赤外線で追うよりも、レーダーによる観測の方が精度が高く対応できます。

初動の際に利用されることが多くなります。

 

弾道ミサイルと変わり、巡航ミサイルというのも存在しています。

巡航ミサイルは、エンジンを搭載し大気の空気から酸素を利用して飛行し、機動力が高く、低高度で飛行します。

ただし、巡航ミサイルは大気の酸素を使用し、燃焼しちえることと、大気抵抗により熱を放出していることから、赤外線センサで比較的に検知することができます。

 

このように通常の技術と使い分けを行っています。

 

ちなみに、アメリカや中国、ロシアは、軍用の赤外線センサを搭載した人工衛星を所有しているかは公開されていません。

 

[目次]

 

先進レーダ衛星の搭載される衛星搭載型2波長赤外線センサ

先進レーダ衛星(ALOS-4、だいち4号)には人工衛星名にもなっているレーダのミッション以外にも、ミッションが存在しています。

 

メインのレーダのミッションはLバンド合成開口レーダ(PAKSAR-3)、船舶自動識別信号受信器(SPAISE3)の2つはJAXAやリモート・センシング技術センターのWEBページをはじめ紹介されており、そこには記載されていない衛星搭載型2波長赤外線センサも搭載されています。

 

衛星搭載型2波長赤外線センサの有用性については述べた通りですが、そのほかの面も調べていきたいと思います。

 

名称がない人工衛星のミッション

また、ALOS-4ではミッションの名称としてPAKSAR-3やSPAOSE3があるのですが、2波長赤外線センサには名称がありません。

人工衛星は複数のミッションが搭載されていることが多く、データ内容も違うことからミッションの名称で分析しているデータを識別していたこともかつてはありました。

 

ちなみに、人工衛星に開発時の名称(ALOS-4)とは別に愛称(だいち4号)がつけられます。

これは日本に限らず、アメリカのアポロやソ連ソユーズなど海外でも愛称が使われています。

 

人工衛星の愛称には、言葉の力、象徴として名付けられることが多く、同時に宇宙業界外の人たちに向けた親しみやすさを作りだしているといわれています。

 

日本軍や自衛隊にて艦船に名前を付けてきたことから、何かしらつけると思っていたのですが、なかなかそうではないようです。

 

ただ、人工衛星は打ち上げが失敗することもあり、打ち上げられなかったときは愛称が使われないこともあるため、打ち上ってから公表するのかもしれませんし、名前を付けないことで、あまり表に出さないようにしているのかもしれません。

搭載されている赤外線センサは?

衛星搭載型2波長赤外線センサには、メインのQDIP光学センサ以外に評価用のMCTセンサが搭載されています。

 

QDIPとMCTは、いわゆる赤外線センサの種類のことを指しており、どちらも高感度のセンサの一つで、熱によるノイズの影響を受けやすく、温度の誤差が発生することから冷却装置(センサ温度を-50~0℃(77K)以下に冷却)を搭載する必要があります。

 QDIP:Quantum Dot Infrared Photodetector, 量子ドット型赤外線検知素子

 MCT:Mercury Cadmium Telluride,

メインのセンサはQIDPで、MCTの方は比較評価用に搭載されています。

 

センサ部分を冷却しなければいけないミッション機器は、人工衛星にとって厄介です。

 

まず、人工衛星の温まる要素として、地球からの輻射熱、太陽光と内部の消費電力があります。

 

人工衛星には、電池(バッテリー)や他の電子機器の中に、低温過ぎると寿命が短くなったり、挙動がおかしくなる電子機器が存在しています。

そんな温まってしまう現象と温まってしまう機器が存在している中で、冷やさなければいけません、。

 

単純に冷やしたければ、太陽側や地球側と反対方向に向ければ勝手に冷えていきます。

 

冷える方向に向けるためのアームやケーブルが必要になったりしますが、そこから伝熱して、冷やしたくない人工衛星全体も伝わって冷えていきます。

 

宇宙空間は大気がないために、伝熱や輻射など地上では無視されてしまう要素が、打って変わって効果が抜群に効いてきます。

 

さらに、人工衛星自体が(ALOS-4の場合)3,000kg近い重さで、ほとんどが金属物質であることから単純に熱容量が大きく、温度が変化しにくい特性があります。

 

温度が変化しにくいということは、冷却するのにも時間が掛かるし、温めるのにも時間が掛かります。

宇宙といっても軌道上にあれば、地球や太陽との相対的な関係により昼と夜が生まれ温度差が発生し、多少なりとも人工衛星全体の温度が変わりますが、熱容量が大きい人工衛星だと思いのほか温度の変化が少なくなっていきます。

 

そこに、どうしても冷却しなければいけないミッション機器があるとするとどうでしょうか?

 

冷却装置を搭載しなければならず、冷却装置の搭載場所の確保や発熱、断熱設計、光学設計と調整した急冷による物体の温度膨張収縮の調整、電力の確保、冷却時にモータが駆動する場合は、振動の影響によりデータ記録やデータ取得時の共振の確認など玉突きのように考えなければいけなくなります。

 

非常に面倒な設計をしなければならず、難しいものになります。

 

今回の人工衛星は、赤外線センサを搭載した土地うことよりも、冷却装置、並びに冷却装置を維持するシステムが技術的に高いものと想像しますが、あまり公開されていないようです。

搭載の理由

2波長赤外線センサは少なくとも2015年ごろから研究・計画されていました。

 

そもそも2波長赤外線センサを開発する経緯となったのは、宇宙環境に使用することができるような日本製の赤外線センサが存在していなかったということを理由としています。

 

高い画素数の赤外線センサは輸出入規制により海外から入手することが困難であることを理由に、日本製として研究開発を進めることになったそうです。

 

どうも、64x64画素レベルの赤外線受光部を搭載するところから始まっているようで、おそらくALOS-4に搭載するセンサも同レベルではないかとみられます。

 

iPhoneの画素数が1200万画素や4800万画素であるとすると、かなり分解能が悪いように思えますが、研究開発時点の状況や「赤外線」であること、実証であること、放射線体制を持つセンサであることを考慮すると実用性というより実現可能性を確認しているという目的の方が強いのかもしれません。

 

計画上も、1000x1000画素を量産目標として、挑戦的に2000×2000画素へと段階的に開発を進めて打ち上げる様子です。

2000x2000画素は、地上の装置としてもかなり高価です。

 

ちなみにレンズ情報はありません。

衛星搭載型2波長赤外線センサの運用の想像

人工衛星からのミサイルなどの兵器の検知は難しいです。

 

理由の一つに人工衛星は地球の周りはある程度周期的な軌道で動いているからです。

日本にミサイルが発射される瞬間だとしても、人工衛星が発射場所から地球の裏側にいるとそもそも観測できません。

 

気象衛星ひまわりのように、静止衛星の場合ですとその限りでもないかもしれませんが、地球との距離が離れすぎていて、観測装置の精度が追い付かないことになります。

 

従い、常にある程度の人工衛星が地球を周回している、いわゆる衛星コンステレーションを構築することができれば、問題は解決します。お金と時間の問題はありますが。

 

また、逆に観測装置の精度を向上すれば静止衛星でも問題はありません。

現段階では、どちらに行くのか明確ではありませんが、技術的には衛星コンステレーションの方が現実的な気はします。

 

さて、今回の場合は、人工衛星1機しかないため、実証というミッションとなるでしょう。

対象としては、各紛争地域の観測もありますが、時間の予想がつく日本のロケットエンジン開発地域の観測、ロケット打ち上げ時の観測があげられます。

ホリエモンが創業者であるIST社のロケット打ち上げや、キャノン電子が関わっているスペースワンの打ち上げを観測する可能性もあります。

 

それはそれで画像を見たいです。

 

その他にも、通信システムとして光データ中継衛星(データ中継衛星1号機)による衛星間通信の有用性なども確認することになるのではないかと思います。

 

実用性というより、データの蓄積を主とした運用になるのではないかと思います。

今後の課題の想像

今回のミッションを得て、今後は100kg級小型衛星や6U,12U級超小型衛星に赤外線センサーを搭載するロードマップを描いています。

いわゆる衛星コンステレーションですね。

 

ただ、小型衛星や超小型衛星に移した時、機械設計的な視点としての課題があります。

 

それは冷却方法です。

 

冷却器を小型化、省エネルギー化する必要があります。

想像ですが、ALOS-4に搭載されているであろう冷却器はサイズ的に大きく、電力消費もあり、物理的に搭載できません。

ヒートパイプやヒートシンクで-50℃(77K)にすることができるか非常に難しいところです。

 

また、冷却しすぎて、電池の寿命を削るか、短期であったとしても他の電子部品に影響が出てきます。

小型衛星は大型衛星と違い熱容量が小さいため、すぐに冷めてすぐに温まる特徴があり、電源系、制御系、通信系コンポーネントの稼働電力で温まってしまうことでしょう。

 

小型衛星の画期的な冷却手法か、常温でも高性能な赤外線センサの開発が必要になります。

この二つは人工衛星製造メーカーでは、新規に開発したり、見つけてくることが難しいいでしょう。

対応可能な協業先を見つけるか、発注元が目星をつけて提案しないと、開発がとん挫するか長期の延期に入ることになり、開発期間が長くなることは覚悟しておいた方がいいでしょうね。

 

搭載場所の余裕度合いから100kg級小型衛星の方が比較的に実現性があります。

6U、12U超小型衛星では非常に困難で、精密な熱シミュレーションが必要となっていきます。

逆に超小型人工衛星で実現したら、かなり画期的な技術になると思います。部分的な冷却技術が確立できれば、通常の分光機器で発生する熱問題も解決できるかもしれません。

 


 

参考サイト 

宇宙領域における防衛装備長の取り組みについて

https://www.sjac.or.jp/pdf/publication/backnumber/202004/20200402.pdf

平成21年度小型衛星への赤外センサの搭載可能性に関する調査研究報告書

http://www.jmf.or.jp/japanese/houkokusho/kensaku/pdf/2010/21sentan_y12.pdf

小型衛星への赤外センサ搭載可能性に関する調査研究報告書

https://hojo.keirin-autorace.or.jp/seikabutu/seika/21nx_/bhu_/zp_/21-11koho-12.pdf

ミサイル警報装置

https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%9F%E3%82%B5%E3%82%A4%E3%83%AB%E8%AD%A6%E5%A0%B1%E8%A3%85%E7%BD%AE

先進レーダ衛星「だいち4号」(ALOS-4)

https://www.jaxa.jp/projects/sat/alos4/index_j.html

ALOS-4

https://www.restec.or.jp/satellite/alos-4.html

Space-based Infrared System (SBIRS)

https://missilethreat.csis.org/defsys/sbirs/

An Overview of Sensors for Long Range Missile Defense

https://www.mdpi.com/1424-8220/22/24/9871#:~:text=Two%20main%20types%20of%20sensors,and%20may%20have%20high%20resolution.

 

フル3Dプリントによる人工衛星はすでに打ち上げられている

宇宙業界では3Dプリントが注目されています。

 

注目されているといっても、2022年はややニュース記事としては少なくなっている印象です。

 

宇宙開発には試験や検証で時間が掛かります。

特に初号機の場合は、小型衛星の場合でも2年以上の期間で開発されます。

逆に、2022年にニュース記事が少なかったのはちょうど検証の期間であった可能性もあります。

 

今回は人工衛星開発における3Dプリントの現状をまとめていきます。

[目次]

すでにフル3Dプリンタ衛星が打ち上げられている

2022年にオーストラリアのFleet Space Technologiesでフル3Dプリンタで製造された小型衛星が打ち上げられました。

 

打ち上げられた人工衛星はAlphaと呼ばれ、衛星コンステレーションと呼ばれる、人工衛星を複数機軌道上に打上げ、システムを構築することを目的にしています。

mechanical-systems-sharing-ph.hatenablog.com

このフル3Dプリンタ衛星の特徴は、最大64個のアンテナを装備し、データの情報転送を向上させる点にあります。

 

Fleet Space Technologiesでは、主に鉱物資源情報を軌道上から観測して調査するいわゆる資源探査を眼前の目的としています。

mechanical-systems-sharing-ph.hatenablog.com

 

このフル3Dプリンタ人工衛星を製造したFleet Space Technologiesのあるオーストラリアは宇宙の業界的にも新興国に分類されます。

宇宙機のノウハウが少ない中でも人工衛星をフル3Dプリンタで製造したことは驚きです。

 

もちろんこのフル3Dプリンタ衛星が組織として1号機でというわけではなく、Centauriという3U CubeSatと呼ばれる30㎝級の超小型衛星を打ち上げ、現時点で7つの衛星を打ち上げられています。

 

先ほど記載した通りFleet Space Technologiesの目標は鉱物探査のようですが、今回の衛星自体は衛星通信によるものらしいです。

 

いくつかの情報によると3Dプリンタによる製造対象は、アンテナや構造物を製造しています。小型とはいえ宇宙機3Dプリンタで製造するノウハウを利用することで、別の可能性も継続して探っているようです。

その一環として3D systems社と共同で取り組み宇宙用のアンテナを販売しているようです。

 

3Dプリンタの利点は人間の作業が少なくほぼ自動で休みなく動いてくれる点(安全性と人間によるポカミス防止)、パーツの組立が不要な点、パラメータさえ分かれば品質も安定して製造できるという点です。

 

ちなみに、Fleet Space Technologiesでは一つの塊ではなく、フレームやパネルなどを3Dプリンタで製造したのちに組み上げる方式をとっているようです。

 

Fleet Space Technologiesの衛星が映りこんだ動画のリンクを置いておきます。

2021年以前はフル3Dプリント衛星ではないのためご注意ください。

www.youtube.com

https://www.youtube.com/watch?v=78i9BRvRW3k

www.youtube.com

https://www.youtube.com/watch?v=LgmagYYyTDY&t=50s

www.youtube.com

https://www.youtube.com/watch?v=Q_uS9GMNOgA

人工衛星3Dプリンタ事情

人工衛星3Dプリンタでは宇宙用アンテナを製造販売しているところが多いです。

 

3Dプリンタの性能は、最大サイズのオーダーにもよりますが、数ミリ以下、数十マイクロ以下のレベルにあります。

 

切削と比較しても良好な品質を得ることも可能です。

装置自体が高額であったり、パラメータ調整が機敏であるといったデメリットを除けば、信頼性が高く安定的に製造可能とも言えます。

切削で最も問題であった、切削熱による歪みといった問題も解消されます。

 

それでもフル3Dプリンタ人工衛星が少ないのは、3Dプリンタを使いこなせる組織の存在が少なく、切削加工や金属可能の方が比較すると安価であること、強度計算の精度が難しいなどがあげられます。

アンテナのほかに、構造物やセンサーなどにも利用される事例が出てきています。

 

一方で、宇宙空間(軌道上)で3Dプリンタを使用するという技術も考えられてきています。

3Dプリンタの技術を軌道上に持ち込んで形状を製作する方向に動いています。

 

とても画期的ですが熱や振動の低減技術がかなり難しそうです。

製造の際の熱や振動の低減技術が進めば、他の観測機器の熱や振動低減につながり相乗効果が望めそうなので、この技術が発展することはとても期待が持てます。

www.youtube.com

https://www.youtube.com/watch?v=kebh_KRXMzc

www.youtube.com

https://www.youtube.com/watch?v=9BkH88RilHk

 

おそらく最初の衛星は、超小型よりも小型衛星や中型衛星の方がよいと個人的に思っています。

理由は、振動や熱による影響を減らすため、姿勢制御を安定させるために質量を重くする(姿勢の回転を減らす)こと、熱変化を減らすためにサイズや容量を大きくする(熱容量を大きくする)ことを思い浮かべます。

 

逆に小さくして、連続稼働ではなく断続稼働や微小稼働により、振動や熱、電力問題を解決させる手もありますが、そのあたりはシステム設計や搭載想定のロケット性能によるところかもしれません。

 

 

www.youtube.com

https://www.youtube.com/watch?v=ir_SLjykvRE

その他の情報

ロケットの部品の製造。

www.youtube.com

How Do We Finish Machine this Large 3D Printed Rocket Part??? - YouTube

 

人工衛星ではありませんが、ドローンを3Dプリンタで製造したものです。

インタビューの中では人工衛星についても触れられています。

www.youtube.com

https://www.youtube.com/watch?v=taYYWQbpkeM

 

参考サイト

FLEET SPACE’S NEW 3D PRINT FACILITY AIMS FOR SPACE

https://www.aumanufacturing.com.au/fleet-spaces-new-3d-print-facility-aims-for-space

Using part design only manufacturable via 3D printing, Fleet Space lowers the cost and size of communication satellites while boosting their power.

https://all3dp.com/4/fleet-of-3d-printed-satellites-set-to-expand-global-connectivity/

Fleet Space Has Developed Fully 3D Printed Satellites

https://www.3dnatives.com/en/fleet-space-has-developed-fully-3d-printed-satellites-030120214/#!

Researchers 3D print sensors for satellites

https://news.mit.edu/2022/rpa-sensors-satellites-3d-print-0727

3D-Printed Satellite Component Presents a Lesson in Rethinking Design

https://www.altair.de/c2r/ws2016/3d-printed-satellite-component-presents-lesson-rethinking-design

New Manufacturing Facility, Hires and 3D Printing Manufacturing Drives Growth for Fleet Space Technologies

https://fleetspace.com/news/new-manufacturing-facility-hires-and-3d-printing-manufacturing-drives-growth-for-fleet-space-technologies

HIGH SPEED CONNECTIVITY FOR EVERYTHING.LOW COST UNLIMITED SERVICES ANYWHERE.

https://fleetspace.com/alpha

3D printed satellite antennas can be made in space with help of sunlight

https://www.space.com/satellites-antennas-3d-printed-in-space

Reaching the tipping point for 3D printing satellites

https://spacenews.com/reaching-the-tipping-point-for-3d-printing-satellites/

3D Systems partners with Fleet Space for RF patch antennas

https://www.metal-am.com/3d-systems-partners-with-fleet-space-for-rf-patch-antennas/

Fleet Space Technologies

https://spaceflight.com/sp-customers/fleet/

Fleet Space Technologies

https://twitter.com/fleetspace

Flavia Tata NardiniFlavia Tata Nardini

https://au.linkedin.com/in/flavia-tata-nardini-1159a875

Hemant Chaurasia

https://www.linkedin.com/in/hchaurasia