フッ素樹脂ケーブルは少し硬くて、高い
宇宙用ケーブルはいくつかあり、フッ素樹脂によるケーブルはその一つです。
耐溶剤性、耐薬品性の高いテフロンがフッ素樹脂の一つですね。テトラフルオロが含まれる化合物なんですね。
フッ素樹脂ケーブルは、フッ素化合物の特性もあり、硬いのです。さらいアウトガスの発生しにくく、コンタミネーションの特性としても有利です。
ただ、硬さはケーブルにおいては、配線が難しくなるために不利になります。
ケーブル/電線が硬いと、ケーブルの跳ね返りが発生してしまいます。
テンションが強いということは、電子部品の周辺を通る場合は、部品に荷重がかかってしまい、電子部品の接触が悪くなることも考えられます。
筐体に接触している場合、平面ならいいけど、角に近い場合、こすれてコンタミが発生してしまったり、ケーブルが擦り切れて短絡してしまう可能性があります。
ケーブルは予想以上に擦れ切れやすいのです。少し強度があるからといって油断してはいけません。
宇宙用で使われるケーブルはたいてい白いのですが、それは素材の色もあるのですが、熱的にも有利です。
白い場合ですと、熱を放出しやすく、光を吸収しにくい熱的な特性を持っていることが多いのです。
電気関係の設計をしているとケーブルの発熱について設計したことがあると思います。宇宙機においても、ケーブルの発熱の設計は避けて通れません。
熱を溜め易いとケーブル自体が溶解してしまったり、ケーブル内の電気抵抗が高くなり、電気的に変化してしまいます。
よくケーブルを束ねると発熱するということを聞いたことがないでしょうか。
ケーブル表面からも放熱しているため、ケーブルを束ねると放熱面積が小さく、熱が溜まりやすくなります。
例え熱設計を十全にしていたとしても、ケーブルの発熱までの解析は時間がもったいないのです。
それはともかく、フッ素樹脂はとても強く宇宙環境でも劣化しにくいため、宇宙で使われるんですね。
フッ素樹脂以外でもポリイミド樹脂ケーブルも使用されたりしています。
参考
JAXA-QTS-2120B 宇宙開発用信頼性保証 電線・ケーブル共通仕様書( 2014年3月13日廃止)
ケーブルの固定方法
フッ素樹脂で作られているといっても、電線は変わらない。電線の歪みが内部を通る電気信号に影響を与えたり、ノイズの発生源になるのは地上の製品でも変わらないかと思います。
電気信号がこちらの目的の通りに出力させるか、ケーブルの配線でも変わります。
コネクタ先でも、電線の歪みや挿入不足により電気信号が途切れる場合が発生することもあります。
人工衛星を這うケーブルは、人間でいう神経であり血管なのです。
無理な運動により、筋繊維が切れると同じく、人工衛星のケーブルも切れます。ただ、人工衛星には再生機能がないだけです。
血管も運動すると、血流量が増し、心拍数が上がります。必要な個所に血管を通って栄養が流れていきます。普段の食生活により、血管に脂肪分ができ、固まったり、動きが鈍くなるように、人工衛星のケーブルも大量の電気信号により発熱し、電気抵抗が高くなり、電気信号を鈍らせます。
血流量が上がっているときに、血管を抑えると、より狭い空間に血液が流れるため、より心拍数が上がります。人工衛星も、無理に曲げたケーブルだとその分電気信号の動きも変わり、抵抗が増大したり、十分な信号を出力できなくなります。
ケーブルの発熱が少なく、無理なカーブを作らないことが、より無駄な電力を使ったり、ノイズが発生しない電気信号を作り出す要となります。
そのため、ケーブルの結線の間隔には気を付けなければいけません。
振動による振幅が大きくなることで、ケーブルを傷つけないことはもちろん、無駄な歪みが発生したり、テンションを抑えたりする効果が発揮できるように配線しなければなりません。ときおり、ハーネスルーティングとも呼ばれます。
複数のケーブルを一つにまとめる場合にも、フッ素加工の繊維紐を使用してしっかり固定し、紐も接着剤で結び目を固定するなどして、整えたケーブルがバラバラにならないようにします。
紐で縛らず、プラスチック製のケーブルストラップと呼ばれたり、結束バンドで固定する場合もあります。
この時に、ケーブルを強く締め付けると、被覆にダメージを与えるだけでなく、電線に歪みが生じてしまうこともあります。
配線は思いのほか時間がかかるため、十分なスケジュールを取りましょう。
人工衛星の神経をつくる現代の名工: NECの宇宙開発利用への取り組み「宙への挑戦」 | NEC
ケーブルが気になるのはノイズ
ケーブルで発生するノイズを低減するにはどうすればいいか。これは地上でもよくよく発生する事象です。
ケーブルの配線を考慮し、電磁場が強い電力線と信号線が重ならないようにするのも一つです。結線で一つにまとめないでおくのが効果的です。
電力線をツイン配線にすることも多いです。
この辺りは、初期のうちに検討しておかないと後々大変にあります。
後々というのは電気試験ですね。
ケーブルというのは、基本先に製造されます。基板の設計途中だとしても、時間がかかる作業であり、必ず必要になる作業であるため先に製造しておくことが多いかと思います。
ケーブルだけではなく、コネクタも同時に製造するため、ピンアサインと呼ばれるコネクタのピンにどのような信号を通すのか決められた設計図が必要です。
このピンアサインに従って、コネクタの導通チェックをしたりしますが、とても時間がかかります。製造を外注に出しているメーカーも多いのではないでしょうか。
時間をかけて製造したケーブルが原因でノイズが発生したらどうでしょうか。
ほとんどすべて作り直しになります。気が遠くなりますね。
単体試験以外にもサブシステム試験やシステム試験と人工衛星は各試験があります。プロジェクトによっては、地上局とのインタフェースの適合性の確認をする試験も行います。
すべてノイズの発生に機敏になる必要があり、ノイズが発生し、ミッションや通信機に影響を与えないように考えなければなりません。
ミッション機器の場合は、シールドコネクタを付けて、コネクタの隙間から入り込むノイズを防いだり、ケーブルそのものに金属を編み込んで、シールドケーブルを使用することも考慮に入れておかなければなりません。
こもちろんすべてのコネクタをシールド化すればいいのですが、コネクタサイズが大きく、コネクタ近くの配線が難しくなります。
空間的な幅も取らないと、そもそもコネクタが挿入できなくなります。
制限された質量を調整しているのに、シールド化した分、衛星全体に数10%を超える質量が増していきます。
金属の硬さにより、配線全体もかなり難しくなります。
そして重いです。
ノイズ対策は筐体の構造や、基板内の電子配置、ノイズフィルタにより大部分、防ぐことができます。
他にケーブルでできることは、フェライトコア、コモンチョークコイルなどになります。これは車載用の技術になります。
宇宙技術と同じく、車両においてもノイズの低減は重要な要素です。ノイズによる反応が変化することは事故につながるからです。
すべてが適用できるか分かりませんが、地上で使われている技術を使って、宇宙の信頼性を上げるのも一案になるのではないでしょうか。