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人工衛星の設計・製造・管理をしていた宇宙のシステム・機械設計者が人工衛星の機械システムや宇宙ブログ的なこと、そして、横道に反れたことを覚え書き程度に残していく設計技術者や管理者、営業向けブログ

デブリを人工衛星のレーザーで除去しよう!デブリ除去のレーザー技術を通常のレーザー加工技術と比較した

人工衛星のレーザー技術とレーザー加工

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レーザー兵器と言われて、スターウォーズを思い浮かぶ人もいるかもしれません。

ただ、スターウォーズのシリーズが終わってしまったため、どこの世代まで伝わるか怪しくなってきています。

 

レーザーが使用される例として、物質に当てることではじけ飛んだ材料から質量を分析したり、はじけ飛んだ材料を別の物質に放射させて蒸着させることなどがあげられます。

 

一般には縁遠い技術ですね。

 

それ以外にも、直接的に負傷の原因にもなりかねないレーザー加工があります。

 

そして現在、人工衛星でレーザーを使用したデブリ除去の話が上がっています。

 

今回は、デブリ除去に関わるレーザーの原理と、機械加工に使用されるレーザー加工について述べていきます。

 

人工衛星のレーザー技術はデブリを完全消失させるために使われない 

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今回紹介するレーザーでスペースデブリを除去する技術は、レーザーでデブリを完全に燃焼・分解させるのではありません。

 

レーザーでデブリを燃焼・分解した際に発生するプラズマとともに物質放出を推進力として、軌道を地上へと落していくのです。

 

宇宙空間は無重力であるため、何かしらの力を加えなければ慣性の法則にしたがい運動し続けます。

 

軌道上の人工衛星では、軌道(や姿勢)を変更させるために、推進系としてヒドロジンやイオンを放出していました。

 

2010年には太陽から放出されている光子という物質を膜に当てることで推進力を得るソーラーセイル技術を使用したJAXA人工衛星イカロス(IKAROS) 」も存在しています。

 

レーザー加工について

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レーザーは、通常の光と違い、直進性を持っています。光通信や量子通信も、通常の光ではなくレーザー光として放出されます。

これにより、一定の波長や位相でデータ送信を行うことができるのです。

 

また、波長が一定であることから、光を集光させることにより高いエネルギーを集めることができます。

 

 

レーザーは、レンズや鏡で光で集光することである範囲(スポット半径)に収束していきます。

収束したレーザーは、スポット半径(集光径)を中心にしたレイリー範囲(焦点深度)を過ぎたところで広がっていきます。

 

 

焦点距離が短ければ、レーザー光のエネルギーも高くなり、スポット半径が小さくなります。

焦点距離が長ければ、レーザー光のエネルギーは低くなるのですが、スポット半径が大きくなり、焦点が合わせやすくなるという利点があります。

 

高いエネルギーを対象物に当てることで、表面に化学反応を起こして融解あるいは蒸発させることで対象を切断していきます。

 

また、レーザーを当てることでプラズマを発生させ、化学反応により物体を分解させて放出される現象をアブレーションと呼んでいます。

先に、チラッと述べた質量分析は、アブレーションにより放出された原子や分子を検知することで分析します。

 

このアブレーションがスペースデブリ除去のための軌道を押し出す推進力となります。

 

レーザー加工においては、アブレーションにより放出された物質によりレーザーが阻害され、エネルギーが弱くなることもあります。

レーダーの阻害を防ぐためにアシストガスを吹き掛けることで、放出された物質を拡散させて、切断能力が落ちることを防いでいます。

 

最近のレーザー照射、スペースデブリ事情

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レーザー照射により、スペースデブリの除去を2026年に開始を目指しているのは、理化学研究所名古屋大学と協力しているスカパーがあげられます。

レーザー照射時の反力を活用、スカパーがスペースデブリ除去方法を考案

 

理化学研究所名古屋大学九州大学は、2014年頃から研究が公表されていますね。

高強度レーザーによるスペースデブリ除去技術

 

その前には、2010年に東海大学にも研究の跡が見えますが最近は進められていないようですね。

大出力レーザーによるスペースデブリ除去

 

2014年の理化学研究所の資料によれば、平均出力500kWのレーザーが必要としています。

同年に打上げられた光学通信衛星に搭載されている光通信装置SOTA(Small Optical Transponder)の出力は30~40W?(消費電力かもしれません)程度なのですが、同じ光波長のエネルギーの数万倍の出力をどう捻出するのか、放熱設計とか気になりますね。

出力は抑えて、集光技術により工夫している可能性もありますけどね。

 

実験・実証に近いことはスカパーでは、今まで取り組んでいなかったため、実現性の高い計画なのかもしれません。

 

レーザーによるデブリの軌道変更は、世界初らしいので、いったいどうなることなのでしょうか。

 

ちなみにロシアではアブレーションによる軌道変更ではなく、レーザーによる消失を狙ったシステムを構築しているようです。

ロシアはレーザーキャノンで宇宙ゴミを処分しようとしている - GIGAZINE

危険な宇宙ゴミをレーザーで迎え撃て!SFのようなISSの防衛システム構想 – Discovery Channel Japan | ディスカバリーチャンネル

ロシア開発のデブリ撃墜レーザーキャノンにアメリカが懸念を表明 | Optinews

 

参考資料

レーザビームの集光特性を教えて下さい

https://laser-navi.com/media/technical_qa/a13

STEP5:基本的な収差

https://www.cybernet.co.jp/optical/course/hitorigoto/lecture05.html

レーザ加工における品質

http://www.laser-ac.com/basic/02_04.php

 

やさしいレーザー講座 第4回~レーザー加工の原理~

 

レーザー加工の現状と展開

http://seisan.server-shared.com/674/674-18.pdf

ソーラーセイル技術を実証する「ライトセイル」計画

https://www.tel.co.jp/museum/magazine/japanese_spacedev/151030_interview03/

レーザアプレーションプロセスとその応用

https://www.ushio.co.jp/jp/technology/lightedge/200012/100228.html

レーザーとは?

https://www.keyence.co.jp/ss/products/marker/lasermarker/basics/principle.jsp

【レーザー加工】原理や種類、メリット・デメリットを専門家が紹介!!

https://mitsu-ri.net/articles/laser-processing

接合・溶接技術Q&A1000 ガス切断,プラズマ切断と比較したレーザ切断の特徴,および種々の材料をレーザ切断するときに使用するアシストガスについて教えて下さい

http://www-it.jwes.or.jp/qa/details.jsp?pg_no=0070120020

レーザーによる宇宙デブリ脱軌道

https://jaxa.repo.nii.ac.jp/?action=pages_view_main&active_action=repository_view_main_item_detail&item_id=3333&item_no=1&page_id=13&block_id=21

スペースデブリの除去推進系の研究

http://www.kenkai.jaxa.jp/research/debris/deb-removal.html

光通信を搭載した小型衛星・キューブサットの動向

https://www8.cao.go.jp/space/comittee/27-kiban/kiban-dai46/pdf/siryou2-1-4.pdf