往時宇宙飛翔物体 システム機械設計屋の彼是

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人工衛星の設計・製造・管理をしていた宇宙のシステム・機械設計者が人工衛星の機械システムや宇宙ブログ的なこと、そして、横道に反れたことを覚え書き程度に残していく設計技術者や管理者、営業向けブログ

【宇宙機と電波】電波も試験する人工衛星

電波を知るのはなぜか

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電波を見てみたい人がいたらしい。

 

見てみたければ、携帯電話というかスマートフォンのアンテナマークを見てみると、どれだけの電波が自分に当たっているか分かります。

 

 

電波のマークを数値化し、電波を放射する物体(アンテナ)を中心としてどれだけ照射しているのか測定する部屋を電波暗室と呼んでいます。

 

アンテナがどれだけ電波を放出しているのか測定する装置もアンテナです。

 

測定方法も独特で、測定するアンテナに向かって測定したいアンテナから電波を照射するのですが、どちらかのアンテナを固定して360度回転だけではなく、高さも変えて測定していきます。

 

電波の世界ではアンテナパターンと呼んでいます。

英語でいうとRadiation patternでしたり、Antenna patternといったりします。

Radiationというと、照射を示しているので、まあアンテナパターンといえます。

 

携帯電話というかスマートフォンに限らず、人工衛星も電波を出します。

 

人工衛星のアンテナパターンを取得する理由は、電波が反射するから測定するのです。

 

電波は大気で反射するだけではなく、人工衛星の筐体そのものにも影響を及ぼされます。

光が鏡や金属で多く反射するのと同じく、電波も鏡や金属で反射します。

人工衛星は金属の塊なのです。

 

電波は大気で反射するため、地上のアンテナで電波を受信する頃には、かなり弱くなっています。その筋の人たちは、減衰と呼んでいます。

減衰が発生するために、指向性といって、電波が強く照射される方向をアンテナのお皿で作り、電波を収束集中させるのです。

一方、電波を集中させると、電波が弱くなるところが発生します。

わざわざ集中させなくても、アンテナの形状で電波が弱くなることがあります。

 

アンテナの電波が弱くなると、地上局で電波を取得できなくなります。

地上局で電波が取得できないと、運用ができなくなり、人工衛星の状態が分からなくなったり、人工衛星からのデータが取得できなかったりします。

人工衛星のデータ、画像データとか送信できなくなるのです。

 

地球を周回する人工衛星は常に動き続けて、地上局とのアンテナで追尾し続けるのですが、人工衛星の角度が悪くなると、電波を取得できなくなることが発生します。

 

電波を取得し続けたいために、アンテナパターンを測定し、人工衛星の姿勢を制御して、電波を取得し続けるため、人工衛星の運用において、姿勢制御をする基準を決めるために測定するのです。

 

例えば、地上で電波を受信できなくなったとき、人工衛星の姿勢が悪いのか、もっと危険な状態にあるのか判断することもできます。

人工衛星の自動制御機能が充実していれば、地上局のアンテナに向けた時に、電波が弱くなりにくい姿勢を取るなんていうこともできているかと思います。

 

参考

電波吸収体 - Wikipedia

電波試験設備(第1無反射室) | 施設設備供用 | JAXAの資産 | JAXA新事業促進部

電波試験設備(第2無反射室) | 施設設備供用 | JAXAの資産 | JAXA新事業促進部

www.nasa.gov

 

 

電波暗室とトゲトゲ

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Credits: NASA

電波暗室で電波を測定するのですが、電波暗室にはだいたいトゲトゲがあります。

トゲトゲは電波吸収体とかラム(RAM) とか言われたりします。

 

電波は金属で反射するのですが、ただの壁でも反射します。

ただの壁とは?なかなか難しいですが、反射してしまうと正確にアンテナのデータを取得することができません。

さらにほかのところから電波なり電磁場が発生するものがあると、データが取れないのです。

 

電波吸収体をつけることで、余計な電波が反射してしまわないようにしています。

 

電波吸収体は、そのまま電波を吸収するのですが、電波のエネルギーを熱に変換しています。

振動する方向に変換してしまうと、そこから音波が発生し、また別の影響を発生させてしまいます。

電波吸収体に電波が吸収するために、電波吸収体もボロボロになってしまします。

 

また、先に述べたように、電波は金属で反射します。

すなわち、人工衛星を置く装置も金属でなくするか、コーティングするなりしなければなりません。

多くは木材を使っています。

 

木材で作って問題があるのかというと、木材で作るために、コンタミネーションの問題が発生するのです。

コーティングしていようが、コーティングする素材のコンタミネーションが発生します。

 

電波吸収体も、ボロボロになるために施設が古ければコンタミネーションの問題が発生してしまいます。

 

参考

www.aetjapan.com

www.tee.tokin.jp

 

どこまで模擬するのか問題

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コンタミネーションの問題があるため、アンテナパターン測定では、宇宙に打ち上げないエンジニアリングモデル(EM)であったり、ストラクチャーモデル(SM)であったり、縮小モデルを作り、アンテナを取り付けます。

 

もちろんアンテナを取り付けただけでは、電波は出ないので、通信機も合わせて搭載します。

搭載せずとも、通信ケーブルなどで電波を照射するようにします。

ケーブルからの跳ね返りも考慮して、人工衛星の外部に出るケーブルはシールドで保護したりします。

 

電波試験は意外と気にするところが多いんですね。

 

アンテナパターン測定は、運用にも姿勢制御にも関係するため、かなり早い時期に実施する試験です。

このアンテナパターン試験が遅延すると、その分、人工衛星に搭載するプログラムの作成にも、少なからず影響を及ぼしたりします。

 

人工衛星の開発を考えるならば、詳細な設計でなくとも、ある程度の形にまで人工衛星の設計を進めておかなければいけません。

構造系はなかなか痛い所でしょうね。

 

今日は、そんな感じで。

 

参考

repository.exst.jaxa.jp