電離層観測衛星ICONを知っているでしょうか
2019年10月10日に、アメリカの電離層探査衛星がアメリカのケープカナベルでPegasus XL(Northrop Grumman Innovation Systems社)により打上げられました。
衛星バスとしては、LEOStar -2衛星バス(Orbital ATK→Northrop Grumman Innovation Systems社製)をベースに作られているようです。
サイズとしてはNASAの資料によると、4.2mで24,000kgです。明らかに、LEOStar -2衛星バスより大きいため、記事の誤解か、ベースにしてサイズアップしたと考えた方がいいかもしれません。
運用機関としては2年、最大10年を見込んでいるようです。
衛星の名称は「ICOM(Ionospheric Connection Explorer)」で、4つの観測機器と搭載しています。
- 中性の大気分子の速度や温度を計測する高分解能マイケルソン干渉計MIGHTI:Michelson Interferometer for Global High-resolution Thermospheric Imaging instrument
- イオン速度計(IVM):Ion Velocity Meter
- 上層大気の酸素発光を観測する極端紫外線観測装置(EUV):Extreme Ultra-Violet instrument)
- 上層大気の遠紫外線観測装置(FUV):Far Ultra-Violet instrument)
電離層あるいは電離圏は、地球の表面から80~1000kmにあります。
この電離層は宇宙天気と地上の天気が重なり合っている境界のようで、この境界の中でどのような相互作用があるのかデータを取得していくようです。
電離層の状態によって、電波障害を起こすこともあり、GPSや無線通信が関わる製品にも影響を与える可能性があるのです。
また、太陽風の影響を最初に感知することもできるため、その影響範囲をより詳細に確認できることになります。
もちろん、宇宙飛行士の船外活動時の放射線の照射量にも関わるため、今後の宇宙ミッションの役にも立っていきます。
ちなみにこの人工衛星はエクスプローラー計画の一つとされています。
太陽物理学や宇宙物理学などの科学的な観測を目的としており、アメリカ初の人工衛星であるエクスプローラ1号機から続けられている96個目のエクスプローラー計画のプロジェクトなのです。
NASAの中にあるGOLD( Global-scale Observations of the Limb and Disk)と呼ばれるプロジェクトと連携しており、さらに多くの研究データを得ることが期待されています。
いくつかの初期運用や準備を行い、2019年11月の時点で、いくつかの情報がテレメトリとして得られています。
初期運用を終えており、機器としては問題ないことを確認しています。
“The first thing we see is a bit boring, but I’m excited nevertheless,”とICONの主任研究者の方が述べている通り、見た目こそ地味かもしれませんが、重要なデータを取得できることは間違いなさそうです。
Scientists Present New Ionosphere Images and Science at AGU 2019 | NASA
参考資料
https://icon.ssl.berkeley.edu/
https://www.northropgrumman.com/Capabilities/SpacecraftBuses/Pages/default.aspx
日本における電離層観測衛星
日本においても電離層観測衛星を打上げられていました。
1976年、1978年にそれぞれ「うめ(ISS)」という名称で打ち上げられました。「うめ」は打ち上げ1か月後に、電源系に不具合が生じたため予備衛星を打上げたため、2号機が打上げられたそうです。ちなみに衛星開発受注した会社は、三菱電機です。当時は気象衛星を日本電気、放送衛星を東芝、通信衛星を三菱電機が開発しており、後述のとおり短波通信に関わるため三菱電機が開発したようです。
ISSという略称であるため国際宇宙ステーションと間違えられること間違いありませんね。
「うめ」は、電離層観測衛星といって一見科学衛星のような名称ではありますが、宇宙開発事業団(NASDA)で開発され、実用衛星のカテゴリーに区分されています。
さらに、衛星管制は鹿島支所にて整備されることとなりました。
サイズ感としては、82cmで、140kgです。
今でいう小型衛星レベルで、搭載機器は次の通りです。
- 電離層観測装置(TOP:Topside Sounding)
- 電波雑音観測装置(RAN:Radio Atmospheric Noise)
- プラズマ特性測定器(RPT:Retarding Potential Trap)
- 正イオン組成測定器(PIC:Positive Ion Composition)
観測装置まで調べていると時間がかかるので調べてませんが、最新の電離観測衛星と比べると基礎的なデータを取得していたのではないかと類推します。
メインとしていた電離層観測装置は、短波通信の適切な通信状況を確保する目的があったようです。
この時代は遠距離通信に短波通信を使用していました。
短波通信は、世界各国への主要な輸出入手段である船舶で使われていたことから、重要な遠距離通信手段だったんですね。
「うめ」の成果としては次の通りです。
- 電離層臨界周波数の世界分布図を作成し、短波の伝搬状況を予測できるようになった。
- イオノグラム(周波数対エコー見掛け距離の関係を示すデータ)から散乱エコーを検出することにより,散乱発生ひん度の世界分布図を得た。
- 電波雑音観測(RAN)により,雷放電に伴う空電を検出し,空電発生ひん度の世界分布図を得ている。
- イオン組成観測(PIC)及びプラズマ観測(RPT)では,衛星近傍に存在するイオン(水素イオン,ヘリウムイオン,酸素イオン等)の組成及び電離気体(プラズマ)の密度,温度も測定され,これらの諸量の世界分布図を作成した。
通信白書によると、「うめ」の初期運用期間中のデータでも、カナダの衛星Alouette, ISIS(国際電離層研究衛星)の観測でも得られなかった赤道をはさむ南北非対称などの現象が発見されています。
日本初の科学衛星である電離層観測衛星「しんせい」が打上げられています。
サイズ感としては、76cmで、66kgです。
科学衛星による電離層観測は、「しんせい」により開始されており観測機器は次のようなものが搭載されました。
・短波帯太陽電波観測器(RN)
・宇宙線観測器(CR)
・電離層プラズマ観測器(ID)
日本では電離層の観測は、イオノゾルデ・イオノグラムと呼ばれる装置でパルス電波を上空へ送信し、反射された電波を受信し電離層を観測しているようです。地上での定点観測以外にも、観測用ロケットを使用しても電離層の観測を行っています。
ICONの海外の記事では全く出てきておりませんが、地震(マグニチュード7以上)や津波によって発生する大気の波動が電離層にも干渉して波紋を発生させる可能性があるそうです。
大気の波紋であるため音速で伝達することから、地震や津波の監視や事前警報に利用ができる可能性を示しているそうです。
参考資料
電離層観測衛星の地上システム、テレメトリを学びたい方はこちら
http://www.nict.go.jp/publication/kiho/24/127/Kiho_Vol24_No127_pp121-146.pdf
小型衛星を用いた電離層観測における衛星電位変動問題と解決手法の提案
https://core.ac.uk/download/pdf/96950382.pdf
https://www.sjac.or.jp/common/pdf/kaihou/201401/20140112.pdf