往時宇宙飛翔物体 システム機械設計屋の彼是

往時宇宙飛翔物体 システム機械設計屋の彼是 宇宙blog

人工衛星の設計・製造・管理をしていた宇宙のシステム・機械設計者が人工衛星の機械システムや宇宙ブログ的なこと、そして、横道に反れたことを覚え書き程度に残していく設計技術者や管理者、営業向けブログ

【宇宙機と姿勢】人工衛星放出後の大きな衝撃の先にあるもの

宇宙と呼ばれる領域は微重力であって無重力ではない

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ロケットから放出された人工衛星はどうなるのでしょうか。

 

宇宙を探査する人工衛星は推進力により地球の重力外へ脱出する。地球でいうところの第2宇宙速度を超えることで脱出可能となります。

 

太陽系を脱出するためには第3宇宙速度を超えることで可能となります。

 

 

火星や金星といった惑星、月やエウロパなどと呼ばれる衛星にも重力は存在し、各衛星から脱出するためには、エンジンといった加速装置を使い、それぞれの重力を脱出する必要があります。

 

宇宙は無重力というが、国際宇宙ステーションや静止人工衛星である地球高度3万6千km離れていても地球の重力に捕らわれているのです。

 

太陽系を脱出するのに第3宇宙速度が必要なのも、太陽の重力に捕らわれているのです。

 

例えば、地球を高度200km以上からロケットなどにより放出された人工衛星は、少しずつ高度を下げているのです。

 

重力は地球上よりも低く、宇宙空間では大気も薄いため、摩擦が少なく、慣性の法則である等加速度直線運動のごとく、ロケットの速度のまま動き続けるのです。

 

推進装置をもつ人工衛星も、進行方向ではなく、進行方向とは垂直方向に向けることで高度を変え、軌道を変えているのです。

それは進行方向に加速するより、高度を上昇させる方が人工衛星の落下寿命を延ばすために利点が多いのが理由です。

 

すなわち、地球の周回軌道を飛行する人工衛星は単純に言うと滑空飛行を続けているのです。

 

鳥人間コンテストの滑空部門のごとく、落ち続けているのです。

 

参考

spaceinfo.jaxa.jp

ja.wikipedia.org


 

止まらない人工衛星

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ロケットから放出された後、人工衛星は慣性能率による自転と地球の重力や磁力などの外力により動きが定まっていきます。

 

外力はロケットからの放出時に発生しているスプリングの力も関わってきます。

 

外力が大きいと目的の方向にアンテナを向けることができずに通信ができません。

通信ができないと、地球上から人工衛星の場所も分からなければ、人工衛星の姿勢も変えることができません。

 

姿勢を変えることができなければ、観測センサーやカメラも目的の方向に向けることができません。

やがて何もせずに地球に落下するだけです。

 

そのためロケットに放出されたときには、フライトピンと呼ばれるスイッチを取り付けることで、放出後に主要な機器を起動させています。

 

通信を行うために、姿勢制御を行う機器を動作させたり、貯蔵された電力を補充させるために電力・電源系の機器を動作させたりします。

 

姿勢制御を行うには、姿勢を変更させる推進装置、フライホイールと呼ばれるコマが回転することで発生するトルクで回転軸方向に制御する装置、地球の磁力を利用して磁石あるいは電磁石を使う装置で対応することが多いです。

 

人工衛星は閉じた系なので、発生したエネルギーは保持されます。

ロケットからの放出時のスプリングの外力を逃がすには、反対の方向ベクトルを加えなければ、常にエネルギーを持ったまま回転していきます。

 

人工衛星自身の姿勢方向が分からない場合は、電磁力を使用すればわかりやすいかもしれません。

 

地球の磁力方向と進行方向までの距離が分かっていれば、フライトスピンで必要な機器を稼働させ、姿勢を制御することで、アンテナを地上方向に向けることは可能です。

もちろん、起動後の自動化ができる前提です。

 

自動化が進めば、地上からの姿勢制御の操作をせずに、人工衛星の方向を制御することも可能です。

 

そこまでいけば理想ですが、現状、人工衛星の状態データを地上局で受けて、必要であれば操作する程度に人が関わってきます。

 

人工衛星は、目的の軌道に入ったときに各機能が正常に動作できるか確認する試験フェーズがあります。

 

製品でいう出荷前検査試験と同じです。

 

ここで緊急脱出の稀に発生するかもしれないが、再現すると人工衛星全体が喪失してしまうかもしれない機能以外は確認します。

もちろん、人工衛星としての最低限の機能を確認する場合もあります。

 

その差は人工衛星を使用するあるいはユーザーの要望次第で、素早く使用したい、期限が迫っているなどの理由があり、最低限の機能を確認する場合もあります。

 

出荷前検査試験でどこまで確認するかはプロジェクト次第です。

 

軌道上での実績回数が少なかったり、初回打上げだったり、長期間使用する可能性が高い人工衛星の場合は、可能な限り機能を確認したほうが、長く軌道上で通信可能な人工衛星として運用することができやすいです。

 

ただ、打上げられた軌道の中では、一か月未満で大気圏へ突入し物理的に消失してしまう人工衛星もあります。

そんな人工衛星の中にはすべての機能を確認せずに、優先順位をつけて試験することが大切です。

 

短時間で最大の効果を得るように考えて試験計画を立てることが求められます。

 

また、実証したい機器の機能に注力したシステムを構築するというのも一つの手段となります。

 

参考

 

fanfun.jaxa.jp