人工衛星のシステムインテグレーション
人工衛星を組み立てた後に、組立後の試験を実施します。
それまでは、人工衛星に搭載する機器の個別の単体の試験を実施しています。
このあたりが人工衛星製造におけるシステムインテグレーションと呼ばれたり、呼ばれなかったりする所以なのかもしれませんね。
自動車などの製品も同じなのですが、エンジンやハンドル、ブレーキなどの機器は個別で試験を実施し、試作という形に自動車として動かせるレベルの車体で試験する完成検査のイメージになります。
システム試験とも呼ばれますが広義的な意味を持ちます。この試験の中にはインテグレーション試験や受入れ試験という意味を含んでいることもあります。
明確な定義は、開発プロジェクトごとに定義されているため、どれが正しいというわけでもなさそうです。
初めてインテグレーションを行い、随時、試験をしていくのですが、インテグレーションをして初めて気づくことも多いと思います。
回路基板の差し込み先間違いや、姿勢制御機器は複数の同型の機器を人工衛星に搭載するさいに極性(機器の方向)を間違うことも発生します。
さらには接続先のコネクタを間違えたりすることも発生します。
コネクタの差し間違えはもとより、差し込み間違いも発生します。
これらをシステム試験内で確認していきます。
おそらく、これは今まで人工衛星は量産機ではなく、特注品であったため、製造マニュアルを1基毎に作成しているということもあったのかもしれません。
すべてを組み上げてからの試験というのは、時間を短縮できるポイントですが、プロジェクトの方針によっては非常に難しい時もあります。
試験で不具合が発生した時に、どこまで立ち戻るのか。あるいは立ち止まらず進めるのか、プロジェクトのスケジュールによります。
試験計画を立てるときには、どこまで立ち戻れば、あるいはどのような短縮試験を実施すれば、過去の試験の成立性を保てるのか並行して考えたほうがいいかもしれません。
もちろん、ある程度の人工衛星の量産化が進めば、試験数も減らすことができると思います。
システムインテグレーションは、機械的に問題ないか確認するタイミングであり、機械系の山場の一つです。
ロケットインタフェースは取り残される
機器の取り付けの後、人工衛星を組み上げ、すべてのシステム試験が終わった後に、ロケットのある射場施設まで輸送します。
ロケットの射場設備で待ち構えているのは、インターフェースの結合になります。
ロケット側から提示されたインターフェースは、文書/データで提示される場合もあれば、結合サンプル品の提供が貸し出される場合もあります。
人工衛星とロケットの位相間違いにより想定と違う方向に取り付けられるしかなくなったり、搭載する分離機構にサイズ違いにより物理的に接続できなかったりします。
ロケットとの結合直前にそのような失敗を起こさないためにロケットのインタフェース管理文書を確認するようにしましょう。
ロケット側と人工衛星側とで調整する機会があれば十分に確認するようにしましょう。
人工衛星開発をしていると、プロジェクトとしては軌道上での成立性に注視していきますが、機械系ではこのインターフェースにも力を入れていきます。
したがい、プロジェクトではありがちかもしれませんが、他の担当者が何をしているか分からないという事態に陥ります。
機械系の最たるものが、ロケットとのインタフェースになります。
すなわち、機械系が気を付けていなければ、設計として取り残されてしまうことになるのです。
このロケットとのインタフェースの結合も機械系としての山場の一つです。
参考
Rocket Lab
Vector Space Systems
Firefly Aerospace
振動が山場、その次が機構品。機械系は最初にすべてが終わる
ロケットにより振動条件が違います。
さらに、分離機構によって衝撃条件も違います。
ロケットに限らず、振動は重い方が振動しにくいのです。
振動しにくいというより、大きく振動しないのです。
軽いものは低周波で振動し、変位量(動き幅)としても大きいです。
重いものは高周波で振動し、変位量(動き幅)としても小さいです。
人工衛星で気を付けるべき周波数は、結合対象であるロケットの周波数です。
ロケットと人工衛星の周波数同じ、あるいは近い場合ですと干渉による共振が起こり、動きのエネルギーが増幅されます。
そのため、人工衛星とロケットは高周波域、低周波域と別々の方向に寄らせることが多いです。
さらにロケット側は、搭載質量に余裕があれば、ダミーマスあるいはカウンターウェイトと呼ばれる調整用の重りを使い、人工衛星に致命的な周波数帯を回避させることも可能です。
この方式を利用して、JAXAでは小型副衛星を搭載しています。
メインの人工衛星からすれば、ロケットの重さが重くなることは、打ち上げ時の振動がロケットに吸収されるため、条件が緩和されます。
重い質量を乗せることで振動条件を緩和させるのは、地震の振動環境を低減させる動吸振器/マスダンパーと同じ理屈で低減させます。
ロケットで打ち上がった後に、展開機構の起動で機械系のリスクのあるフェーズは終わります。
展開機構の起動も、初期フェーズと呼ばれる人工衛星の最初の状態チェックや慣らし運転の時に完了します。
他の担当者はそのあとの状態チェックや運用で人手が必要になるのですが、機械系は大抵がここで完了してしまうのです。