往時宇宙飛翔物体 システム機械設計屋の彼是

往時宇宙飛翔物体 システム機械設計屋の彼是 宇宙blog

人工衛星の設計・製造・管理をしていた宇宙のシステム・機械設計者が人工衛星の機械システムや宇宙ブログ的なこと、そして、横道に反れたことを覚え書き程度に残していく設計技術者や管理者、営業向けブログ

【試験作業者向け】試験装置の配線も確認せずに供試体が破壊された後の今後の対策 | Lessons Learned、失敗学、事故事例

試験前に試験機器の機能を確認しておく

f:id:MSDSSph:20210814032122j:plain

 

試験前の事前確認は重要です。

 

例えば地上支援装置(GSE)を外注し、外注の検査結果をもって試験に挑んだとしても、データが取れなかったなんて言うことはよくある話です。

 

出荷時点で問題なかったとしても、試験コンフィギュレーションを組んだ時に、ヒューマンエラーが発生してしまうことがあります。

 

特に一度しか行われない試験の場合や試験機器のスケジュールがタイトな場合が宇宙機ではよく、本当によくある(あった)のですが、再試験に時間が掛かります。

 

最悪再試験できないことがあります。今回の事例は、再試験ができない事例でした。

 

 

概要

Mars Science Laboratory(MSL)であるCuriosity Roverにあるロボットアームのシステムシステム試験が失敗した理由は、地上支援装置内部の配線間違いによるものでした。

 

失敗の原因を調査した際に、地上支援装置の機能を確認した際に発見できました。

 

ミッションインテグレーション試験とも呼ばれるAssembly, Test, and Launch Operations(ATLO)のシステム試験として熱試験を実施していました。

 

熱試験は筐体の環境を真空(低圧)状態にするチャンバーのドアを閉める前に、使用する地上支援装置の計装部(ケーブル)を接続した状態で、地上支援装置の機能が動作することを確認しておくこと。

 

  

発生タイミング

2011年3月、NASAカルフォルニア工科大学にあるジェット推進研究所(JPL)でMars Science Laboratory(MSL)である Curiosity Roverの組立、試験、ミッションインテグレーション試験を含めた、システム熱試験が実施されました。

 

システム熱試験の1つとしてCuriosity Roverの前面部分にあるロボットアームに搭載されているコンポーネントの火星の岩石サンプル採取用のパーカッシブドリルの低温低圧試験が行われました。

 

ロボットアーム含めたパーカッシブルドリルは複雑なシステムで合計16個のアクチュエータで構成されています。試験の概要はドリルに加わる応力を動作温度で検知・検出することです。

 

温度をドリルの応力に変換する検出器の検証は、パーカッシブルドリルに接続されているロードセル(質量やトルクを検出するセンサ)によるドリルビット部分のたわみとドリルの重力ベクトルの計測を行う加速度センサを地上支援装置(GSE)に接続することで実施しました。

 

 

システム熱試験としてCuriosity Roverのロボットアームは、50N刻みで300Nまで加圧することを実施しました。

 

しかし、予圧プレートに埋め込まれたロードセルは力の増加を検出できませんでした。

納品前、ロードセルは校正され、機能が検証されていました。

 

システム熱試験の失敗の主要因は、ロードセルに付属のアンプユニットへのAC電源のリード線の誤接続でした。

結果、ロードセルは地上支援装置と接続していたのですが電力が送らませんでした。

 

根本的な原因は、システム熱試験前の試験コンフィギュレーションを組み付けた時に、不適切な手順と指示によって引き起こされました。

システム熱試験前に、すべて接続された状態で、地上支援装置を使用したロードセルの機能が動作されるか確認されないまま試験を実施されたことです。

Lessons Learned

Lessons Learnedを受けての推奨事項としては次の通りです。

 

地上支援装置が試験対象のフライト品に接続され試験環境に供するときに、ケーブルなどが誤接続されてしまい、試験中に気づいたとしても、中断して試験のコンフィギュレーションを変更することが不可能な場合があります。

 

本試験では、実試験ができずシミュレーションによる分析を行いましたが、実機を利用した試験より精度が落ち、満足できるものではないところで終わっています。 

 


 

最後に

真空(低圧)下の熱試験は、宇宙機を熱真空チャンバーに搭載し熱真空チャンバーはチャンバー内を一度真空(低圧)にしつつ温度を下げていきます。

 

チャンバー内が低圧状態ですと外部の大気圧によりチャンバーのフタを解放することが難しくなります。

 

チャンバーに低圧状態を解放する機構があっても、チャンバー内に一気に空気が入り込み空圧によりチャンバーに物理的に影響を及ぼします。(一気に空気が入り込んできちんと固定されていない個所などがぐちゃくぐちゃになります)

 

さらに低温状態になっている場合、外部との温度差によりチャンバー内部が結露します。すなわち、宇宙機の電子機器が一度水を浴びる状態になります。

 

こうなった場合の対処は少なく、可能な限り水分を拭き取り、可能であれば電子機器内部も開けて水分を拭き取ります。

 

その後、ベーキングを行います。ベーキングというか機器自体を加熱して水分を蒸散させます。

熱真空チャンバーで実施すれば、余計な水分も吸出し排出させるためより効果的です。

最初に水分を拭くのは、蒸散の時間を減らすためですね。

 

経験者のいない宇宙機開発の場合は、こういう失敗を起こしていたと聞いたことがあります。

経験者が居たとしても、ヒューマンエラーであったり、試験後の熱真空チャンバー開梱時に十分に大気圧に戻っておらず、圧力差と湿度により結露します。

 

材料ベースでベーキングしていたところ無駄になってしまうこともあり、水分に敏感なミッション機器を熱真空試験に供する場合は十分な注意が必要ですね。

 

参考サイト

NASA Lessons Learned

https://www.nasa.gov/offices/oce/functions/lessons/index.html

NASA Lessons Learned Steering Committee(LLSC)

https://llis.nasa.gov/

 

https://llis.nasa.gov/lesson/6696