黒潮は世界二大海流である
世界最大級の海流として、北大西洋の湾流(メキシコ湾流)とともに、日本近海の黒潮があります。
黒潮は日本列島の南にあるフィリピンから北へ流れる暖流です。
黒潮とぶつかるように、日本列島の北側、ロシアのカムチャッカ半島方向から南へ寒流の親潮が流れています。
この黒潮は今、大蛇行と呼ばれている現象が起きています。
黒潮の流路には2つのパターンがあります。
1つが日本列島に沿って流れる非大蛇行流路です。
もう1つが紀伊半島・遠州灘沖で南側にこぶのように蛇行しれ流れる大蛇行流路です。
現在の研究では、どちらも異常な状態ではなく、ともに安定して存在する状態(多重平衡状態)なのです。
大蛇行と非大蛇行はどちらかが異常な状態なのではなく、ともに安定して存在する状態(多重平衡状態)なのである。
二つの安定な状態は、何らかの擾乱が加わることによってお互いに入れかわる。
黒潮の場合、周辺にあまねく存在する渦が擾乱として働く。渦は黒潮を含めた様々な海流の不安定によって生じる。
もし黒潮流路が常に多重平衡状態であれば、大蛇行・非大蛇行は、偶然生じる擾乱によってお互い反対の状態に移りかわるだけのことであり、その長期的な予測は難しい、ということになる。
現在では、擾乱(渦)がひきおこす黒潮流路変動の予測可能性期間は、2カ月程度であることがわかっている。
(中略)
2004年に生じた黒潮大蛇行の発生と消滅は、衛星観測と現実的な数理モデルによって詳しく調べられた最初の大蛇行である。研究の結果、この大蛇行は、台湾東方から伝播して黒潮に合流し下流に流下する暖水渦と、北緯30度付近を西進する冷水渦が九州南東方でともに黒潮と相互作用し、大蛇行の種となる小蛇行(引き金蛇行)を引き起こすことによって生じたことがわかった
解き明かされつつある黒潮大蛇行の謎と黒潮のこれから | 海洋政策研究所-OceanNewsletter | 笹川平和財団 - THE SASAKAWA PEACE FOUNDATION
この黒潮の大蛇行が最初に観測されたのは、1933年で当時は黒潮異変と呼ばれていました。
その後、黒潮大蛇行と名前を変えて、1953年、1957年、1975年、1981年、1989年、2004年と観測されてきました。
昔は「黒潮異変」と呼ばれていた「黒潮大蛇行」が始まって3ヶ月、今冬は雪に警戒(饒村曜) - 個人 - Yahoo!ニュース
気象にも影響を及ぼしている可能性があり、引き続きメカニズムの研究が行われています。
生活に関係するところでは、シラスやカツオ、桜えびなどの漁獲量も減少しているというところでしょうか。
また、黒潮大蛇行の判断ですが、海流により判断されていると思いきや、古くは衛星観測技術もなかったため、紀伊半島沖の和歌山県の串本と浦神の潮位差が黒潮蛇行の目安となっているようです。
黒潮の流路によって、串本と浦神の潮位差が変化する理由は、黒潮の幅数百kmの間で、北から南に向かって海面が高くなっているためです。
黒潮が潮岬に接して流れると、潮岬の先端の串本では、黒潮の影響を受け潮位が高くなり、黒潮の影響を受けにくい浦神との潮位差が大きくなります。
ちなみに和歌山県の串本は、日本のロケット打上げサービスを開始するスペースワン社が2020年年始現在、建設中です。
これらの事象は2015年より黒潮親潮ウェッチというサイトが立ち上がっており、随時状況を教えてくれますので参考までに確認いただければ。
人工衛星からの海流観測
日本の人工衛星で現在運用されているもので、黒潮の分析に主に使用されているのはGCOM-Wと気象衛星ひまわりです。
一つは、ひまわり8号などに搭載されている「赤外放射計」、もう一つはGCOM-Wなどに搭載されている「マイクロ波放射計」です。赤外放射計は、空間解像度が数kmの高空間解像度観測が可能ですが、雲の下は観測することができません。一方、マイクロ波放射計は、雲を透過する電磁波を検出するので雲の下の海面水温も観測することができます。ただし、得られる海面水温の空間解像度は50kmほどです
シリーズ「衛星データと数値モデルの融合」(第2回)衛星海面水温を用いた「海中天気予報」システムの運用を開始しました | 地球が見える | JAXA 第一宇宙技術部門 地球観測研究センター(EORC)
ひまわりに搭載されているのは、可視赤外放射計(AHI:Advanced Himawari Imager)と呼ばれる観測機器です。
宇宙/軌道上から海流が観測できるか疑問に感じる方もいるかもしれませんが、波長6μm~12μmの領域で海温を観測しています。波長域から熱赤外線といわれる領域になります。
熱赤外領域というと、気温の観測に使用されていますが、海水の温度観測でも使用されているのです。
遠赤外領域は、水循環変動観測衛星GCOM-Wと気候変動観測衛星GCOM-Cの観測器でも持っていますが、2機とも太陽同期準回帰軌道であるため常時データを取得できていません。
ひまわりのデータとは別に、GCOM-Wには、高性能マイクロ波放射計AMSR(AdvancedMicro-wave Scanning Radiometer)が搭載されています。
この観測機器は、マイクロ波と呼ばれる7GHzから89GHzまでの波長を観測できます。
このうち、海上風速が10.65GHz、18.7GHz、36.5GHzで観測され、海面水温が6.925GHzで観測することができます。
熱赤外線とマイクロ波の違いは、大気の影響を受けないことが大きいです。
赤外線の場合は、大気の雲や水蒸気の影響を受けてしまい、台風時の海面水温は雲が邪魔をして、すべてをカバーできていません。
そこでマイクロ波の観測器でデータを取得しているのです。
ただし、人工衛星の場合、空間解像度にまだまだ伸びしろがあるため海洋観測船も含めてデータを補完しています。
ちなみに、日本ではMOS-1(もも1号)と呼ばれる海洋観測衛星が1987年に打ち上がっています。
また、GCOM-Cに搭載されたマイクロ波放射計の前機種であるJAXAが開発したAMSR-Eがアメリカの地球観測衛星Aqua(アクア)に搭載されていました。
参考資料
解き明かされつつある黒潮大蛇行の謎と黒潮のこれから | 海洋政策研究所-OceanNewsletter | 笹川平和財団 - THE SASAKAWA PEACE FOUNDATION
まだまだ続く黒潮大蛇行「過去3番目の長さに」(動画) | ハザードラボ
シリーズ「衛星データと数値モデルの融合」(第2回)衛星海面水温を用いた「海中天気予報」システムの運用を開始しました | 地球が見える | JAXA 第一宇宙技術部門 地球観測研究センター(EORC)
台風と黒潮 未知なる関係(片山由紀子) - 個人 - Yahoo!ニュース
【クローズアップ科学】黒潮が12年ぶりに大蛇行 高潮の被害誘発、シラス漁に打撃(1/3ページ) - 産経ニュース
「黒潮大蛇行 くらしへの影響は」(くらし☆解説) | くらし☆解説 | 解説アーカイブス | NHK 解説委員室
昨年から続く黒潮大蛇行、今後の生活や気象への影響は? - ウェザーニュース
高性能マイクロ波放射計AMSRについて一ADEOS-2研究募集に関連して一
GCOM-W観測データによる大気・海洋変動のモニタリング、メカニズム解明と社会貢献
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