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人工衛星の設計・製造・管理をしていた宇宙のシステム・機械設計者が人工衛星の機械システムや宇宙ブログ的なこと、そして、横道に反れたことを覚え書き程度に残していく設計技術者や管理者、営業向けブログ

原子力電池の歴史【宇宙機と電池】

原子力電池の歴史

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電子力電池そのものは1954年にアメリカのマウンド研究所でJohn BirdenとKen Jordanによって発明されました。

 

ちなみにマウンド研究所は、アメリカとロシアの冷戦中にほぼすべての核兵器関連のコンポーネントが設計、構築、評価されていました。同様に非軍事核アプリケーションも開発していました。

 

最初に原子力電池が搭載された人工衛星は、アメリカの製造したトランシット4A(Transit 4A)及びトランシット4Bと呼ばれる人工衛星で、1961年に打上げられています。航海、航行のナビゲーションシステムの確立のために打上げられた衛星です。

ただ、原子力電池のプロト飛行であったためか、太陽電池とニッケルカドニウム蓄電池も同時に接続されていました。

 

この電池はSystems Nuclear Auxiliary POWER(SNAP)-3計画のもとにアメリカのエネルギー省で製造されていました。2.7Wという電力出力ではありますが、地上において15年もの間機能し続けていたといわれています。

 

もちろん、放射性物質を搭載していることから、地球への再突入に対しての安全性を示すために頑丈に作られたようです。

 

人工衛星以外にもSNAP-7の計画で、1960年代半ばに灯台やナビゲーションブイの光などの海洋用途向けに電池が製造されました。

 

この計画ではストロンチウム90をもとにした化合物SrTiO3が使用され、電池ユニットとしては850~2720kgという重量物であったそうです。

 

灯台についてはまだ、どこかで使用されているかもしれませんね。

灯台という宇宙に比べて身近な場所に使われていた理由として、長期的に使用できること、そして、チェルノブイリといった原発事故(1986年)が発生していなかった歴史的な背景もあるのかもしれませんね。

 

同じ時期に進められていたSNAP-9は、SNAP-3と同じく人工衛星のトランシットシリーズに搭載されていました。

 

そもそもトランシット4A/Bの電子力電池に搭載されていた放射性物質ポロニウム210で半減期が138.4日ともいわれています。一部の情報では搭載していた放射性物質プルトニウム238とも言われています。

 

そして、後続機であるトランシット5-BN-1(1963年9月28日打上)がプルトニウム238を最初に搭載した原子力電池による人工衛星と言われています。

 

問題は、1964年4月に打上げられたSNAP-9Aが搭載された人工衛星トランシット5-BN-3が、軌道到達できずに落下してしまったのです。

 

それなりの高度で焼失してしまったため、地上への落下は1966年頃に南半球のメルボルン、北半球のニューヨークにて確認され、東京でも1967年ごろからプルトニウム238の量が増加しているという結果になっています。

 

一部の報告では、1970年での世界的な土壌サンプリングにより、すべての大陸及び緯度においてSNAP-9Aの破片が存在する言われています。

一部のサイトによれば、北緯側で25%、75%が南半球に放出されたといいます。

 

この後も原子力電池は使用され続けられましたが、SNAP-9の事故がきっかけで太陽光発電技術をより進めることとなったそうです。

 

原子炉も飛んでいる事実

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原子力電池だけではなく、原子炉も搭載して打上げてられてもいます。

 

原子炉であるSNAP-10Aを搭載した人工衛星のSNAPSHOTは、1965年4月に打上げられ、軌道上にて43日で停止しています。落下までには4000年程かかるため、地球上へ落下する前に放射線が減衰していくことでしょう。

燃料としてはウラン235を使用していたとか。

 

この原子力電池アメリカだけでなく、ロシア(旧ソビエト)でも使用されています。

 

1965年9月にポロニウム210を使用した原子力電池を搭載しているコスモス84がロシアで最初に打上げられています。その後、コスモス90が打上げられています。

 

それ以後、ロシアの人工衛星では原子力電池の搭載はなく、原子炉が搭載されています。

 

原子炉を搭載した人工衛星をロシアが最初に打上げたのはコスモス198で、1967年12月に打上げられました。続いて1968年3月に打上げられたコスモス209にも搭載されています。

 

その後、複数のコスモスシリーズやアポロ12号から17号でも使用されています。

 

過去の記事に紹介していた無人探査機としてパイオニア計画、バイキング計画、ボイジャーガリレオで使用されています。

現在でも土星を周回している人工衛星カッシーニ冥王星へ航行している人工衛星ニューホライゾンにも使用されています。

 

宇宙の原子力ミッションの事故

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原子力を搭載した電力システムとしての故障は発生していなかったのですが、人工衛星の地球の再投入による放射性物質の落下は何件か発生していました。

 

1977年9月に打上げられたロシアの人工衛星コスモス954は、1978年1月に地球に再突入してカナダ西部に放射性物質(放射性デブリ)が拡散されました。

 

宇宙の 原子力ミッションで最も知られ、最も深刻な事故の一つとなりました。

 

さらに、1975年8月に打上げられていたコスモス1402ですが、1983年1月に分解し、搭載されていたウラン238が、原子炉の筐体がインド大西洋上で燃焼し、原子炉のコアが南大西洋上で燃焼したといわれています。

 

 

それ以後、しばらく事故はなかったのですが、1996年11月に打上げられたロシアのマルス96が打上げに失敗し、太平洋上へ落下しています。

 

資料によっては燃焼したとも、燃え残ったとも言われています。

 

現在、軌道上から再投入する人工物において、燃焼の計算を求められるのはデブリの落下による人的負傷もあるかもしれませんが、放射線汚染を防ぐ意味合いの方が強い気がします。

 

ただ、日本では安全性はもちろんですが、社会的にも原子力電池を搭載することには衝撃があるように思えます。

 

参考資料

 

Radioisotope thermoelectric generator - Wikipedia

 

50 Years of Nuclear-Powered Spacecraft: It All Started with Satellite Transit 4A

https://www.space.com/12118-space-nuclear-power-50-years-transit-4a.html?utm_source=feedburner&utm_medium=feed&utm_campaign=Feed%3A+spaceheadlines+%28SPACE.com+Headline+Feed%29&utm_content=My+Yahoo

 

Systems for Nuclear Auxiliary Power - Wikipedia

 

Nukes In Space in Wake of Columbia Tragedy

https://www.21stcenturyradio.com/articles/03/0224176.html

 

第11回放射能調査研究成果発表会 昭和44年11月20~21日

http://www.kankyo-hoshano.go.jp/08/ers_lib/ers_abs11.pdf

 

気象研究報告第26巻第1号 Plutonium Fallout in Tokyo

https://www.jstage.jst.go.jp/article/mripapers1950/26/1/26_1/_pdf

 

Nuclear Powered Space Missions - Past and Future by Regina Hagen

http://www.space4peace.org/ianus/npsmindex.htm

http://www.space4peace.org/ianus/npsm3.htm

 

Transit 4A, 4B

https://space.skyrocket.de/doc_sdat/transit-4.htm

 

マルス96 - Wikipedia