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人工衛星の設計・製造・管理をしていた宇宙のシステム・機械設計者が人工衛星の機械システムや宇宙ブログ的なこと、そして、横道に反れたことを覚え書き程度に残していく設計技術者や管理者、営業向けブログ

なぞの宇宙業界用語「ワークマンシップ」を簡単に説明します。

宇宙業界用語「ワークマンシップ」とは

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 workmanship(ワークマンシップ)とは、直訳すると、

技量や手際、できばえ、仕上がり

workmanshipの意味・使い方・読み方 | Weblio英和辞書

といった意味を示します。

 

宇宙業界では、技量や仕上がりという意味が適切かと思います。

 

ワークマンシップの確認とは、製品(人工衛星やロケット)の仕上がりにおいて問題(欠陥)を発見するという品質の確認ということを示しています。

 

NASA Workmanship Standards Programではより具体的な対象を示しています。

部品間の接続(プリント基板の配線、ケーブルハーネス(配線)とプリント基板の接続)が、軌道投入および宇宙空間での耐久性と信頼性に足りうるかを定義としています。

 

ワークマンシップの確認とは、宇宙機の計装系が宇宙空間で充分な耐久性と信頼性であるか確認するものでもあるのです。

 

さらには、NASA Workmanship Standards Programでは宇宙に使用される製品の品質を低下させる設計及び製造プロセスを制限することも示しているようです。

 

 

たびたび言われることとして「この試験はワークマンシップの確認だから」というのがあるかと思います。

 

これは意訳すると、比較的弱めの負荷を掛けて次のことを多かれ少なかれ確認する試験、というような意味合いを持っています。

  • 試験で締結部分のトルク(固定)忘れ防止
  • 内部ケーブルなどの配線固定忘れ防止
  • 機器のプリント基板のはんだ異常の発見
  • 各種コネクタの接続抜けや異常の発見
  • 本試験前までの期間が空いている場合は作業手順の確認や充実化(※)

※構造モデルや熱モデル、エンジニアリングモデルで対応。フライト用実機は余計な負荷が掛かるため、基本この目的で実施しない。

 

 

この次では、一般にNASAで公開されている情報を拾い上げてみます。

 

NASA標準文書で定義されているワークマンシップ

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NASAではNASA Standards(NASA標準(仮称))と呼ばれる文書で各種の要件を定義しています。下記、NASAのサイトから上げてみましょう。

Links To Required Workmanship Standards

 

  • NPD 8730.5, NASA Quality Assurance Program Policy

NASAの定める品質保証に関係した全体の概念・定義、基本方針が書かれています。技術的な内容の記載はありませんのでここでは無視しておきます。

 

  • NASA-STD-8739.6, Implementation Requirements for NASA Workmanship Standards

温度や相対湿度、組立時のESDの注意や検査方法、洗浄や製品の修理、製品に対する条件だけでなく、作業者の衛生環境まで記載されています。(後述)

 

  • NASA-STD-8739.1, Workmanship Standard for Polymeric Applications on Electronic Assemblies

高分子(接着剤含む)の材料選定や実装するときの注意が記載されています。 

 

  • IPC J-STD-001FS, Space Applications Electronic Hardware Addendum to J-STD-001F Requirements for Soldered Electrical and Electronic Assemblies (except Chapter 10)

IPC規格を適用しているため他文書とは違い購入する必要があります。

電気設計に関わる基板のはんだ付けや基板そのものに対しての規格が記載されています。

 

  • NASA-STD-8739.4, Crimping, Interconnecting Cables, Harnesses, and Wiring

計装設計であるケーブルの注意点が記載されています。

コネクタだけではなく、コネクタを固定するブラケット(固定台)やケーブルシールドの基準もあります。

案外知っているようで知らない計装品の実装方法の具体例が記載されています。

 

  • NASA-STD-8739.5, Fiber Optics Terminations, Cable Assemblies, and Installation

通信ミッションの中にも、光通信を使用することもあり、推奨する光ファイバーの製造規格としてだけでなく、光源としての保護なども記載されています。

 

  • ANSI/ESD S20.20, For the Development of an Electrostatic Discharge Control Program for – Protection of Electrical and Electronic Parts, Assemblies and Equipment (Excluding Electrically Initiated Explosive Devices)

上記のIPC規格と同じく、NASA標準ではなくESDA規格より規定され購入する必要があります。

主に静電放電制御、ESD制御の対処や静電破壊に対する機器保護に対する規格となります。

 

 

さて、NASA標準に限らないのですが、日本産業規格(JIS)などの規格は随時内容が更新されていますので注意が必要です。

 

現在の宇宙機プログラムでは下記2つの文書が新規プロジェクトで除外されていることが示されています。

 

CANCELLED for New Projects (10/17/2011): NASA-STD-8739.2, Surface Mount Technology

CANCELLED for New Projects (10/17/2011): NASA-STD-8739.3, Soldered Electrical Connections

 

これらは、はんだのはんだのリフローの条件や電子部品のはんだの量の具体例などが記載されていました。

単純に除外されているのではなく、IPC J-STD-001ESの文書をベースとするように変更されています。

 

NASAのワークマンシップに関してさらに抜粋

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せっかくなのでNASA-STD-8739.6, Implementation Requirements for NASA Workmanship Standardsから内容を抜粋してみます。

リンクが切れた場合はhttp://standards.nasa.gov/から参照してみるといいでしょう。

 

本文書はNASAで気にしている製品製造の実装時にワークマンシップの対象となる部分を大まかに示しています。

 

 

例えば、温度や相対湿度といった条件は、18℃、あるいは30℃以上として接着剤硬化などがなければ温度監視は不要としています。

 

製造・組立エリアにおいては、材料の腐食や結露を防ぐ程度には制御されるべきともしています。

 

製品だけではなく、作業者の作業の快適さのために湿度70%未満に維持することを推奨としており、ESDの制限を考慮する対象がなければ、相対湿度の監視や記録保持は必要ないとしています。

 

ESDに敏感な対象がある場合は、その範囲において相対湿度30%以上あるいは40%以上にする必要があるともしています。

 

作業者保護のために、各種保護具は雇用者が用意するように記載されています。

 

詳細は別の文書にて記載していることもあります。

例えば、作業エリアでは、汚染物質やガス放出がNASA標準のNASA-STD-6016を適用するように指示されています。

製品のハードウェアは、鉛フリー錫はんだの使用としてNPD 8730.2を適用するようにも記載しています。

 

また、ワークマンシップのエリア(実装・作業・組立等のエリア)では、喫煙と飲食を禁止する旨も書かれています。

 

細かい部分もありますが、宇宙機製造のベースとなる環境について記載があるため、新たに宇宙機の製造を構築する場合には参考になるのではないでしょうか。