ジョン・F・ケネディ宇宙センター(John F. Kennedy Space Center, KSC)にはロケット発射場があります。
過去、スペースシャトルと呼ばれる宇宙機が現役であった時にもケネディ宇宙センターで製造され、打ち上げられていました。
今回は、ロケット打上げ環境がある施設での地上支援装置並びに施設内の設備で考慮すべき環境条件をまとめました。
目次
ロケット発射場は、射場や射場施設と呼ばれています。
この射場の設備は、通常の施設に比べて、射場特有の条件があります。
ロケット発射場の設備あるいは施設なんて何度も作るものではありません。
日本の建築基準としても、空港はあってもロケット発射場はありませんし、どの基準に沿って作るべきか悩みどころです。
ちなみに、宇宙活動法の一つである人工衛星等の打上げ及び人工衛星の管理に関する法律(平成28年法律第76号)に基づいて、「人工衛星の打上げ用ロケットの型式認定」、「打上げ施設の適合認定」があります。
この内容は周囲安全やロケットを制御するための飛行管制設備の設置などを定めています。(2022年8月時点)
建築基準法や宇宙活動法、電波法、電気事業法、電気工事法、消防法などの法律を遵守していることは必須条件として、関係省庁に確認しつつ、どのような仕様であるのか、ロケット射場のある施設内で動くために環境条件も考えておく必要があります。
一般的な施設の設備の仕様として、設置した自然環境への耐久と設置した施設特有の環境への耐久を考えておく必要があります。
今回は、新しくロケット発射場を作る、ということはそうそうないので、すでにあるロケット射場の追加設備を前提に記載していきます。
射場設備の条件
立地の検討はおいておいて、射場設備の条件は比較的単純です。
設備が受けるであろう環境負荷に耐える能力を有していればいいだけです。
ロケットを打ち上げる射場と、射場を制御する管理施設、燃料を注入する施設、ロケットや宇宙機を接続できる施設あるいは機械設備、簡単な気象観測施設があげられます。
ロケットの打ち上げ能力が高ければ、打ち上げに使用される推進力も高く、発生する衝撃音や風圧も大きいものになります。
施設はそれらの環境に耐える必要があります。
また、ロケットの打ち上げに影響がないように、施設から発生する電磁場の管理を実施したりと細々とした環境が変わってきます。
ロケット特有な環境だけではなく自然環境にも耐える必要があります。
例えば雷対策です。
ケネディ宇宙センター(KSC)のあるアメリカのフロリダ州南部地域は雷が多発する地域であるため、雷対策に多くの費用をかけています。
日本の場合、海に面している場所が多いことから海からの塩害対策も考えなければなりません。風向きや距離によっては重耐塩対策を講じる時もあります、
日本の場合は、台風やハリケーン対策はもちろんですが、地震や洪水、津波、積雪対策も考慮しておくことになります。
積雪の場合は融雪剤に塩が使用されることもあるため、重耐塩対策も頭に入れておくことになります。
設備に対する要求仕様
原文のLessons Learnedでは、次のフローで試験を実施することが推奨されています。
試験フローの順序としては、試験結果がNGとなった際に、開発し直した時に影響度の大きい順に実施されます。
それはスケジュールやコストの両面から考慮したうえで、特記がない限り、次の順序が推奨されています。
- 電磁妨害
- 低温
- 高温
- 熱衝撃
- 音響
- 振動
- 衝撃(インパクト)
- 湿度
- 雨
- アイシング
- 日射
- 真菌
- 塩霧
- 砂とほこり
- 爆発
- リフトオフブラスト
機能試験
以降の環境試験後に製品の機能性能に影響を受けていないか判断するために、環境試験前に実施します。
詳細である必要はありませんが、すべて正常であることを確認できる程度にの試験を実施しておくことになります。
もちろん、製品の品質や信頼性に関わることから、試験期間や製造コストなどが潤沢であれば、詳細な試験を実施しておくに越したことはありません。
試験項目を考える中で、NGレベルとして許容の限度範囲も想定したうえで実施しておくことが望まれます。
ここで問題が発生します。
基本的に設備の建築を依頼するのはロケットや宇宙機を開発している側なので、必要以上に試験してしまう可能性があり、宇宙業界の知見のない設備製造側からすると文字通り言葉が通じないことがあります。
丁寧に説明するか、転職などで知見がある人、過去に近い施設を取り扱ったことがある業者など、一枚間に挟んでおいたほうがよいです。
いや、マジで、どちらも不幸になるので。
施設設備の試験項目の前提条件
試験項目は運用方法を事前に想定した上で、設置を検討します。
施設ありきではなく、運用ありきで考えるべきです。
設置している機械的または電気的な接続状態を可能な限り再現して、模擬負荷での離京を測定する装置を配置しておきます。
もちろん試験する前に、誤接続による誤操作や機能に致命的な影響を及ぼす損傷が発生しないことを確認するために記録しておく必要もあります。
試験条件としては、環境的な負荷がかかる場所でも稼働するような設備の場合は、電気的に稼働した状態で試験に供する必要があります。
また、抜けがちなのが信頼性の検討も必要であることから、年に何回ロケット打ち上げなどの大きな衝撃を受ける可能性があるのか。
設備には適宜メンテナンスが必要になります。
メンテナンスのタイミングも考慮して構築した方がいいです。
本内容から外れますが、設備が壊れたときの代替え案や、交換方法、交換のための通路なども考慮に入れていると、長く使える設備になるのではないでしょうか。
特性試験
製品の基本的な設計特性を確認する試験も必要になります。
試験項目は、機能試験とは異なります。
特性試験は、破壊試験でない場合、通常環境試験の前に1度実施されます。
空気圧に関係する製品の特性試験の例として次の試験があげられます。
- プルーフ試験:圧力容器内に初期欠陥がないことを確認する加圧試験
- フロー試験:空気圧の流体流動性を確認する試験
- 雷サージ試験:サージ電圧(サージ電流)を印加する試験
- 破壊的なバースト試験:通常の電圧、信号では発生しない突発的な電気的負荷が発生したときに誤操作しない評価する試験
電気製品の場合の特性試験は、次の試験項目が含まれる場合もあります。
- 電圧降下試験
- 電流通電試験
- 絶縁抵抗試験
- ライフサイクル試験
試験は、信頼度計算のために統計データを考慮して取得します。
原文では「1000分の1」で発生する可能性のある障害は、ライフサイクル試験で発生するか確認します。
運用中に製品が受けるあらゆる環境を印加された状態で動作の劣化を確認し、信頼性を算出します。
耐用年数を超えて発生する故障は、設計上の故障とはしないのですが、運用時の設備のメンテナンス期間を設定するための情報として入手します。
ライフサイクル試験のサイクル数は、運用環境により設定する必要があります。
記録文書
試験計画とともに試験要件を文書化します。
文書の記録には、計画の実績とともに、検査、データ要件、試験公差(適合範囲)、機能試験、および設置要件を記載し、適合条件から適合条件から逸脱されたデータがある場合、特記事項として記録に残しておきます。
適合から外れた場合は、危機に対して修正を実施する必要があるが、修正された記録も残しておくことです。
試験結果も、内容を承認したのちに、および誰もが確認できるようにしておく必要があります。
また、試験を実施する組織は、試験計画に記載された試験要件に基づき、試験手順書を作成する必要があります。
もちろん長期的に記録は保存し、保守記録として継続して蓄積しておくことを進めます。
試験方法
電磁妨害
電磁干渉試験(EMC試験)は、電磁波によって電子機器または電気機器が誤動作または性能低下を引き起こすか確認する試験です。
電気電子機器には、外部の電磁波よる誤動作の影響を受けやすい機器が含まれています。
誤動作が発生すると、搭載しているコンピューターの計算が狂ったり、コンピュータープログラムのコマンドのシーケンスが変更したり、記録ディスクの記録失敗、記録時刻の変更を誤って示す原因となる可能性があります。その他には電磁弁、電源接点、信号リレーなど、外部の電磁波による誤動作の影響を受けにくいコンポーネントは、電源のON/OFFによる異常パルスを生成する場合もあります。
低温
低温試験は、運用中に起こりうる低温環境で、電子部品を含めたパーツの動作性能に影響がないかを確認する試験です。
試験項目は、低温環境が性能の低下を引き起こしているか確認する必要があることから、低温中に機能試験を実施します。
低温状態で発生する可能性のある問題は次の通りです。
- 部品の収縮差
- ガスケットの弾力性の低下
- 潤滑剤の凝固による結合
高温
高温試験は、運用中に起こりうる高温環境で、低温試験と同じく、電子部品を含めたパーツの動作性能に影響がないかを確認にする試験です。
試験項目は、高温環境が性能の低下するという低温と同じ目的で実施されます。
高温状態で発生する可能性のある問題は次の通りです。
- パッキンやガスケットの恒久的な硬化
- 膨張差による部品の結合
- ゴムやプラスチックのひび割れや膨らみ
熱衝撃
熱衝撃試験は、運用中に起こりうる温度環境の急激な変化が、電子部品を含めたパールの動作性能に影響がないかを確認する試験です。
熱衝撃で発生する可能性のある事象は次の通りです。
- 材料の特性や寸法の変化による材料(特にバルブシート)のひび割れや破裂
熱衝撃で起こりやすい事象としては次のものがあります。
音響
音響試験はロケットのホールドダウンおよびリフトオフ時の音響環境が該当します。
ロケットの打ち上げを支援するために使用される地上支援装置、または施設内の設備の動作性能に影響がないかを確認する試験です。
音響環境内では、設備に対して動的な圧力変動を与えます。
音響負荷の周波数帯には、多くの設備の構造的な共振周波数が含まれています。
発生する可能性のある問題は次のものがあります。
- 電気的チャタリング
- ワイヤの摩擦
- プリント回路基板のひび割れや破損
- 導波管やクライストロン管の誤動作/故障
音響試験は、既存の試験施設の能力によって課せられる制約の対象となります。
振動
振動試験は、ロケットの打ち上げを支援するために使用される地上支援装置、または施設内の設備の動作性能に影響がないかを確認する試験です。
振動環境は、ロケット打ち上げ中に発生する振動環境に適用されます。
原文では発射場及び発射場から半径300メートル以内にある設備が対象となります。
衝撃
ロケットの打ち上げは、圧力環境を発生します。
ロケットの点火時に一部のエンジンによって生成される圧力のパルスは、応答として明確な振動ショックを誘発せず、むしろ、リフトオフ期間中のピーク振動よりも低いピーク振幅を有する過渡振動をもたらす。
打ち上げ中に発生する振動衝撃は、構造要素間の衝突および防振装置の固定台によって発生します。
高い衝撃は、保護回路がなく、設備内の金属同士の衝撃によって引き起こす防振装置の硬い固定台によって発生する可能性があります。この場合、衝撃環境による動作性能の確認だけでは個々の設備を評価することが難しいです。
試験仕様や試験手順、及び許容公差はケースバイケースで検討しておく必要があります。
温度
温度試験は、KSCで発生するような高温多湿による耐性、主に腐食への耐性を確認します。
吸湿性材料は湿気に敏感で、湿気の多い自然環境では急速に劣化します。
腐食は材料の機能性や物理的強度を失い、重要な機械的特性を変化させます。
湿気を吸収する断熱材も断熱性を失う可能性があります。
耐水
耐水試験は発射場の降雨量の影響を確認する試験です。
耐水は、雨から筐体が保護されているか、保護カバーが有効にになっているのか能力を確認します。日本では電気機器において保護等級試験、IP試験とも呼ばれます。
着氷及び凍結
着氷及び凍結試験は、外面に氷が形成されやすい設備に対して実施する試験です。
この試験は屋外施設だけではなく、極低温システムに関係する設備、大きな圧力降下が発生する気圧関係のシステム(真空チャンバー)で対象となりことがあります。
氷は設備を構成する個々の電子機器でも発生する可能性があります。
光照射/太陽光近似日射
光照射/太陽光近似日射試験では、太陽放射エネルギーの影響を確認します。
太陽放射エネルギーは、加熱、光劣化(退色)、塗料剥がれ、天然ゴムの弾性低下、プラスチックのひび割れを引き起こします。
光照射/太陽光近似日射試験は、運用中に日射を受ける可能性があり、受けたことで悪影響を受ける可能性のある材料で構成されている対象に実施します。
真菌
真菌検査は、真菌(キノコ・カビ、単細胞性の酵母)により発生する有害な影響を確認します。
真菌の影響の一つに成長中に有機物質の化学反応を加速する酵素分泌があります。
多くの有機物は菌類によって破壊あるいは劣化します。
またミネラル成分も真菌の胞子によって破壊されることがあります。
菌類は、断熱材、木材および木材派生物(紙)、一部の種類のシール、レンズコーティング、多くの種類の材料に影響を与えます。
温度と湿度の条件によっては、真菌の急速な成長と材料の劣化を加速する可能性があります。
塩霧
塩水噴霧試験は、塩水雰囲気の影響に対する機器の耐性を決定するために実行されます。
塩水噴霧で確認する影響は金属の腐食です。
腐食以外には、塩水堆積物が可動部品に詰まったりする可能性があります。
いわゆる加速環境試験の一つであることから、水分と塩の濃度は、通常の地上試験の濃度よりも高くなります。
砂とほこり
防塵・耐塵試験は、細かい砂とほこりの粒子を吹き付け、耐性を確認します。
砂やほこりは研磨性があるため、砂が入る可能性のある設備に影響を与える可能性があります。
砂やほこりも部品間の稼働を悪化させたり、電気的接触を妨げる可能性があります。
防塵・耐塵試験は、ロケットを設置する地域で一般的な風に吹かれた砂やほこりに晒される設備に適用されます。
これも加速環境試験で、通常のサービスよりも厳しい状態で試験することになります。
爆発
防爆試験は、危険な場所で操作した場合の設備自体の爆発発生または爆発封じ込め特性を確認する試験になります。
爆発は機械的または電気的な火花、閃光、温度、または化学反応によって発生する場合があります。
ハードウェアは(1)本質的に安全または(2)防爆の2つのカテゴリのいずれかに分類できます。
推進剤の保管場所または給油場所の近くにあるGSEおよびその他の施設の設備は、大気中濃度の高い水素やおよび 自己着火性推進剤(ハイパーゴリック推進剤)にさらされる可能性があります。
似たようなものに粉じん爆発試験がありますが、粉じん爆発試験は着火のしにくさを確認する試験です。
リフトオフブラスト(Lift off Blast)
リフトオフブラスト試験は、ロケットエンジンの排気がロケットのホールドダウン及びリフトオフ時にGSEおよびその他の設備に及ぼす影響を確認します。
爆風はケットエンジンの排気プルームにより非常に高い温度と圧力が発生します。
損傷の具合は、曝露時間、排気ガスの速度、推進剤の種類がありますが、ロケットエンジンの排気特性が最も関係します。
爆風により施設表面の浸食、保護塗装の損失、高温によるゴムおよびプラスチックの変形、亀裂、膨らみ、および圧力負荷による材料の歪み、変形を引き起こす可能性があります。
まとめ・得られた教訓
地上支援支援設備(GSE)の環境条件は、設置場所により細部が異なっていきます。
環境条件の中で最も厳しい条件で試験することは、非現実的で莫大な費用が発生します。
施設の耐久年数を考慮した信頼性の目標を確実に達成するには、実際の環境要件と信頼性要件の両方を念頭に置いて設計と試験を実施してください。
試験だけではなく、現在多くの規格が発行しており、いくつかの条件を確認した上で、試験ではなく規格に適合した材料や製品を利用することで、実際に試作試験をするよりも費用を抑えることができます。
|
参考サイト
NASA Lessons Learned
https://www.nasa.gov/offices/oce/functions/lessons/index.html
NASA Lessons Learned Steering Committee(LLSC)
Environmental Test Methods for Ground Support Equipment
https://llis.nasa.gov/lesson/651
許認可の申請手続き